笑顔の破壊力 lv.68
「魔人が認識阻害を使っている様子は無さそうでした。ゴウカに隠れる場所は無いですし、不気味ですね」
ダンが言った。
ヴェルデが少し考える素振りをした後、
「ゴウカの魔力を集めて『核』が発生するのならば、ゴウカで1番魔力が濃いのはどこか、が問題になってくるのだよ」
ヴェルデには魔物が何処から湧いて来るのかがわかっているようだ。
自分達で考えさせようとしているのか、答えは言わず、ヒントだけを出した。
「『緑の』はわかっているのですね? ここですぐに教えないあたり、良い性格をしていますね」
ルルがヴェルデに言った。
良い性格とは、文字通りの性格が良いという意味ではない。
だがヴェルデは、
「ありがとう。僕は考える事に意味があると思っているから、そう言ってもらえると嬉しいな」
と答えた。
「ゴウカで1番魔力が濃いのは『砂』……ですか? 50年前に、ゴウカにいた人々が砂になってしまっています。それにより、ゴウカの砂にはゴウカの人々の魔力が含まれているので……そうかな……と」
オルレアは辛そうに言った。
母、ローズの事を考えたのかもしれない。
ヴェルデがオルレアの頭に手を乗せ、
「そうだね。答えは『ゴウカの大地』だよ。ゴウカの砂の殆どに誰かの魔力がこもっている。だから、魔物も魔人も大地から生まれると考えられるね」
そう言って、オルレアに笑いかけた。
これにルルが考えるような素振りをした後に、
「ゴウカでは、魔物と魔人が地面から生えてくるという事ですね」
と言うと、想像したのか嫌そうな顔をした。
『砂や大地』という言葉で、魔物や魔人が野菜のように、地中で育つと思ったようだ。
今は魔物が豊作という事か。
「生えてくる、というのも間違いではない。実際の流れは、まず、地中に『核』が発生し、徐々に肉付けされていくのだろうし、魔物も魔人も種から芽を出す植物の様なものに思えてくるね」
とヴェルデが言った。
『核』が種で、芽が本体……。
いや、無理があるだろう。
砂に含まれる魔力を使い、ゴウカの地中に魔物や魔人の元となる『核』が発生している。
ゴウカを掘り返したら、『核』が大量に見つかるのではないだろうか。
掘り返すにも、ゴウカに入るのには覚悟がいる。どこから魔人が攻撃を仕掛けてくるかわからない。
「魔人が生えるタイミングはいつなのでしょう? 地中で肉付けが終わるとすぐに生えるのでしょうか」
オルレアが不思議そうに言った。
これから、魔人が現れた時には、魔人が生えたと表現する気なのだろうか。
あまり危機感のない表現だ。
「【ゴウカの魔物】に関しては謎が多く、今回の状況を見てになりますが、殆どの魔物と魔人が地中で形作られ、すぐに生えているのでしょう。地中に留まるのは難しいのではと推測されます」
ダンが言った。
ふざけているのではと思うやり取りだが、当人達の表情は真剣だ。
「魔人が『生える』を『出現する』に変えませんか? 生えるというと、気が抜けてしまって……」
私は軽く笑いながら言った。
「そうですね。確かに、『魔の者』と植物を同じ括りにするのは、植物達に悪かったかもしれない」
ヴェルデが森の木々を見ながら言った。
そういう意味ではないけれど、言い方を変えてくれるのなら良かった。
「地中に『核』が発生した時点で見つけられたら、楽に魔人を倒す事が出来そうですよね」
オルレアが両手の平を胸の前で合わせながら言った。
『核』の発生場所を、予め知れたらどれだけ良いだろうか。それがわかれば苦労しない。
でも、もしかすると。
「見れるかわからないけど、見てみるね」
私は左手で丸を作り、ゴウカ全体の色を見てみる事にした。
この能力は、生物の色が見られるというものだ。魔物や魔人の中にある『核』は見られるが、色を見るには、地中に発生する『核』単体が、生物に入るのかどうかにかかっている。
ゴウカに埋まる『核』は、私になら見つけられるのではないかという期待があった。
だが、ゴウカ全体を見回しても『核』は見つからない。
