笑顔の破壊力 lv.73
あの3体の魔人はこちらを見ていない。
黒髪のジェットという魔人は、先程同胞の体内から抜き取った魔力石をバリバリと食べている。
ツインテールのイシスと呼ばれていた魔人は、ポリポリと齧り、ぽっちゃりした魔人は魔力石をそのまま飲み込んでいる。
「こんなに強そうなのが残ってるのかよ……」
アークが頭に手をやり言った。
さっきまでの魔人は何だったのかと思うほどの圧倒的なオーラ。
これと戦うのか……。
「相手の能力はわかりませんが、全力を出して勝てるかどうかの相手だと思います。もし、わたくしに何かあっても手を止めず、自身を守る事を優先して下さい」
ダンが全員に向かい言った。
その表情には覚悟が滲んでいる。
そう言うのも無理はない。今まで読んできた本でも、こういう状況で登場する敵は強かった。
……だから何だ。
「ダンに何かが起こるなら、助けるに決まってるじゃないですか。確かにあの3体には圧倒的なオーラがあります。でも、それが負ける理由にはなりません」
私は自分に言い聞かせるようにハッキリと言った。
すると、皆の表情が変わった。
「さすが英雄だな。俺でも3体のオーラに敵わないと決めつけてた、全力で挑むぞ」
そう言って、アークが笑った。
それを聞いて、ゼンも笑い出し、
「ぼく達は始まる前から負けていたんだね。泣き言は全てを出し切ってからだ」
と言って、力強い目でこちらを見た。
「ありがとうございます。わたくしは怖気づいておりました。お恥ずかしい限りです。何が何でも勝つ気でかかります」
ダンが言った。
「じゃあ」
と言って、ゼンが拳を前に突き出した。
それを見て、私達は4人で向かいあい、円になって、中心で拳を軽くぶつけ合った。
「こういうの憧れてたんだよね」
私が言うと、3人は優しく笑った。
「奴らがどんな技を使うのかわからないけど、アークは黒髪の魔人を、レイルちゃんは紫の髪のツインテールを、ぼくとダンで大きい魔人を相手にする、で良いかい?」
ゼンが言った。
私とアークは神力という、確実に相手を倒せる力があるが、あの魔人に対し、ダンの毒が効くかはわからない。
ゼンのワープが必要になるかもしれない。
「それで良いと思います。1対1で戦えるなら気も散らなそうですし、ありがたいです」
私はゼンに言った。
「絶対に目を合わせない、絶対に目を合わせない、絶対に合わせないぞ」
アークがボソボソと、自分に刷り込んでいる。
「とりあえず、奴らがこちらを見る前に、『核』がどこにあるか見ます」
私は左手で丸を作り、左目で覗き込んだ。
3体が纏う色は、黒と紫が混ざり合った不気味な色だった。
『核』は、3体共に左胸。魔人になると『核』の位置が左胸に固定されるようだ。
「『核』は先程の魔人同様、左胸です。『核』の色が白に近いので、気を付けてください」
黄色の魔人は大した事が無かった。この3体が白といっても、あまり期待が出来ないかもしれない。
「後は、こちらから仕掛けるか、仕掛けてくるのを待つか……ですが、どう致しますか?」
ダンが魔人を見ながら言った。
相変わらず、ボンッボンッボンッという音を立て、不完全な魔人の『核』を取り、魔力石を口に運んでいる。
「奴らがこれ以上、魔力石を食べて強くなる前に倒せるなら、それが1番じゃないですか? 先手必勝です」
そう言って私は眼鏡を外した。
そして、右腕を上げ、左目を閉じ、右目で照準を合わせる。
やっと強そうな魔人と戦える。
心臓の音が聞こえる。嬉しくて嬉しくてすぐに笑ってしまいそうだ。
魔人の群れの中でも、出来るだけあの3体のど真ん中を指さす……。
「ガッカリさせないでよ」
私は笑った。
ドッカーーーーーーン!!
