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笑顔の破壊力が物理的な破壊力!  作者: ぽこむらとりゆ


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笑顔の破壊力 lv.7

 異世界に来て、2度目の朝。


 眼鏡をかけて部屋を出ると、食べ物の良い匂いがする。ルルが朝食を作ってくれているようだ。


 リビングを通り過ぎ、洗面所で顔を洗った後、ダイニングへ戻り、私は席についた。


「おはよう。昨日の夜は何してたの?」


 とキッチンにいる、ルルに話しかけた。私はすぐに寝てしまったから、ルルがクローゼットで何をしていたのか気になっていた。


「ご主人様、おはようございます!昨日は遅くまで報告をしていたんですよ!ご主人様がお眠りになった後に、思話(しわ)でその日1日にあった事を報告する約束をしているのです!」


 と言い、ルルは敬礼した。


 ルルは、たまにルル以外の存在の話をする。これは深く聞いても良いのかわからない。ダメ元で聞いてみようか。


「誰に報告したの?」と尋ねると、

 

 ルルは、うーん。と少し考える素振りをしてから、


「ルルのお父様ですよ!」


 と笑顔で言った。

 

 ルルは生物ではないと言っていた。なのに、父親がいる。この場合、父親ではなく創造主のようなものなのか。


 朝食をトレーにのせて、ルルが私の前に置いてくれた。メニューはトースト、目玉焼き、カリカリに焼けたベーコンにサラダとヨーグルト。


 朝には最高のメニューだった。


「ありがとう、ルル。いただきます」


 と言い、目玉焼きとベーコンをトーストに乗せて食べる。


 これは、元の世界にいた時から大好きな組み合わせだ。朝から幸せを感じる。


「ルルがお世話係になってくれてよかった」


 と言うと、ルルが目に涙を溜めてこちらを見る。


「そんな事を言ってもらえるなんて、感激の極みです!確かにご主人様のお世話係になるには倍率が高く、苦労しましたが、ルルがこの手で掴み取ったお世話係の座はもう、誰にも渡しません!」


 ルルは立ち上がり、拳を握って言った。


 すごい熱量。


 倍率…ルルみたいな存在が他にも沢山いるのか。


 そういえば、ルルに聞きそびれている事があった。聞きたい事は山ほどあるが…。


「例の、『異世界に行く方法』には、身の回りのお世話をするメイドがついてくる、なんて書いていなかったけど、なんでルルがここに来ることになったのか教えてもらえる?」


 私は昨日ルルに聞き流された質問をもう一度した。


「ルルがご主人様を導くためですよ!」ルルが言った。


 やっぱり、私はこの世界で『何か』をしないといけないようだ。ずっと疑問に思っていたけれど、聞くと後悔するのだろうと思い聞かなかった。


 今も、ルルから決定的ともいえる発言が飛び出したが、まだ異世界に来て2日目で役割なんて(にな)いたくない。


 いずれ、心の準備ができたら、『導く』事について聞いてみよう。


 私は、「そうなんだ。上手くいくと良いね」と言ってこの話を終わらせた。


 食事が終わり、歯を磨いていると、ルルが鏡越しにこちらをじっと見ていた。私の歯磨きが終わるまで、一度も瞬きをしないのが怖かった。


「ルル。私に何か聞きたい事があるの?昨日も歯を磨いている時にずっと見てたよね」


 私は少し怒っている風に言った。


 そんな駆け引きが通じるわけもなく、


「この世界では歯を磨く文化が無く、ほとんどの種族が、魔道具で口内を洗浄しているので、ご主人様の歯磨きが珍しくてつい見入っちゃいました」


 ルルはえへっと言いながら、頭に手をコツンと当てた。


 そういえば第6の世界は、魔法が発達しているから、便利アイテムで豊かに暮らせる、というようなことも書いてあったっけ。


 魔法のある世界の便利アイテム……ぜひ欲しい。

 

