笑顔の破壊力 lv.64
自分より先にダンが【ゴウカの魔物】を倒した事が悔しくて仕方がないらしい。
「大神官が暴れていますね! この面白い光景を国中に流しましょう! きっと人気者になりますよ!」
ルルがまた悪い顔で言っている。
ダンが次々と、魔物を溶かしていく。
魔物が溶けていく様は……あまり見たくない光景だ。
「毒……恐ろしいですね」
オルレアが呟いた。
これにより、ダンへの警戒度がより上がりそうだ。
ゼンが、火・水・土・風・雷などの魔法を魔物にぶつけるが、ことごとく弾かれている。
ありとあらゆる魔法を使いこなしている所を見ていると、本当に凄い魔法使いだという事がわかる……が完全に相手が悪い。
魔物に魔法が吸収されている様子も無いので、とりあえず撃ちまくっているのだろう。
技を打ち込んだ事で、2人の居場所が魔物にバレているようだ。
ここで『オレンジの魔物』が動いた。
一瞬でゼンとの距離を詰める。だが、結界に阻まれ止まった。
すると、『オレンジの魔物』が結界に齧り付いた。
「うわーー!」とここまで聞こえるはずは無いが、ゼンの反応から叫んでいるのがわかった。
それを見て、ルルはケラケラと笑っている。
横からダンが『オレンジの魔物』に手の平を向け、先程の水を放った。
『オレンジの魔物』から毒の蒸気のようなものが出ていたが、他の魔物のように大きなダメージにはなっていないようだ。
もう1体の『オレンジの魔物』も動こうとしているのを見て、勝てないと悟ったのか、2人はその場からフッと消え、私達の前にワープしてきた。
「何あれ! 結界に齧りついてきたよ。気持ち悪すぎて叫んじゃったじゃないか」
ゼンが、プンプンと怒っているが、顔は笑っている。
スリルを楽しめたようだ。
「執事のあの液体は何ですか? なぜ、【ゴウカの魔物】に効いたのですか? 神力でもない力で倒せる意味がわかりません」
ルルがダンに聞いた。
ダンは右手の平を上に向け、小さな水の玉を出し、
「これは、毒を打ち消すために作った毒です。大体の毒に有効です」
と言った。
ただの水にしか見えない。
確かに、本の中の毒使いにも毒で毒を相殺する、というような戦い方をしている者もいた。
相殺ではなく、打ち消すという事は、毒そのものを無かったことにする、というような意味なのだろう。
「【ゴウカの魔物】に『打ち消しの毒』が効いたという事は、魔物は毒で構成された存在である、ということになります」
ダンはそう続けて、手の平に浮かべた小さな水の玉を消した。
「魔法や物理攻撃を無効化する毒なんてあるんですか?」
オルレアが聞くと、ダンは首を横に振り、
「わたくしは聞いたことがありません。恐らく魔法、物理無効化は毒ではなく、何者かが、その効果のある魔法の膜のような物で【ゴウカの魔物】を包んでいると考えるのが自然かと思われます」
と言った。
それを聞いたゼンが、「うーん」とうなり、
「魔法、物理攻撃の無効化は、並の魔法使いが扱えるようなものではないし、ましてや、物理攻撃が効かないはずなのに、毒だけが効くなんて、魔物自体が毒だと認識している『何者か』が、膜で魔物を弾かないよう、毒だけは無効化から省いたとしか思えないね」
ここまで一気に話した後、軽く深呼吸をして、
「本当に裏で糸を引いている者がいるのなら、相当大きな組織が関与しているよ」
そう言って、黙り込んだ。
「きな臭くなってきましたね。これはオルカラ王国だけの問題では済まないかも知れませんよ」
ルルが真剣な顔で言った。
ルルは国内の問題では無いと思っているようだ。
「話が複雑になりそうだし、これは持ち帰って考えようか」
ゼンが言った。
確かにここで結論が出る話でも無いだろう。
「そういえば、ダンの『打ち消しの毒』を50年前に使っていたら、すぐにゴウカを取り戻せたんじゃないですか?」
私が聞くと、
ダンは少し気まずそうにしながら、
「この毒は、数年前に完成したので、50年前には存在していませんでした。完成した数年前にも、【ゴウカの魔物】に試そうなどと思いもしませんでした……」
と言った
「精神操作か……その時に倒せていたら、と思ってしまうな」
アークが呟いた。
