笑顔の破壊力 lv.70
「どういう事だい? ぼくのおかげで魔人が進化した?」
ゼンは動揺を隠しきれない様子だ。
先程話し合った事を、ダンがゼンに話すと、
「まさか、あの攻撃が吸収されていたなんて。ぼくの質も量も卓越した魔力が、魔人に供給されたとなると……大変な事になるよ」
ゼンが深刻そうに言った。
殆ど自慢にしか聞こえなかったが、実際の所、どれ程魔人の養分になっているのかはわからない。
「ゼンの魔力が、魔人の養分になったからといって焦る事はないよ。ゴウカに眠る魔力量を考えると、ゼンの魔力なんてほんの些細なものなのだから」
いつの間にか戻ってきていたヴェルデが、笑顔でゼンに言った。
ゼンを励ましているつもりのようだが、それを聞いたゼンは、「ははは、そうだね」と力無く笑った。
卓越した魔法使いとしてのプライドが傷ついたらしい。
「あっ!」
と近くにいた部隊の隊員が言ったかと思うと、ゴウカの至る所で魔人が出現していた。
数が先程の比ではない。数十体はいる。
「大神官様のおかげで元気です! と魔人共の歓喜の声が聞こえてきそうですね!」
ルルがニヤニヤしながら言った。
「ルル様は本当に人をからかうのが好きだよね。ぼくはもうそんな失敗はしないから見ててよ」
ゼンが言うと、ルルはニッと笑った。
「皆様。魔力回復用のポーションを飲んでおいてください。先程と少し状況が違うようです。用心してください」
そう言ってダンは、ゴウカにいる魔人を見た。
先程と同じ、身長が一定の個体もいるが、子供や女性は低めに、男性は高く、老人は腰を曲げて小さくというように、実際の人間と遜色ない擬態をしている個体が大多数になっている。
私達は全員ポーションを飲んだ。
どれだけ強くなってくれたのだろう。どこまで進化してくれたのだろう。ワクワクが止まらない。
自然と頬が緩む。
そんな自分を深呼吸で落ち着ける。
「ここからは全員でかかりましょう。ダン、一緒に来てくれますか?」
私が聞くと、
「勿論です。お役に立てるよう尽力いたします」
ダンがいつもの笑顔で言った。
「あの魔人達、また能力を増やしてるんじゃないだろうな。どこまで進化するんだよ」
アークは顔を強張らせているが、口元は笑っている。
「アーク。この数だと『核』を見ておいた方が良いんじゃない?」
私が聞くと、アークはニッと笑って、
「大丈夫だ。今の俺ならいける。これが数百でも負ける気がしない!」
と言って聖剣を鞘から抜いた。
私は笑顔で頷いた。
「ご主人様は木の上からの参戦で良いのではないですか?」
ゴウカに行こうとする私に、ルルが言った。
心配してくれているのだろう。
「ルル心配ありがとう。でも、ここからだと状況の把握が難しいから私も行くよ。さっきみたいに誰かが身動きを取れなくなった時にすぐに気付けるように」
私が言うと、ルルはショボンとして頷いた。
納得はしてくれたようだ。
「オルレア。ルルとヴェルデ様をお願い。何かあったら結界で守ってあげて」
私の言葉を聞いて、オルレアは悔しいのか、少し目に涙を滲ませながら、
「私はレイちゃんに背中を預けてはいただけませんが、せめて、レイちゃんが自由に戦えるよう、こちら側にいる方々全員を守ります!」
そう言って、両手の指を組み、祈るように『聖女の結界』を展開し、ダンの部隊を含む約300人を結界に入れた。
「やっぱりすごい……。オルレアのおかげで後ろの心配が無くなった。ありがとう」
と声を掛けると、オルレアは満面の笑みを見せてくれた。
オルレアに笑い返してから、隊員達の前に行き、
「万が一、私達に何かが起きて、魔人が『聖女の結界』を破り、こちら側に来たら、どうか、皆さんで止めてください。宜しくお願いします」
私は、できるだけ大きな声で部隊の人達に言った。
どうにもできない事はわかっていた。だけど、言っておかなければならない。自信はあれど、100%とは言い切ってはいけない。