 私は「今日出かける予定だけど、その魔道具ってどこでも買えるの?」とルルに確認すると、


「どこにでも売っています!どれくらいの期間使えるのかにより、お値段は変わりますけどね!」とルルは答えた。


「そうなんだ。昨日は家の周辺を確認することに時間を使ったから、家を出る前に、この国がどんな所なのかざっくりとで良いから説明してほしいんだけど、いい?」


 外出するにも、少しは情報を集めておきたい。


「お安い御用です!では、紙に書いて説明しますね」といい、ルルはどこからか紙とペンを取り出した。


 ペンは、ただの棒の先が尖っているだけの物で、どこにもインクらしきものは無かったが、ルルが紙の上を滑らすと、動きに合わせて文字が浮かんだ。


「それも魔道具!? インクにつけて書くのかと思っていたけど、何もしなくても書けるんだね」


 私は興奮ぎみに言った。


 見れば見るほど魔道具が欲しい。でも、これってボールペンとあまり変わらないような……。いやいや、そんな事を考え出したら負けだ。


「はい!これは、1本で紙にして30枚は塗りつぶせる程の魔力量を誇る、この国1番人気の文具『スライドペン』です! ちなみに、太さも調節できますよ!色を変える事は出来ないので、欲しい色がある場合は、別に買う必要があります。初めに言った通り、このペンはインクではなく、魔力が込められていて、その魔力がインクのような役割を果たしています!込められている魔力量によって、どれくらい使えるのかが変わりますよ!」


 ルルは手に持った『スライドペン』を空中に書くふりをしながら、得意気に言った。


 毎回細かい説明をしてくれて助かる。


「便利そうで良いね。話を逸らしてしまってごめん。国の説明を続けて」私はルルに言った。


 気になる事があるといちいち聞いてしまう。全然話が進まないのが申し訳ない。


「はい!では気を取り直して!この国の名前は、【オルカラ王国】といいます!王国というだけあって、王様がいて、王族、貴族もいます。人間以外にも色々な種族が暮らしているのもこの国の特徴です。【オルカラ王国】には、大きな街が5つあります、まず、王都である【イチノ】、今私たちがいるのは【ニライ】で、あとは、【サンチ】、【シーム】、【ゴウカ】と続きます」


 話しながら、ルルは紙に大まかな地図を書いてくれた。


 王都【イチノ】は、王国のど真ん中に位置し、イチノの周りを他の4つの街が囲んでいた。まるで、4つの街でイチノを守っているように見える。


 それにしても、この街のネーミングセンスが気になる。1、2、3、4、5って……。誰がつけたのだろう。


 今、私とルルがいる、【ニライ】は、地図でいうと王都イチノの右隣にある。今いる場所がどの辺かはわからないけれど、王都と隣り合っているならば、遊びに行くのも容易(たやす)いのではないかと思った。

 

 相槌を打つ私を見てルルは続けた。


「各街には、それぞれ特徴がありますので、1つずつ説明させていただきますね。まずは、【王都イチノ】ですが、イチノには何でもあります。無い物はほとんど無い、と思っていただいて大丈夫です。新生活もイチノに行けば全て揃います!次に、【ニライ】です。ニライは王都と違って自然が多く、いわゆる、田舎ですね。お店等も王都に近い側にはありますが、離れると殆ど無くなります」


 そう言ってルルは、地図上のニライをさしていた指を、サンチに置き換え、


「そして、【サンチ】ですが、サンチは、農業や酪農が盛んで、沢山の人が働いています、オルカラ王国でお金を稼ごうと他国から来る人達は、初めはサンチで働いて、余裕ができたら、王都のイチノで仕事を探す。というのが、常識になりつつあります。ですが、魔法が得意な方や、力自慢の方は、王都で仕事を探す事が多いです!【シーム】は、オルカラ王国で唯一、海に面している街という事で、漁業や貿易が盛んで、海産物が沢山とれます! とりあえず、この4つの街は色んな種族が平和に暮らしていて、他国からの評判も良い街になります」

 

 ここまで話し、ルルは意味深にこっちを見た。


 5つ目の街【ゴウカ】が入っていない……。絶対にゴウカは問題のある街だ。そして、ルルが私に何かさせるのはゴウカについてなんじゃないだろうか。ここまで聞いといて、ゴウカの事を聞かない訳にはいかない。


