笑顔の破壊力 lv.62
「魔物がどの程度強くなったのかわからないけど、今の内に倒しておこうか。魔力石も出来るだけ拾いたいね」
私の様子を察したのか、ゼンが言い、こちらに向かってウインクした。
私はゼンに笑いかけ、小さくお礼を言った。
魔物の殲滅に集中していれば、他の事に気を取られない。
するとゼンが少し驚いたような顔をした気がした。
「大神官様。俺も出るので、アドバイスをお願いします!」
何故かここでアークがゼンの所へ行った。
「アーク。君にアドバイスする事なんてぼくには無いよ。君の剣術の師匠はダンだろう。ダンに聞いてよ」
そうゼンに言われても、アークは何故か引き下がらない。
ここでまた新事実だ。アークはダンに剣術を教わったらしい。
どおりで、あの時やたらとダンを誉めていた訳だ。
騎士団長という肩書きからも、ダンが誰よりも強いという事がわかるが、私は毒が強いのだと思っていた。
アークの、『気付いたら敵がいなくなっている』、反則級の剣術がダンの教えによるものならば、ダンは相当な剣術の使い手という事になる。
誰がどんな才能があるかは、見た目では分からないものだ。
「レイル様。どうかされましたか?」
またダンに心……いや、表情を読まれた。
「いえ、ただ、ダンがアークの師匠だったと知らなかったので、驚いただけです」
と私がいうと、
「アーク様は伯爵家のご子息ですし、幼い頃から剣術をお教えしておりました。元々筋は良かったのですが、聖剣を持ち、ここまで強くなられているとは……。嬉しい限りです」
ダンが微笑んでいる。これがダンの本来の笑顔なのだろう。
優しいお兄さん、といった雰囲気だ。
ダンは、ハッとした表情を浮かべた後、いつもの笑顔に戻った。
ゼンを見ると、まだアークに絡まれているようだ。
「アーク。そろそろ行こうよ」
私が呼ぶと、アークはパッと振り返り、小走りでこちらに来た。
犬のようだ。
私がアークを見つめていると、アークはすぐに目を逸らした。
「じゃあ、アークは『聖女の結界』に張り付いている奴らを、レイルちゃんは少しずつ中心に向かって倒していってよ。魔力石は、ぼくも行くけど、ダンの部隊の隊員にも無理の無い程度に集めてもらおう」
ゼンが言うと、ダンが隊員達に向き直った。
「君達。魔力石の回収は重要です。1つも残さずに手分けして拾うように。ですが無理はしない。良いですね? 危ないと思ったら引いてください」
ダンが、笑顔のまま隊員達に命令した。
命令を聞いた隊員達は皆頷き、空気に緊張が混ざり始めた。
「もしこれが順調にいけば、あっさり【ゴウカの魔物】の殲滅が終わりますね! ルルは全力で応援しますよ!」
ルルは、眼鏡が描かれた小さな旗を両手に持ち、振っている。
眼鏡はやめてほしいと、バッグをもらった時に言ったはずだが、ルルは気に入っているようなので、見逃す事にした。
「わ、私も応援します!」
オルレアは、何も持っていなかったらしく、手を振っている。
アイドルのようだ。可愛い。
2人に笑いかけ、頷いた後に、私は左手で輪を作り左目で覗いた。ズームを使って、結界に張り付いている魔物を順に見ていく。
ズームは意外と有用で、『聖女の結界』に張り付いている魔物はほぼ全部確認できた。
「アークお願い」
私が言うと、頭に少しの違和感があり、
「レイルありがとな! 行くぞ!」
と言い、アークがゴウカへと走って行った。
「ねえオルレア。森の木に登っても良いか聞いてくれない?」
私は小さな声でオルレアに言った。
オルレアは私の意図を理解したようで、
「上からの方が見渡しも良いですからね。少し待って下さい」
と小さな声で返し、森の木々に目を向けた。
10秒ほどで、
「大丈夫ですよ。お気をつけて」
と言ってオルレアはニコッと笑った。
私はゴウカを囲む森の木の上に飛び乗った。
先程は、至近距離からの攻撃だったから簡単に狙えたが、ゴウカの中心あたりを狙うのであれば、上からの方が撃ちやすいはずだ。
アークが魔物を次々と倒していくのが見える。
上から見ると、動きが良く見える。
踊るように華麗な動きに、目が離せない。
「ご主人様ー! 大丈夫ですかー?」
下からルルの声が聞こえる。私が神力を撃たない事で心配になったようだ。
「ごめん! ぼーっとしてた。ありがとうルル」
私は下に向かって言った。
切り替えよう。アークも頑張っている。
すでに、結界付近に魔物はいないが、少し奥に群れがいる。
私は眼鏡を外し、右腕を上げ、魔物の群れを指さし、右目で照準を合わせる。
ここからなら、沢山倒せそうだ。
「はははっ!」
……ドッカーーーン!!