範囲的な精神操作により、『対ゴウカの魔物用』とも言えるような毒を完成させたにも関わらず、ダンは数年間この毒を燻らせていた。
もったいないと言わざるを得ない。
「もし、まだ【ゴウカの魔物】の攻撃が、全てを砂に変えるという得体の知れない能力のままであれば、わたくしの毒は砂に変えられていたでしょう」
ダンが言うと、
「魔物共は、全てを砂に変えるよりも、あらゆる物を溶かす毒の方が強いと思い、進化した筈です。奴らにとっても執事の存在は想定外の事でしょうから、今頃頭の中には疑問符が浮かんでいますよ」
そう言って、ルルはニヤッと笑った。
実際、砂に変える能力のほうが厄介だ。物理でも魔法でも毒でもない、わからない能力という恐ろしさがあった。
私が黒幕なら、絶対に退化と思われる進化なんてさせない。
この50年で、裏で糸を引いていた存在との関係が変わったりしたのだろうか……。
ゼンもニヤッと笑い、
「これに関しては、本当に運が良かったとしか言いようがないね」
と言った。
するとルルが、
「大神官は運が良くても、魔物共を目の前にして、なす術が無かったようですが」
と言って悪い顔をした。
それを聞いて私は、
「結局魔物に魔法は効果が無いって事がわかったので、ゼン様は、引き続き魔力石の回収をお願いします。ダンは戦闘に加わってくれると嬉しいです」
ゼンとダンと目を合わせ言った。
ゼンは悔しそうに、ダンは嬉しそうに頷いた。
「じゃあ、私はさっきの2体を倒します」
そう言って私は木に飛び乗り、眼鏡を外し、先ほどの『オレンジの魔物』2体へ照準を合わせた。
誰も自身を倒せないと思っているのだろう。
驕るな。
私がいる。
「ふふふ」
……ドッカーーーーン!!
『オレンジの魔物』もあまり手応えが無い。
向こうからすると、不意打ちで大砲を撃ち込まれたようなものなのだから仕方がない。
目からビームが、当たると大爆発するようになってしまった。
『おおおお』
下から歓声が聞こえる。
ダンの部隊の数人が、魔力石の回収に向かった。
私が眼鏡をかけ、木から降りると、ゼンが不貞腐れていた。
「レイルちゃんは良いよね。ぼくが手も足も出なかった魔物を2体も一気に吹き飛ばしちゃうんだから。ダンでさえ、ちょーっとだけダメージを与えていただけなのに」
めんどくさいやつだ。
「確かにわたくしは『オレンジの魔物』には少ししかダメージを与えられませんでしたが、進化前の魔物に関しては倒せました。兄さんはどうでしたか?」
ダンが張り付いたような笑顔で言った。
これは嫌味ったらしい。
ゼンの表情は……案の定悔しさの余り、歯を食いしばっている。
「ダン、お兄ちゃんはダンを大切にしているよね? どうしてそんな言い方をするんだい? お兄ちゃんは本当はすごい魔法使いなんだよ?」
ゼンが言った。
これにダンは呆れたような表情をして、
「その話し方をやめてください。それにわたくしは事実を言っているだけですので、あまり絡んでこないでください」
そう言うと、ゼンはショックを受けたらしく、足を三角にして座り、膝を抱えてブツブツと独り言を言い始めた。
ルルが嬉しそうにニヤニヤしている。
私は左目で、見える範囲にいる魔物の『核』の位置を見た。
「アーク、ダン、行こう」
そう言って、アークに記憶を読み取らせた。
木からの攻撃も当たらなければ意味がない。魔物に少し近付いて攻撃する為、私もゴウカに入った。
一足先に、アークとダンが魔物を次々と倒していく。
私も、眼鏡を外し、少し離れた位置に群がる魔物に照準を合わせ走りながら近づき、笑った。
ドカーーーン!!
バラバラバラバラバラバラバラ。
『オレンジの魔物』が、アークとダンに近付くのが見えると、真っ先に倒す。
「ふふふ」
ドーーーン!
バラバラバラバラ。
ヘドロを流す時間なんて与えない。
「はははっはははは!」
ドッカーーーーン!!
バラバラバラバラバラバラバラ。
面白いように魔物が吹き飛び、魔力石が散らばる。
次を撃とうとゴウカを見回すと、魔物がいなくなっていた。
ゼンと部隊の隊員を総動員し、魔力石の回収にまわっている。
終わったのか……。
案外呆気なかったな。