私が今、この人達に言ったのは、何かあった時には命を捨ててくれ。と言う事だった。
すると、
「当たり前じゃないですか」
「任せてください」
「命をかけて守ります」
隊員達は笑顔で、でも真剣な声で答えてくれた。
私は微笑み、私を待っている皆に「お待たせ」と言って、結界が破れそうなゴウカの前に立った。
「じゃあここからは散ろうか。固まっていると、あの黒魔法で一気にやられてしまうかもしれないからね。ぼくは君達の様子を伺いつつ、タイミングを見てワープを使うよ」
ゼンが楽しそうに言った。
私達か頷くとダンが、
「レイル様は、地中の『核』を見つけ次第、破壊してください。皆様、先程の『声』にはお気をつけください。あなた方の大事な人はこんな所であなたを呼びません。アーク様は……ご活躍を祈っております」
と言って全員と目を合わせた。なぜか最後だけ歯切れが悪かったのが気になったが、誰も何も言わなかった。
私は、ダンに向かって小さく頷く。
もし、私が『声』を聞く事になったら、誰の声なのだろう。
父か、母か、それとも他の誰かか。
大切な人が増えた事を再認識し、こんな時なのに嬉しくなった。
「レイルちゃん嬉しそうだね。この状況で笑えるだなんて、頼もしい限りだよ」
ゼンが言った。
「大切な人の事を考えていると、なんだか嬉しくて」
私が言うと、アークが何かを言おうとしてやめた。
ゼンはニコッと笑った後、和んだ空気を引き締めるように、
「奴らには毒がある事を忘れないように。もし、攻撃を受けたら急いでぼくかオルレアの所に来る事。じゃあ行こうか」
と言うと、皆がゴウカを向いた。
「勝とう」
私が言うと、
「おう」
「もちろん」
「はい」
と3人の返事が重なり、アークが左に、ダンが右に一瞬で移動した。
「ぼく達も行こう」
そう言ってゼンが指をパチンと鳴らすと、私達はゴウカの中心のやや手前にいた。
ここでゼンがまた指を鳴らす。
「認識阻害をレイルちゃんにかけておいたから、魔人には気付かれないはずだけど、1度バレると効果が無くなるから注意するんだよ」
言い終わると、また指を鳴らし消えた。
どうやら、アークかダンの元へ向かったらしい。
目の前には沢山の『的』がある。何発撃てるだろう。
1発や2発じゃつまらない。
「楽しませてくれる?」
そう言って私は眼鏡を外した。これだけ近ければ照準を合わせる必要は無い。
私はただ、こいつらに向かい笑うだけで良い。
「はははっはははははは!」
ドッカーーーーン!!
目の前の魔人が黄色い魔力石に変わる。
進化したから何だ。早く止めて見せろ。
早く早く早く早く。
「きゃはははははははっはははは!」
ドッカーーーーーン!!
目の前にいた魔人がいなくなってしまった。黄色い魔力石が私の周りに散らばっている。
呆気ない。
魔力石を拾って腰袋に入れる。
魔力石を見てみると、先程見た物より少し透けているように見える。
透明度は魔力の純度が高いほど上がる。純度が高くても、質が良くても、黒魔法を放てなければ意味がない。
「人間の真似をする前に技を磨けば良いのに……」
私は呟いた。
そういえば、地中に『核』があれば破壊してほしいと言われていた。
左手で丸を作り、左目で覗き光る場所を探す。
何となく足元を見ると、光った。
やはり、『核』の扱いは生物で良いみたいだ。発生した時点で色が見える。
「……ここか」
私はその場で高くジャンプして、左目を瞑り、今自身が立っていた場所を指さし、右目で照準を合わせ笑った。
ドッカーーン!
砂が舞い上がった。
私は地面に足が付くと、『核』があった辺りに目をやる。
「あった」
綺麗な黄色の魔力石だ。透明度も高い。まだ魔人にもなっていないのだから、完全に『手付かずの魔力石』だ。
もしこの魔力石の持ち主が魔人化していたら、どれ程の強さだったのだろうか。
私はこの魔力石を腰袋に入れた。
アーク達の応援に行こうか、それとも、もっと地面の『核』を探そうか。
どちらがより楽しいだろうか。