ズームも使って慎重に見てみると、地面が不自然に光っている場所があった。それは、『時星』や『核』のように、実際に光っているわけではないのに、なぜかはっきりと見えるものだ。
「あれかな? なんか……ゴウカの中心から少し左に……」
私が説明しようとすると、視界に足のようなものが入った。
これはまずい……。
私は左手を目から離し、一度目を瞑る。
大丈夫だ。魔人は私を見ていない。動ける。
深呼吸をして、みんなの方に向き直る。
「魔人が出現した。地面に怪しい所を見つけた瞬間だった。『核』が発生してすぐに魔人が出現する、で間違いない」
私が言うと、皆がゴウカを見た。
魔人がいる。10体。これも老若男女それぞれで、また、背の高さが同じだ。
左目では、視界に足が入っただけで何体いるかは見えていなかった。
「明らかに魔人の出現ペースが上がっていますね。先程現れたばかりのはずが、こんなに次々に生え……出現するなんて。なにか原因があるかもしれません」
オルレアは生えると言いそうになり堪えた。
「ゴウカの魔力の他に、何か強い魔力の影響を受けたのかも知れません」
ダンが言うと、
「大神官じゃないですか?」
とルルが言った。
いきなり何を言っているのだろうか。ゼンに何かあったのかと思い、ゴウカにいるゼンを見るが、アークと共に魔人と対峙している。
「なにがゼン様なの?」
私がルルに聞くと、
「大神官は、先程、魔物に対し、すごい数の魔法を放っていましたよね? あれがゴウカの大地に吸収され、魔人の出現頻度が上がったのだと推測します!」
そう言うと、ゴウカにいるゼンを指さした。
それを聞いたダンが、
「あの時は、魔物に吸収されなければ大丈夫だと判断し、色々な魔法を放っていました……。まさか、あの魔法が魔人を出現させるきっかけになるとは」
そう申し訳なさそうに言った。
ダンもゼンも悪くない。まさかゴウカで放った魔法が大地に吸収されるとは思わないだろう。
「それなら、僕も50年前にゴウカへ、僕が出せる全力の魔法を放った事で、『魔の者』の進化を活性化させていたのかもしれない」
ヴェルデも落ち込んでいる。
「50年前は関係ないんじゃないですか? ゴウカが砂漠になってから、砂に魔力が多く含まれるようになったんですよね? なら、魔力を吸収するようになったのは、砂漠化の後だと思います」
私が言うと、ヴェルデはホッとしたような表情をした。
「『オレンジの魔物』同様に、魔人も『核』の時点で魔人ですね! ご主人様が『核』を見つけたと同時に魔人が出現したのであれば、見つけた瞬間に破壊したいですね!」
ルルが、ゴウカに佇む魔人を見て言った。
私が地面で光る『核』を見つけてから魔人が現れるまで、3秒程だった。
そもそも、『核』が発生したと同時に見つけられる訳でもない。
「それは良い考えですね。ではそうしましょう」
オルレアが嬉しそうに言った。
そうしましょう。と言い切った。だがそれは不可能だ。どうするのだろう。
すると、オルレアが固まった。魔人と目が合ってしまったのかと焦って顔を覗き込むと、どうやら誰かと思話で話をしているだけのようだ。
20秒も経たないうちにオルレアに表情が戻った。
「レイちゃん。お2人が動けないようです!」
オルレアは相当焦っているようで、アークとゼンを指さしている。
確かに、2人は動いていない。
魔人2体と見合っている。見ている分にはシュールで面白い。
残りの8体は、仲良く口から黒魔法を放つ準備中だ。
「先程まで余裕ぶっていた大神官が、魔人と目を合わせるとは! 勇者も、ご主人様とお話ししてカッコつけた後ですよね! 情け無いです!」
ルルが喜んでいる。
アークはともかく、ゼンが目を合わせてしまうなんて意外だ。
とりあえず……。
「じゃあやるよ」
私は木に飛び乗り、眼鏡を外し、右腕を上げ、右目で照準を合わせた。
やっと撃てる。待ち侘びていた。
魔人と2人の距離が近い。
……まあ、神力の範囲が広くても、ゼンがなんとかするだろう。
狙うは10体の魔人の中心。
「やっとだ。出てきてくれてありがとう」
そう呟き、私は笑った。