パラパラパラパラパラ。
『おおー』
下から小さく歓声が聞こえた。木の上に登って良かった。あの空気はむず痒くてだめだ。
私が撃つと、すぐさま、ゼンと部隊の隊員が数人で魔力石を集めに走る。
騎士団長が率いる部隊なだけあり、隊員の動きに無駄がない。
次は、その隊員達から少し離れた位置に照準を合わせる。
神力が隊員を巻き込まないようにしなければならない。
魔物はまだまだいる。
「ふふ。ははははははっ!」
……ドッカーーーン!
パラパラパラパラパラ。
先程とは違う隊員達が魔力石の回収に走る。
手際が良い。これでどんどん撃てる。
……ん?
今撃った場所より、少し奥の方にある魔物の群れの中に、これまでの魔物とは少し違う、黒くて小さく、見てすぐにやばいとわかる程のオーラを放つ者がいた。
だが、魔物に変わりはない。魔物は撃ち抜く。
進化しているのなら避けてみろ。
「はははははっはははは」
…………ドッカーーーーーーーン!!!!
パラパラパラパラパラパラパラパラパラ。
すごい範囲が吹き飛んだ。
隊員達は…………巻き込んでいないようだ。
「はあ……よかった……」
私は胸を撫で下ろした。
「ごごごごご主人様! 少しよろしいですか!」
ルルが叫んでいる。
私が眼鏡をかけてから木を降りると、ルルがニヤニヤを堪えきれていない変な顔をしている。
「ご主人様! 今のは何ですか? 威力が……威力が凄すぎます! 素晴らしいです!」
大興奮だ。
「レイルちゃん。今の攻撃は威力がおかしかったね。流石にあの広範囲攻撃を避けられる者はいないよ」
ゼンが目を輝かせている。
周りを見ると、隊員達がゴウカの方を見て固まっている。
「君達。あの数の魔力石を放置する気ですか?」
ダンが隊員達に言った。
「あ、す……すみません!」
魔力石の数が多いからか、10人程がゴウカへ走って行った。
すると、アークがこちらに来た。
「今の何だよ。すごい音がしたと思ったら、またすごい範囲が吹き飛んでたぞ! レイル……だよな?」
アークは呆れたように笑っている。
「もちろん、我らがレイちゃんによるものです。私も今の威力には驚きましたが、レイちゃんがとても楽しかったのだろうと思うと、嬉しくなりました」
オルレアがニコニコして言った。
「ははは。驚かせてごめんね」
そう言った後に、ふと、先ほどの事を思い出した。
「そうだ。進化した魔物を見た」
私が言うと、
「進化って……。目があるとか、二足歩行になった、とかではないのかな?」
ゼンが言った。
あの時、黒くて小さい魔物を見た。どこまで進化していたか……。
「確か、黒くて小さかったです。2ミールも無かったと思います。あとは……普通に立っていました。進化した魔物を見つけて、興奮してしまって、あまりしっかり見れてないです……すみません」
私はバカだ。この情報はきっと重要なはずだ。
それなのに、楽しんでいたから覚えていないなどありえない。
この間に、魔力石を回収していた隊員達が戻ってきた。
「これを……」
そう言って魔力石をダンに渡している。
「『オレンジ』ですか……。レイル様が見たのはオレンジ色の魔力石になる魔物ですね。黒くて小さく、二足歩行。情報は少ないですが、神力は変わらず有効なようで良かったです」
ダンは、落ち込んでいる私に気遣ってか、笑いかけてくれた。




