笑顔の破壊力 lv.63
「という事は、さっきレイルちゃんが遠距離で吹き飛ばした所にも、同じような個体がいたのか。見た目だけじゃなく、雰囲気とかは他の魔物との違いはあった?」
ゼンが言った。
私はさっきの光景を頭に浮かべた。
「なんか、目立ってました。一目見て、違うなってわかりました。かなり強そうだなと思って、それで、神力をぶつけたくなって、撃ち込みました」
私は正直に言った。
「はははっ! レイルちゃんらしいね。見た目でわかるならありがたい。次に見つけたら、攻撃せずにぼくを呼んでよ」
ゼンがニコニコしながら言った。
私は、責められなかったことに安堵した。
「わかりました。既に2体現れているなら個体数は多そうな気がするので、すぐに見つかると思います」
そう言って木に飛び乗った。
ズームでゴウカを見渡す。
魔物の数が減っている気がする。
私とアークで、だいぶ倒したようだ。
…………いた。
「ゼン様、『オレンジの魔物』がいました」
私が下に向かって言うと、ゼンがワープでこちらに来た。
「遠いとぼくには見えないんだけど、気配くらいならわかるだろうから、どの辺か教えてくれる?」
ゼンが嬉しそうに言った。
ゼンも強敵を前にして、興奮するタイプなのかもしれない……それか、退屈しのぎなのか。
「あの右の奥の方にある、魔物の群れの中に2体、嫌なオーラを放つ魔物がいるんですけど、わかりますか?」
私が聞くと、ゼンは黙って目を瞑った。
「ああ、本当だね。あれは強そうだ。魔法は効かないのかな……試して良いかな……」
何やらブツブツと楽しそうに呟いている。
ゼンは目を開き、魔物がいる方向を見てから、木の下に向かって、
「ダン! 魔物の群れに向かって魔法を放ってもいいかい? 進化した魔物にまだ魔法が効くかどうかわからないよね?」
相当戦いたいようだ。輝くような笑顔で言っている。
「降りようか」
ゼンが、下を指さし言った。
ゼンはワープで下に戻り、私は木から飛び降りた。
「兄さんはこの戦いに参加しないんじゃなかったのですか? 確かに魔法が効くのかどうかはわかりませんが、もし、魔法が魔物に吸収されてしまったら、取り返しがつかないことになるかもしれません」
ダンが困惑したように言った。
「でも、ダンも魔物に毒が効くか試したいんじゃない?」
ゼンがニヤニヤしながら言った。
するとダンは、
「それは……。毒が効くのなら、レイル様のお力になれるかもしれませんし、気になりますが、もし効かなかった時の事を考えますと……」
戦いたいようだ。物凄く歯切れが悪い。
「試してみよう! 魔法と毒が進化した魔物に効くのか。アークを連れて行こう。レイルちゃん、奴らの『核』を見てくれる?」
ゼンが満面の笑みで言った。
ダンは呆れたような様子でゼンを見ている。
私は左目でズームを使い、魔物の群れを見た。
『オレンジの魔物』の纏う色は、今までの魔物と同じ暗い闇そのものだが、『核』が赤黒く光っていた魔物達と違い、『オレンジの魔物』の『核』は、オレンジ色と黒がマダラに混ざり、光っていた。
明らかに異質とわかる違いに、胸が高鳴った。
アークを呼び、精神操作で記憶を読み取らせると、アークは緊張した表情になった。
「じゃあちょっと行ってくるよ」
買い物にでも行くような軽さでゼンが言うと、指をパチンと鳴らし、ダンとアークと共に消え、ゴウカの中へワープした。
私は木の上へ飛び乗り、観戦することにした。
3人は魔物の群れの近くに降り立ち、まずはアークが大多数の魔物の『核』を破壊していく。
アークは記憶に残った『核』の位置で敵を倒さないといけない為、出来るだけ、魔物が移動する前に倒しきらなければならない。
アークだから成り立つ戦法だ。
30体程が赤い魔力石に変わった。
同胞が消えた事を察知した魔物が、アークに気付いた。
ゼンとダンは近くにいるが、魔物達に気付かれていないようだ。何かしらの魔法で、魔物からは見えなくなっているらしい。
『オレンジの魔物』は動かない。様子を見ているのか。
普通の魔物も二足歩行をしているところを見ると、魔人化が進んでいるのだろう。
3人の目の前にいる魔物が大きく口を開けた。
攻撃か……?
