笑顔の破壊力 lv.74
3体の魔人がこちらを見ている。
「はははっ。レイルちゃんは判断が早いね。戦い慣れしてるよ」
ゼンが楽しそうに言った。
「こんな状況は、本で何度も見ていたので……ですが、2発目が遅れてしまいました。すみません」
私は悔しかった。腕しか持っていけなかった。
「レイル様が、わたくし共が相手にする魔人の腕を塞いでくださったので、わたくし達でも魔人に勝つ可能性が上がりました。なので、何も謝る事はありません。むしろ感謝していますよ」
ダンが顔に笑顔を張り付けながら言った。
「あいつら、やる気満々って感じだな。俺らに勝つ気しかない感じだぜ」
アークは緊張しながらも、嬉しそうに笑っている。
どうやら、こちらも戦闘狂の集まりらしい。
ピリピリと張りつめた空気が漂う。
ああ……最高にワクワクする。
ドッカーーーーーンッ!!
魔人がいる場所で物凄い爆発が起きた。
「ひゅー。レイルちゃんやるねー!」
ゼンはこちらを見て目を輝かせた。
「開戦の合図ですか。流石はレイル様です」
ダンはフッと笑って言った。
「じゃあ、やってやろうぜ!」
アークから緊張が消えている。
嬉しくて、嬉しくて、眼鏡を外しているのを忘れて笑ってしまった。
魔人は3体共今の爆発には巻き込まれていないらしい。
照準を合わせていない、事故だったのだから仕方がないが、少し悔しい。
「なんだあ? なんであんなでけえ爆発が起こんだよ。あんな飛び道具使いと俺は相性がわりい。イシス、その爆発起こす奴はお前がやれ」
ジェットがイシスへ大きな声で命令した。
「えーボクがですか? あんなに大きな爆発に取り込まれたらボク消えちゃうじゃないですか」
イシスが無表情で言った。
先程から気になっていたが、イシスには表情がない。そのくせに、話し方には表情が見え、そのアンバランスさが不気味に思える。
「取り込まれたらじゃなくて、巻き込まれたらなんだろ? 爆発に当たらなければ良いんだろ? 余裕なんだろ?」
グランがイシスに言った。
「先手必勝……だよね? ダン行くよ!」
そうゼンが言うと、ダンはニヤッと笑い頷いた。
ゼンが指をパチンと鳴らすと、2人はグランの後ろにワープし、ダンが背中に剣を突き刺した。
「うぐぐぐ……グランの後ろから刺されてるんだろ? なんでなんだろ? じゃあ、グランもやるんだろ?」
グランはそう言うと、フオオオオオオッという音を立てながら、大きく息を吸い込んだ。
みるみる身体が膨張し、ダンの剣が抜けた。
神力での攻撃では無かったからか、赤い血が少し流れている。
「魔人の血も赤いんだ……」
思わず声が出た。
「チクっとして気持ち悪かったんだろ? いきなり突き刺すだなんて礼儀がなってないんだろ?」
グランは怒った様子で言った。
「まさか、剣が押し出されてしまうとは……突き刺すのではなく、削らなければいけないかもしれません。これは少し手こずりそうです」
ダンが悔しそうに言うと、剣の形状が変わり、刺々しい大きなヤスリに変わった。
再び、ゼンが指をパチンと鳴らすと、ゼン・ダン・グランが少し離れた位置に移動した。
「あいつら素早いじゃねえか。ノロマのグランにはきちいかもしれねえな。俺があの2匹をやるぜ」
ジェットがゼンとダンに向かい走り出そうとした途端、
カキンッ
アークがジェットの前に立ち塞がり、聖剣で斬りつけた。
だが、ジェットはそれを右腕で防いでいる。
よく見ると、ジェットの腕が刃物のように変形していた。だが、所詮は魔人の腕だ。なぜ神力を纏う聖剣で腕が斬れないのか……。
「はっはっは! お前如きの剣を止めた事が不思議か? この腕は俺の腕であり、俺の腕じゃねえんだよ! クソ虫が。わかったら黙って死んでろ」
ジェットは煽りの天才だ。口が悪すぎる敵のテンプレと言っても良い。流石に本物を見ると感動する。
アークはここまで強い言葉を浴びた事がないようで、驚いた顔をしている。
人生で、このような発言をする者と出会う事はそうそう無いのだから当たり前だ。
「君はなんでそんなに口が悪いんだ? そんな言葉を投げかける意味がわからない。何にイライラしているのかも俺にはわからないが、一旦落ち着けよ」
アークが憐れみを込めた声で言った。
敵を目の前にしているが、目を合わせないよう目からはしっかりと視線を外している。流石に学習したようだ。
アークにも煽りの才能があったようで、ジェットの怒りが増していくのを感じる。
「おい! イシス、まずこいつを殺すぞ。やれ」
ジェットがイシスに命令した。
「はーい。ジェットさんは人使いが荒いなあ」
と言いながら、イシスは右手を上にあげ、アークに何かを投げようとしている。
やっと、私の番だ。
「させるか」
私は照準をイシスに合わせ笑った。
ドッカーーーン!