『ぎゃああああああ』
叫び声が聞こえる。やったか。
舞い上がった砂がおさまり、3体のシルエットが見える。
「すみません。1体もやれませんでした」
私が言うと、
「レイルちゃんでやれないなら、誰もやれなかったよ」
ゼンがフォローを入れてくれた。
「不完全な魔人は全部消えてるな」
アークが言った。
悔しい。でも、嬉しい。
簡単に倒れないという事は、それだけ神力を撃てるという事だ。
神力が直撃した辺りには、3体の魔人が倒れている。
「いってーな。人が養分摂ってる時にいきなり何だよ」
黒髪のジェットという魔人が立ち上がった。
ジェットは神力が当たったらしく、左腕が消えている。
「おお、ボクの右足が無いですね。散歩にでも行ったのでしょうか」
ツインテールのイシスが片足で立ち上がる。
見た目は女の子に見えるが、一人称が『ボク』らしい。
ボクっ子なのか、実は男の子なのか、どちらにしても、キャラが立っていて羨ましい。
最後に、ぽっちゃりした魔人が立ち上がった。
頭が無い。どうやら頭が吹き飛んだようだ。
3体、全員がどこかを失っているが、血が出る事も無く、ただその部位が『無いだけ』できれいだ。
『核』に損傷を与えられなかった事で、本体まで消す事は出来なかった。
「なんだ? 回復しねえじゃねえか。 おい、イシスどういう事だ?」
ジェットが言った。
イシスは、こちらを見て、「うーん」と少し考える素振りをしてから、
「恐ろしく、あの中のどれかが放った何かは、ボク達の回復を妨げる効果があったのでしょう」
と言ってこちらを指さした。
何かとは神力の事だろう。魔人が神力で傷つくと、その箇所は回復出来なくなるらしい。
「恐ろしくじゃなくて恐らくだろ。面倒くせえ言い間違いばっかしてんじゃねえよ」
ジェットが煩わしそうに言ってから、
「グランは何やって……頭吹っ飛ばされてんのかよ」
グランとは、ぽっちゃりとした魔人の事らしい。
ジェットは、グランの近くに散らばった黄色の魔力石を右手で拾い、グランの頭がついていたであろう断面にねじ込んだ。
すると、グランの首からニョキニョキと頭が生えた。
「はあ……回復ができなかったんだろ? ジェットとイシスもなんだろ? グランの頭が消えてしまったから、助けてくれたんだろ?」
話し方の癖もだが、自分を名前で呼ぶ所がルルと被っていて、絶妙にムカつくキャラだ。
「助けたんじゃねーよ。お前がいねえと、イシスのめんどくせえ話し方に俺が反応しないといけなくなんだよ。ふざけんなデブ」
ジェットは物凄く口が悪い。話したくないタイプだ。
「嫌な個性だね。魔人が人間みたいに話しているよ。ぼく達を相手にもせず、やたら声が大きいのも気に触る」
ゼンが苛立った様子で言った。
「先程のレイル様の攻撃により、こちらを気にしているはずですが、反撃もありませんし、どういうつもりなのでしょう」
ダンは魔人を警戒し、直接目を合わせないよう横目で見ているようだ。
「魔人が、神力で受けた傷は回復出来ないって言ってましたね。傷口に魔力石を埋め込んで、無理矢理回復したように見えたんで、魔力石がある限り、無限に回復してきそうですね」
私は、魔人が簡単に倒されない事を喜んでいたが、それを皆に悟られないよう、できるだけ声のトーンを抑えた。
「回収しなかった赤い魔力石が無くなってたのは、全部あいつらが食べたのか……」
アークは混乱しているようだ。
「今レイルちゃんが倒した不完全な魔人の魔力石で、あの3体は回復するだろうね。何とかして、奴らの足元にある魔力石も回収したい所だ」
ゼンが言うと、ジェットが今の爆発で散らばった魔力石を右手で1つ拾い、無くなった左腕の断面に突き刺した。
すると、左腕がニョキニョキと生えた。まるで元からあったかのように違和感がない。
イシスも魔力石を拾い、自身の足に押し付けると、完全に元に戻る。
まずい、目を奪われてしまった。
私は常々変身ものを読んでいる時に、『なぜ、変身している間に倒さないのか』を考えていた。
今も、魔人が回復しようとしている間に神力を撃ち込めば良かったのだ。
「間に合うかわからないけど」
私は照準を合わせ、3体に向かって笑った。
ドッカーーーン!
『うわあ!』
グランの声だ。
舞った砂がおさまり、神力が当たったであろう場所を見ると、右肘から下を失ったグランがいた。
後の2人は後ろに下がり、回避したようだ。
グランが足元の魔力石を拾おうとする所にまた神力を撃ち込む。
ドッカーーーン!
これは避けられた。
「ジェット、イシス、石が取れなくて回復できないんだろ?」
グランが回避した2体に助けを求める。
「グランさんは、そのような腐った身体で、よく今の魔法を避けられましたね。ボクは驚いてしまいました」
イシスが言った。この魔人はわざとなのかわからないが言葉の選び方が独特だ。
「腐ってはないんだろ? 腐ったじゃなくて太った身体でなんだろ? グランは腕の回復がしたいんだろ?」
こちらは、ふざけているとしか思えない話し方をする。
「もう腕は諦めろ。とりあえず、あのクソ雑魚共を殺すぞ」
ジェットがこちらを見て言った。
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