魔物の口からヘドロのような漆黒の液体が流れ出る。
恐らく毒だろうが、見ているこちらは物凄く気持ち悪い。
周りの魔物も口からヘドロを流す。
ゼンが魔法で透明な足場を作り、飛び乗った。
ダンは毒で生成されたと思われる足場に乗っている。
足場がなければアークは戦えない。ゼンがこちらを指さして何かを言っている。
アークは走ってこちらに戻ってきた。
そして、なぜか私がいる木に飛び移り、隣に腰掛けた。
ルルとオルレアが下から怒っている声が聞こえる。
「魔物に気付かれる前に全部倒さないとダメだ。足元にあんなの撒かれたら、俺は何もできない……」
アークは相当落ち込んでいる。
「でも沢山倒してたでしょ。アークは凄いよ」
私が言うと、アークは機嫌が直ったようで笑顔になった。
ゼンとダンの方に目をやると、ダンが生成したらしい小さな毒の玉を、足元の液体に投げ入れた所だった。
すると、紫色の煙が出る。
それを見て、ゼンが怒っているようだ。
恐らくあれは、毒の蒸気で、ダンに毒は効かないが、ゼンには効くのだろう。
「ふふふ」
音は聞こえないのに、2人がどんなやり取りをしているのかがわかり、戦いの最中だというのに笑ってしまった。
アークの視線を感じるが、気付かないフリをする。
様子を見る限り、あの液体は、全てを砂に変える例のものではないようだ。やはり、進化により魔物も変わっている。
砂にはならないが、あらゆるものを溶かすものだと推測できた。
「アークが結界周辺の魔物を倒してくれたおかげで、見通しが良くなってるし、私は下でルル達と一緒に見るよ」
そう言って私は木を降りた。続いてアークも降りてきた。
「あれ? なぜ勇者がここにいるのでしょうか。先程まで参戦されていませんでしたか?」
ルルがニヤニヤしながら言った。
「あの魔物の攻撃は、俺には対処できなかったんだよ!」
アークは悔しそうに言った。
「ルルさん、アークさんは魔法が得意では無いのですから、対処できなくて当然です。あまり言わないであげてください」
オルレアがフォローを入れたつもりで、アークにダメージを与える。
いつものやり取りに顔が綻ぶ。
「あの液体は恐らく、物体を溶かす毒ですね。砂に変えるものよりはマシかもしれませんが、殆どの者が『勇者のように』対処できないでしょう」
ルルは、『勇者のように』を強調して言った。
アークは落ち込んでしゃがみ込んでいる。
口から液体を出し続ける魔物の口を目掛けて、ゼンが氷の魔法を放った。
しかし、液体に当たり溶ける。
それを見たダンが何かを言ったようで、ゼンが魔物を指さした。
「大神官が執事に何かを言われ、じゃあ執事がこいつを倒してみろ、というような事を言っているようですね」
ルルが解説する。
ルルがいると状況がよくわかって良い。さすがだ。
ダンが右手を広げ前に出し、手の平から、水のような透明の液体を魔物に向かって放った。
すると……魔物が溶けた。
そして、赤い魔力石に変わった。
「あの……ダンは今、【ゴウカの魔物】を倒しましたよね?」
オルレアが私達に聞いた。
これは、予想外の展開だ。
「倒したね。毒には毒をって事なのかな……?」
そう言って私はダンを見ると、何やらゼンがダンに突っかかって、足場の上で地団駄を踏んでいる。
子供だ……。子供がいる……。




