笑顔の破壊力lv.72
「本当にぼくはダンの所に行くからね? やっぱりいて欲しいって言っても聞いてあげられなくなるよ?」
ゼンが言った。
私の走るスピードに合わせて、ワープでチョロチョロと着いてくる。
その間にも魔人は現れる。
ゼンの絡み方が鬱陶しくて苦笑いになり、ギリギリ倒している状態だ。
「いいから早く行ってください。ゼン様がいると気が散って上手く笑えません」
私が言うと、
「確かにレイルちゃんの力は、感情に依存してしまうから、集中しないと発動しにくいかもしれないね」
とゼンは意外にも理解を示した。
そして、ニコッと笑って、
「じゃあ何かあったら呼んでよ。すぐに飛んで行くから」
と言ってワープで消えた。
やっと1人になれた。一度立ち止まり、気持ちを落ち着ける。
すると、すぐに魔人が私を囲むように出現し、私を掴もうと手を伸ばす。
どの個体もニコニコと笑っていて気味が悪い。
私は魔人の声を聞かないよう、高くジャンプし、奴らが口を開く前に神力を撃ち込む。
ドッカーーーン!
そして落ちた魔力石を腰袋にしまった。
ゴウカの中心に着いた。何もない砂漠が広がっている。ここにはどんな魔人がいるのだろう。
しばらく周囲を見回していると、
30代前半だと思われる女性と、6歳位に見える男の子がフラフラと私の前に現れた。
私は目を逸らす。
「助けて下さい……ここに迷い込んでしまって……子供だけでも、どうか連れて行ってもらえませんか?」
女性はか細い声でゆっくりと話す。
その間、男の子は泣くのを我慢しているようで、小刻みに震えているのがわかる。
「お母さんがこんな所に迷い込んでしまったばかりに、ごめんね」
そう言って、女性は男の子を抱きしめる。
私は眼鏡を外した。
「へえ……迷い込んで砂漠の中心まで歩いてきたんですか? 引き返せば森があったでしょう。どこから来たのか聞きたい所だけど……」
そこまで言って私は2人に向かって笑顔を向けた。
ドッカーーーン!
綺麗な黄色の石が落ちる。
「魔人の能力を試すなって言われてるから、付き合ってあげられないんだよね」
私は呟きながら魔力石を拾った。
見た目は完全に人間だった。弱々しい女性と強がる子供。妙にリアルな設定だ。
だが、耳の後ろのツノ、ギザギザに尖った歯、黒い爪。
それらの魔人の特徴を隠していなかった。
もし、隠していたとしても、何もない砂漠の中心に身一つで現れる親子は怪しすぎるのだが……。
まさか魔人が同情を誘い、罠を張るとは思わなかった。
これは嵌る人は嵌ってしまう。
魔人の特徴は顔を見なければわからない。これは目を合わせるリスクがついてくる。
1人で対峙した場合、どう対策するべきか。
そもそも、『核』から出現する魔人に、大人や子供などという年齢差は存在しないだろう。
子供に見える個体でも、強力な黒魔法を操れると思っておいた方が良い。
魔力の純度や擬態の完成度が上がる程、口から放つ黒魔法以外の技も使ってくるかもしれない。
魔力石を拾いながら、そんな事を考えた。
拾った魔力石を見ると、黄色で綺麗に透けている。
ああ……今の親子は強かったのか……。
勿体無いことをした。
擬態のクオリティが上がり、声もちゃんと見た目に相応しいものだった。
あの女性と子供は、ゴウカの記憶の中の人だったのだろうか。
もし、そうだとしたら、余計に私は奴らを倒さなければならない。
すると、私の背後から、
「……どうして? どうして助けてくれなかったの?」
子供の声。
「こわかったよ。うえーん。お母さーん」
泣いている……うるさい。
「人を馬鹿にしないで」
ドッカーーーン!
