笑顔の破壊力 lv.69
……ドッカーーーーーンッ!!!
大きな音がしたと思うと、下から、
『ああああああああああ!』
という叫び声が聞こえてきた。何があったのかと眼鏡をかけて、木から降りると、アークとゼンがいた。
「ちょっとレイルちゃん! ぼく達いたんだけど! ぼく達いたんだけど!」
ゼンは何故か同じ事を2度言った。2度目の方が声が大きかった。
「いたのは知っていますよ?」
私は、ゼンが何を言いたいのかがわからなかった。
説明してもらおうと、横目でルルを見ると、ルルは私と目を合わせ頷いた。
そして、「おっほん!」とわざとらしく咳をして、
「ご主人様は、大神官がなぜそのような事を言うのか理解に苦しまれています」
ものすごく言い方が悪い。ゼンは驚いたような表情でこちらを見ている。
私は苦笑いをした。
「大神官と勇者は何故か魔人と見つめ合い、身動きが取れなくなるという醜態をさらしました! そして、あろう事か! ご主人様に助けられたのです!」
ルルは、あえて身振り手振りを大袈裟にしているようだ。
「今の大神官のセリフは、大神官と勇者がご主人様の神力で吹き消されそうで怖かったという意味で言っていました」
ここだけ冷めた口調で淡々と言った。
アークとゼンは、恥ずかしそうに顔を押さえている。
「すみません。全然気が付かなくて、2人と魔人の距離が近い事には気がついてたんですけど、ゼン様なら何とか出来るだろうと思って撃っちゃいました」
実際にゼンは何とかしてくれた。何が問題だったのだろうか。
「まあ、爆発が起こる瞬間に魔人が目を逸らしてくれたから、ワープすることは出来たけどね」
ゼンが言った。
怒っているのかと思ったが、表情は嬉しそうだ。
「大神官様がいてくれなければ、俺は終わってました……」
アークが落ち込んでいる。
「お二人がご無事で良かったです。早速ですが、一つ質問をさせて頂きます。わたくし達には何も聞こえなかったのですが、魔人は何か話していましたね。何と言っていたか教えていただけますか?」
ダンが、アークとゼンに向かって言った。
それを聞いて、魔人達がずっと口を動かしていた事を思い出す。
笑顔で口をパクパクさせている姿は不気味だった。
ゼンは少し嫌そうな顔をして、
「ずっと同じ事を言っていただけだよ。ゴウカに溢れる魔力から、誰かの記憶を読み取り発音しているだけで、あれは魔人自身の言葉ではないのは確かだよ」
思い出したくないのだろう。そう言って黙り込んだ。
それを見たアークが、
「1番始めに出た女型の魔人は、『こんにちは』ってずっと言ってたな。その後に出た奴らも、皆言葉は違ったけど、繰り返しているのが不気味だった。思い出しただけでぞっとする」
と言った。
魔人はしっかりと言葉を話せないようだ。
「意味のある言葉では無いですか……」
ダンが残念そうに言った。
「ゴウカの人々の記憶……。考えただけで辛くなりますね」
オルレアは怒りと悲しみが入り混じった表情で、声を震わせている。
「あ、そうだ。これが魔人の魔力石だよ」
そう言って、ゼンは腰袋から黄色い石を取り出した。
やはり黄色。魔力の質が上がっている。だが、魔力石の濁りから、魔力の純度はさほど高くない事がわかる。
「黄色だね。長い事生きてきたけれど、初めて見たな。透明度が低いからか、あまり綺麗ではないね」
ヴェルデが言った。
ここで、ヴェルデがいる事に気付いたゼンが、
「何でヴェルデがここにいるのさ! ぼく達は危険な目に遭っているのに食事を摂りながら観戦だなんて、良い身分だよね」
嫌味ったらしく言った。
だが、相手はヴェルデだ。
「僕は精霊王だけど、そんなに良い身分な訳ではないよ。この食事は部隊の方々が厚意でくれた物なんだ。ゼンももらうと良い」
ゼンの嫌味を軽く受け流した。
「それで、どうでしたか? 魔人との戦闘は。ルルが気になったのは、先ほどは何故2人共が魔人と目を合わせたのか、です!」
ルルが言った。
