笑顔の破壊力 lv.61
「お話の続きですが、散らばっていた『手付かずの魔力石』が無くなっている、という事は、誰かが持ち去った可能性が高いです。魔力石は勝手に消えたりしませんので、まず、そこを疑います」
と言ってダンは、魔力石をゼンに渡した。
「そうだね。持ち去った者がいるとして、問題はそれが誰か、だ。これをダンは【ゴウカの魔物】だと言いたいんだね」
ゼンは魔力石を受け取り、腰袋に入れた。
「そうです。【ゴウカの魔物】が『聖女の結界』を砕いて取り込んでいるところを見ると、同胞の『手付かずの魔力石』も例外ではないでしょう」
そう言ったダンの顔から笑顔が消えた。
それを聞いたオルレアが、
「『手付かずの魔力石』1つに、どれだけの魔力が蓄えられているのか想像もできませんが、相当な量だという事はわかります。これを魔物が取り込んでいたら、と思うと背筋が凍りますね」
と言って、両手を交差し、自分を温めるような素振りをした。
【ゴウカの魔物】が『聖女の結界』同様に、『手付かずの魔力石』を取り込んでいる可能性が高いらしい。
その1つ1つに蓄えられた魔力の量が多い為、1日にも関わらず、魔物の進化が進んでしまったのだ。
昨日、拾っておけば良かった。と思っても、まさかこんな事態になるとは予想できなかったのだから、考えても仕方がない。
急速に進化しているのならば、強い魔物と戦えるかもしれないという期待が湧き上がる。
不謹慎だ。この考えは流石に口にできない。
「早く倒さないと、ご主人様のご負担が増えてしまいます! 勇者はご主人様の邪魔になる魔物を片っ端から片付けてください」
そう言ってルルは、ゴウカにいる魔物の群れを指さした。
ルルが指をさした先は、私がさっき魔物を倒した場所だった。
そこに魔物が群がっている。
「なんかあそこ魔物多くないか?」
ルルが指さす方を見て、アークが言った。
「うわー。早速来たね。ダンの推測は当たりだったようだ。奴らがどうやって魔力石を取り込んでいるのかまでは見えないけど、早く倒さないとまずいね」
ゼンは何故か楽しそうに言った。
「兄さん。こういう状況を楽しむのをやめてください。皆様真剣にこの戦いに挑んでいらっしゃるので、もう少し緊張感を持って……」
ゼンがダンの説教を遮り、
「よーし! レイルちゃん、あそこにここから神力を当てる事はできるかい?」
そう言って私の目を見た。
言葉の軽さとは裏腹に、目は真剣だった。
距離がある場所だと、細かく照準を合わせる必要があるが、何度も練習してきたことだ。
「この距離で撃った事はないですけど、問題ないと思います」
私は笑顔で答えた。
眼鏡を外し、右腕を上げ、魔物の群れを指さし、左目を閉じる。
右目で魔力石に群がる魔物に照準を合わせた。
そして、笑う。
…………ドッカーーーーンッ!
距離があるからか、撃ってから一瞬の間があり、大きな音が聞こえた。
群がっていた魔物が消え、小さくパラパラッという魔力石が落ちる音が聞こえる。
『ぉぉぉぉおおおおおおっ!』
ダンの部隊からの歓声が上がった。
私は眼鏡をかけて、皆の方を向いた。
「この距離でも届くんだな……。射程に限界は無いのか?」
アークが呟いた。
「すごい精度だね。正直、どこまで届くか気になって、無茶だと思いながら言ったんだ。じゃあぼくは、あそこに散らばった魔力石を集めてくるよ」
とゼンが言うと、アークが、
「俺も付き合います」
とゼンに言った。
ゼンは頷き、指をパチンと鳴らすと、2人が魔力石のある所にワープした。
周辺がザワザワと騒がしくなってきた。
ダンの部隊の人達がなにやら盛り上がっている。
「すみません。実は、国中でレイル様の事が話題になっておりまして、わたくしの部隊も来る前から皆そわそわして、落ち着かせるのに苦労させられました」
ダンは申し訳なさそうに言った。
国中で話題になっているとはどういう事だろうか。
「ご主人様の情報が国中に伝わっているのですか? 誰が、何のために……」
ルルが、右手の親指と人差し指を顎に当て、推理でもするような素振りをしている。
それを聞いたダンが少し気まずそうに、
「国王陛下のご命令です。レイル様の存在を国民に知ってもらおうと、国中に今の状況を知らせるために、急遽各地に連絡版を作り、貼り出したのです」
と言うと、周りにいる部隊の男達が、嬉しそうに頷いている。
まさかそんな事が起こっていたとは……。
「あまり目立ちたくないので複雑ですが、悪い事ではないですし、受け入れます。期待されると緊張してしまうので、そこそこな気持ちで見てほしいです」
私は周りにも聞こえるように言った。
「それ程の力を持っていながら、名声を望まれないのですね。ですが、既に王国では英雄扱いされておりますので、そこは諦めてください」
ダンがニッコリと笑って言った。
『未来の英雄』でさえ、私が背負うには重たい称号だ。
それが、既に英雄とは……。私は国民の期待を一身に背負っているようだ。
緊張はするが、不安は無い。
私の仲間達は強い。
そして私も負けない。自惚れではなく、事実だ。
【ゴウカの魔物】を殲滅して、ゴウカを取り戻す。
これは決定事項なのだ。
ここで、ゼンがアークと戻ってきた。
「結構な数の魔力石があったよ。皆これを見てよ。魔力石の色が明るくなって、オレンジだ。魔物の魔力の純度が上がっている証拠だね」
ゼンは、今拾った魔力石の中の1つを持って言った。
真っ赤だったはずの魔力石が、綺麗なオレンジ色になっている。
「オレンジ色になっていたのは、この『核』だけだったから、殆どの魔物の『核』はまだ赤だと思う」
そう言ってゼンは魔力石を腰袋に入れた。
「魔物共の進化スピードがあつかましいですね! ルルは奴らの全てが気に入りません! 見た目も、能力も、存在もです!」
ルルがお怒りだ。
進化スピードがあつかましい。確かにそうだ。
人の力を奪い、自身を成長させているのだから、厚かましいで正解だろう。
存在してはいけない存在。
なぜ、ゴウカに魔物が現れたのか。
「俺もだよ。こいつらのせいで、俺はしたい事が何も出来ない! いや、国を救うという勇者としての役割には誇りをもっているが……」
アークが1人でオロオロしている。
「目がギョロギョロしていて気味が悪いです……。あと、魔物が少し小さくなったような……」
オルレアが言った。
だいたい3ミール程だった魔物が、2ミール程に見える。
「的が小さくなるとやりにくいけど、まとめて吹き飛ばせば良いだけか……」
何やら視線を感じる……。
皆が私を見ている。何かしただろうか。
「流石レイル様ですね。魔物がどう進化しようと、私が吹き飛ばしてやる、と」
珍しくダンが、からかうように言った。
最悪だ。口に出していた。
「正直あの威力を見せられると、俺はレイルのサポートに回るしかないな」
アークがニッと笑って言った。
また周りがワイワイと盛り上がってきた。
私を持ち上げるこの空気……苦手だ。