今の私は、悪魔のような顔をしているかもしれない。
怒りながら笑っている。
魔人は吸収した魔力から、記憶を引き出して話していると聞いた。
ならば、吸収した魔力の持ち主の口調や仕草も、そっくりに使えるのだろう。
人間の弱みにつけ込み、嫌な光景を見せる。
どこまで私を怒らせれば気が済むのだろう。
「レイル! 大丈夫か!」
アークの声がするが、魔人かもしれない……次の攻撃に備え、一度深呼吸し表情を戻す。
そして、声がする方を見ると、アークがいた。
私は眼鏡をかけ、アークと目を合わせ、
「本物だよね? 魔人は大切な人の声で話すって言ってたから疑っちゃったよ」
と言って笑うと、アークの顔が赤くなった。
「何言ってるんだよ。俺は散々魔人に振り回されたってのに……次は本物かよ……」
アークは顔をおさえてボソボソ言っている。
「アークの方はもう終わったの?」
こちらに来たという事は、そういう事だろうが一応聞いてみる。
「何でか、左側にはあんまり魔人がいなかったんだよな。でも、レイルが神力を撃ってる音は聞こえるから、こっちに来た方が役に立つかと思ったんだ」
アークは少し残念そうに答えた。
私はダンとの話の中に出てきた、魔力の質と量について、アークが最後だった事を思い出したが、口には出さなかった。
「そうなんだ。こっちは移動する度に出てきた……」
話している途中に、魔物が3体、私の背後から出現した。
「レイル!」
アークが即座に3体を切り刻む。見た目は人間と変わらないのに、躊躇いがない。
剣を振る回数が多いからか、シュッという音が何度か聞こえた。
やっぱりアークはかっこいい。流石勇者だ。
「ここは中心に近いからか、擬態のクオリティが高いな」
アークが、魔力石を拾いながら言った。
「アークは擬態が上手い魔人を斬るの、情が湧いて躊躇うかと思ってた」
私が驚きながら言うと、
「こんな所にいきなり現れる人なんていないだろ。それに、魔人はわかるんだ……上手く言えないけど、禍々《まがまが》しい感じがする」
アークは、自身が持っている魔力石を見ながら言った。
「おい! お前達! 子供がこんな所で何してるんだ?」
中年の男性が声をかけてきた。
「いや、俺達は……」
アークが固まった。この魔人と目を合わせたらしい。
私は眼鏡を外し、魔人を見て、
「アーク、簡単に引っかかったらダメだよ」
と言って笑った。
ドーンッ!
アークに当たらないよう、少し笑顔を抑えて神力を撃つと、魔人は魔力石に変わった。
「ごめんレイル、ありがとう。魔人ってあんなに普通に話すのか? 俺がいた所はレイ……知ってる人の声で呼び掛けるくらいで、あそこまで自然じゃなかったぞ」
動けるようになったアークが、魔力石を拾い、動揺した様子でこちらへ来て言った。
「魔人はわかるって言ってたから、騙されないと思ってた」
私は眼鏡をかけ、アークに向かい言った。
「あまりにも自然だったから、反射的に返事をしてしまったんだ。もし1人だったらやられてたよな。ごめん気をつけるよ」
どうやら、中心にいる魔人は他とレベルが違うらしい。
だが、私は本気になった魔人と戦っていない事もあり、強いというよりは、狡賢いという印象だ。
すると、突然空気が変わった。
「ちょっとやばそうな感じがするね。2人は大丈夫?」
ゼンとダンがこちらにワープしてきた。
「大丈夫ですけど……この張りつめた空気はなんなんでしょう」
私はなんとなくゴウカの中心を見て言った。
すると、中心に擬態が不完全な、背が揃った魔人が数十体出現した。
「なぜ今あの魔人なのでしょう。あれだけ再現度の高い魔人の後で、不完全な魔人が出ても倒されるとわかりそうなものですが」
ダンが不思議そうに言った。
『元気デスカ?』
『元気デスカ?』
『コンニチハ』
『コンニチハ』
『オ待タセシマシタ』
『オ待タセシマシタ』
魔人はその場に留まり、口々に同じ言葉を繰り返している。
これがさっき言っていたやつか……確かに不気味だ。
「奴ら何で動かないんだろうね。誰かが意図的に魔人を出現させて操っていたりするのかな」
ゼンが状況を整理するように言うと、
ボンッボンッボンッ
という音と共に魔人が魔力石に変わっていく。
「はっはっはっはっ! 養分が喋ってんじゃねえよ!」
黒い髪の若い男が、素手で魔人の『核』を抜き取っている。
「ジェットさん、やめましょうよ。はしたないですよ? 体内を素手で触るなんて、考えただけでゾクゾクします」
ツインテールの少女が黒い髪の男に注意する。
「ゾクゾクじゃなくて、ゾクっとします。なんだろ? 言葉の間違いに気をつけるんだろ? イシス」
ぽっちゃりとした、穏やかそうな男がツインテールの少女に指摘をした。
「まずいね……あれはさっきまでとは桁違いだよ」
ゼンが緊張したような声で言った。