「5つの街の最後、【ゴウカ】の説明が無かったんだけど。4つの街の人々が平和に暮らしているということは、【ゴウカ】では、平和に暮らせないの?」


 と私が聞くと、ルルは、待っていましたと言わんばかりに、それがですね、と話し始めた。


「【ゴウカ】は、民家が立ち並び賑わいもある、平和な街でした。ですが、50年ほど前から魔物が現れるようになったんです。それから今まで、オルカラ王国はゴウカを含む全ての街に、結界が張られました。【イチノ】・【ニライ】・【サンチ】・【シーム】には外から魔物が入ってこられないように。【ゴウカ】には、魔物が中から外に出られないように。50年前にいた『聖女』により張られた結界を、最近、代替わりで新しく『聖女』になられた方が張り直しています」


 そう言って、ルルはゴウカに○をつけた。

 

 ここで1つ疑問が浮かんだ。


「魔法があるこの世界で魔物を倒さないのはなんで? こういう時は、例えば、冒険者や騎士団が動いて、魔物を倒して被害を食い止めるものじゃないの?」


 魔物といえば、剣と魔法で倒すもの。それが異世界での鉄板であり、異世界ものを読む上での楽しみの1つでもある。


 私が聞くと、ルルの表情が途端に明るくなった。


 しまった。これは、完全にフラグをたててしまった。そこまで知りたがるべきじゃなかった。まずい、話をどうにか()らさないと。


 私が頭をフル回転させている間にルルが口を開いた。


「実は……【ゴウカの魔物】には、魔法が効かないんです。物理攻撃も効きません。この世界のどこにもゴウカの魔物を倒せる人がいない状態なのです。聖女が結界を張って、魔物の進行を食い止めてはいますが、それもいつまでもつかわからない状態です」


 ルルは真面目な顔で言った。


 もうどうしようもない。


 話を聞くと完全に巻き込まれるのはわかっているけれど、仕方ない。


 両親から、『人の話は最後までしっかり聞く』と教え込まれているし、ここでルルの話を終わらせたら、両親に幻滅されてしまうかもしれない。


 私は、ルルとその周囲の思惑に巻き込まれる覚悟を決めた。


「ここまで言われるとさすがに勘づくよ。魔法でも物理攻撃でも倒せない魔物を、私の『神力(しんりょく)』なら倒せるって言いたいんでしょう?」


 もう諦めよう。植物を育て、野菜や果物を売ってお金を稼ぐ、楽しいスローライフは送れない。


「さすがご主人様!何でわかったんですか!?そうなのです!その魔物に対抗できるのは、『神力(しんりょく)』だけだと考えられているので、ご主人様のお力をお借りしたくて、この世界に来ていただいたのです!」


 言いにくかっただろうに、曇りのない瞳で真っ直ぐ私を見るルルが、少し不憫(ふびん)に感じた。


 第6の世界に誘われているのも、ルルが何かを隠しているのも、絶対に私には役割があるという事もわかっていた。わかっていて先送りにしようとしていた。


 めんどくさいからだ。せっかく剣と魔法の異世界に来られたのに、使命なんてものがあったら何も出来なくなってしまう。


 しかも(ふた)を開けたら、想像の数倍、やばい話だった。私にしか倒せない敵がいる。


 関わりたくもない話なのに、私は、生まれてから今まで、ずっと、大嫌いだった自分の力が何かの役に立つのかと、この、呪われたと思っていた力で誰かを救えるのかと、そんな事を考えると、胸が熱くなった。


 笑顔の破壊力でこの国を救う。

 ここから、私が主人公の物語が始まっていく。


やっと話が進みそうな予感がします。もし少しでも続きがきになった。面白い等思ってくださったならば、評価・ブックマークを宜しくお願いします!創作の励みになります!

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― 新着の感想 ―
街や人の名付けっていつも悩むんですよね。 でもそれすらもネタに昇華させてしまうとは流石ですねw 日常系スローライフもけっこう好きなんですけど、力を持っている以上そういうわけにもいかないですよね。 …
おもしろくなってきたぁぁぁぁ!!!
能力役に立ってぇ!悲しい能力じゃ嫌だよぉ!オジサン泣いちゃうよう!
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