これはこちらにいた誰もが思った事だ。
魔人の能力がわかっていたにも関わらず、何故魔人と目を合わせたのか。
「それは……」
アークは、言いたくなさそうに口を開いた。
「声が……。俺が目を合わせた魔人が、レイルの声だったんだ。それで、驚いて目を合わせてしまった」
私の声……。どういう事だろうか。
「魔人ごときがご主人様の事を知っているという事ですか? ご主人様の声を使うなんてなんのつもりなのでしょうか」
ルルが言った。
それに対してゼンが、
「いや、ぼくはレイルちゃんじゃなくて、母の声だった。最後に聞いたのが、随分昔だからあまり覚えてはいないけど、あれは母で間違いないと思うよ」
そう言って悲しそうに笑った。
「恐らく、その魔人の『声』は、自身が1番大切に思っている人の声で聞こえるのでしょう。兄さんは母をとても大切に思っていましたから……」
と言ったダンの発言にアークが、
「他に何か聞きたいことあるか? 魔人を近くで見ていた俺達にしかわからない事がまだあるかもしれないだろ? 何でも良いから言ってみてくれ!」
と顔を真っ赤にしながら、焦った様子で言った。
アークは、私を大切に思ってくれているらしい。だが、ダンが言う、1番というのは間違いだ。
気を許せる相手、家族、友人、仲間等の声がランダムに聞こえるのではないだろうか。
なぜなら、アークの1番が私な訳がない。実際の効果をこれから検証したい所だが、魔物や魔人の技を試すなと言われている。
実際の所は闇の中になりそうだ。
それにしても、アークの身振り手振りが大きい。何かあったのか。
「ふふ。アーク君は不器用なのだね。こんなに気持ちが漏れているのに気付いてもらえないだなんて、僕はあの子達が上手くいく事を願ってしまうよ」
ヴェルデが呟くと、オルレアが、
「それは聞き捨てなりませんね。お父様といえど、その発言は撤回していただかなければなりません」
ヴェルデと目を合わせ、静かに言うと、
ヴェルデはニコニコしながら、
「レアはレイル様が大好きなのだね。まだ覚悟する段階でもないようだし、このまま君たちを見守るとするよ」
と言って立ち上がり、ビーフシチューのお皿を料理担当の隊員の元に返しに行った。
仲が良くて、微笑ましい光景だ。
「そういえば、さっきオルレアが思話で言ってた、地中に埋まった『核』を一瞬で壊すって話だけど、やっぱり難しいんじゃないかな」
ゼンが言った。
あの時、オルレアが思話で話していた相手はゼンだったらしい。
ゼンは、身体の自由がきかない状態で、そんな話をしていたのか。
「オルレアと思話が繋がった時、助かったと思ったら、ひたすら計画を説明されて驚いたよ。ぼくが話す間を与えてくれなかったから、状況を説明するのが大変だった」
ゼンが遠い目をしながら言った。
「すみません。あの時はレイちゃんの役に立ちたい一心で、つい自分の事ばかり話してしまいました」
オルレアはしょんぼりしている。
自身が、この戦いを見ている事しかできないのが歯がゆいのかもしれない。
「オルレアがいてくれるだけで安心できるから、そんなに思い詰めないでよ。この国唯一の聖女でしょ」
私が言うと、
「レイちゃん……私に出来る事は何でもしますので言ってくださいね」
オルレアは私の手を取り、上目遣いで言った。
可愛い。それをわかってやっているあざとさも、オルレアらしくて良い。
「その作戦ですが、不可能なのは明らかです。ご主人様がずっとゴウカを眺めていなければいけないですし、現実的ではありません」
ルルが、私とオルレアを引き剥がしながら言った。
「魔物の進化も、私達を翻弄するくらいには早まっているみたいだから、惑わされないでね」
私は、アークとゼンと目を合わし言った。
ゼンは頷き、アークは気まずそうに目を逸らした。
私はアークに目を逸らされる事が多い。
「大神官のおかげで魔人も進化できて大喜びをしているでしょう! これ以上の魔力供給は無しでお願いします!」
ルルがゼンに向かって言った。