「おおお! 無駄が入りまし……た……ん?」
爆発の勢いで体制を崩し、倒れたイシスが起き上がろうとして、言葉に詰まる。
「無駄じゃなくて邪魔なんだろ? イシスは言い間違いが……イシス、また右足が散歩に行ったんだろ?」
グランがイシスにツッコミを入れるが、距離があるのに、何故か声がこちらにまで聞こえる。
「そのまま帰ってきてくれませんかねー。吹き飛んだら何故か復活できないですし、ボク片足じゃ上手く歩けないです」
イシスが言うと、
「復活じゃなくて回復なんだろ? 片足じゃ歩けなくて当然なんだろ? さっき拾ってた石を捩じ込むんだろ?」
グランはゼンとダンの2人と向き合いながら、イシスに助言した。
「ああ、そうでした。ボクは養分達の石を沢山持っているんでした。では、お言葉に甘えて」
イシスが持っていた袋のような物から、石を取り出そうとしている。
私がイシスに向かって笑おうとした瞬間、
「レイルちゃん!」
「レイル様!」
ゼンとダンが同時に叫ぶ声が聞こえた。
声の方を見ると、小さな黒い球が沢山浮かんでいる。それに触れると何かあるのだろう、2人は物理結界を張り対策していた。
その隙をついて、イシスに攻撃しようとする私に、グランが何かを飛ばしてきたようだ。
複数の弾丸のような、黒い石のように見える。
私はそれを避ける事しか出来ず、イシスの回復を許してしまった。
「グランさん、ありがとうございます。右足が帰ってきてくれたので、あれと戦います」
イシスの言う『あれ』とは私の事のようだ。
「誰が『あれ』だよ! 俺が相手してやるよ!」
アークが物凄く怒っている。
「ああ? お前の相手は俺じゃねえのかよ。虫ケラが俺を放置して動ける訳ねえだろ、このグズ」
相変わらずジェットの煽りは凄まじい。録音したい。
「みんな離れてるのに、声がちゃんと聞こえて変な感じ……」
私が呟くと、
「どれくらいの範囲かわからないけど、風魔法で声が届きやすくなっているようだよ。これはお互いにとって、味方と話せるメリットがあるけど、相手にも筒抜けだから良いとも悪いとも言えないね」
ゼンの声がはっきりと聞こえる。
魔人側が仕掛けた魔法らしい。向こうも同じだとしても、皆の戦況を把握出来るのはありがたい。
「へえ、そんな魔法もあるんですね。魔法は便利で良いな」
そう言ってゼンの方をチラッと見ると、ダンが白い毒の霧を発生させた。すると、黒い球が霧の中に吸い込まれ、ジュワッと溶けた。
向こうは何とかなりそうだ。
「何よそ見してるんですか? 片手でボクを倒せると思わないでくださいよ」
イシスが、こちらに向かい歩いてくる。両手の黒い爪が伸びている所を見ると、あれで何かをするようだ。
だが、それを見たがってはならない。
「片手じゃなくて、片手間だよね? まあ、片手でも倒せてしまうかもしれないけど」
そう言って私は、イシスを指さした。
「何ですかそのポーズは。目に障りますね」
イシスは怒っているようで、表情のない顔から怒りが滲み出した。
「目に障るじゃなくて、癇に障るかな。勉強してから出直してよ」
私は左目を閉じ、右目でイシスに照準を合わせた。
「あー可笑しい」
私は今満面の笑みだろう。
ドッカーーーーーーーーン
イシスに撃った神力が爆発する音が聞こえた。




