笑顔の破壊力 lv.59
何らかの理由で、ゴウカから夜が消えたらしい。
何故かヴェルデも、ネロが消えた事に危機感を抱いていないようだ。
ネロの事は気になるが、全てを解明している時間もない。
もどかしい。
「そうだ、ゴウカでは食事を普通に摂ってしまうと、動きにくくなるから、こういう食べやすいものをクロエが用意してくれているんだ。タイミングを見て食べてよ」
ゼンは広げられていた物資の中から、長方形の、何かに包まれている物を手に取った。
そして、包みを剥がすと、中にスティック状の食べ物が入っていた。
私は食べたことがないけれど、元の世界にも、簡単にカロリーが摂取できるように工夫された食べ物があった。
クロエはこれも、沢山の種類を用意してくれているようだ。
「ポーションでも食べ物でも、誰かがこのマジックバックを持っていないといけませんよね。何かある度に取りに行くのは大変ではないですか?」
オルレアが心配そうに言った。
「それなら大丈夫。皆これを腰に掛けててよ。マジックバックと空間を繋げておいたから、欲しい物を自由に出せるようになってるよ。それぞれに合いそうな色にもしておいたからね」
ゼンは得意気に言った。
腰袋を人数分用意してくれていたらしい。もしくは、今生成したのか。だてに長生きしていないということがよくわかる。
ゼンは青、アークが赤、オルレアが緑でルルがオレンジ、私は白だ。
確かに、戦闘服の色に合っている。意外とセンスも良い。
袋の中に手を入れると、一瞬で欲しいと思った物に触れる。これはマジックバックと同じ仕様のようだ。
「じゃあそろそろ行こうか。特に持っていく物もないし、アークが持って来てくれた、マジックバックの本体はここに置いておくよ。ヴェルデをよりしろの木まで送るから、皆にはそこまで付き合ってもらうね」
というと、ゼンは指をパチンと鳴らした。
次の瞬間、私達は家の前にいた。
「皆ありがとう。僕は小心者だから、君達が来てくれなかったら、この先、何年レアと話し合えなかったか……。僕も何か手伝える事があれば力になるからいつでも言っておくれよ」
ヴェルデはにこやかに言った。
そして、植物達の方をしばらく見つめた後、
「ふふふ。レイル様はここの植物達から愛されていますね。みんな嬉しそうに歌っている。集めている土は、僕が増やしておくので安心してください。戦いが始まったら、ゴウカの手前辺りをたまに覗きに行きます。じゃあ皆さん、レア、気をつけて」
と言い、オルレアの頭を撫でてから、丘をおりていった。
植物達に言われた、土の移動をしてくれるようだ。
そして、なぜか戦いの見学にくるらしい。
「すごく、オルレアのお父さんって感じの人だったね」
私が呟くと、皆笑顔で頷いた。
「よし、ここからは気を引き締めて行くよ! ダンの部隊が待機している辺りに降りるから、危険は無いと思うけど、一応周辺は警戒しておこう」
ゼンは、そう言って指をパチンと鳴らした。
「来られましたか。もう部隊の配置は完了しておりますので、いつでも戦闘を開始して下さい。何かお役に立てる事があれば、一言いただければすぐに参ります」
いつもの張り付いた笑顔で、ダンが言った。
ワープした先は、丁度ダンがいる場所だったようだ。
ダンと、部下と見られる人達がいた。ゴウカを囲む部隊の人数は300人程にもなるらしい。
皆、ダンと違い、大きくて強そうだ。
「やあダン。久しぶりだね。お兄ちゃんに話したいことや、困っている事はないかい? ラルは足りてる? ちゃんと食事を摂ってるかい? お兄ちゃんはダンが心配だよ」
ゼンがダンを見るなり、近付いて言った。
「兄さん。やめてもらえますか? わたくしはもう子供じゃありません。いつまでそんな接し方でいるつもりですか。わたくしは大丈夫ですので、放っておいて下さい」
ダンが鬱陶しそうにゼンを払った。
「そう言わずに、お兄ちゃんに頼っておいで。お兄ちゃんはこの国でも偉い人だから、大体の事は叶えてあげられるからね」
ゼンは楽しそうに言っている。
ダンの反応を見るに、会うと毎回こうなるようだ。
ゼンがからかうから、ダンはゼンを避けているのかと思っていたが、実際は、弟可愛さにベタベタしに行く事が原因だったらしい。
見た目はゼンの方が幼いから変な感じだ。この世界ではよくある事なのだろうが……。
ダンの事を『あいつ』と言っていたから、仲が悪いのかと思っていた。
「今はそんな事を言っている場合ではないでしょう。皆さん呆れられてますよ。戦闘準備をして下さい」
ダンが迷惑そうに言った。
「そうだったね。じゃあ、皆ここからは歩いて行くよ」
ゼンが言うと、先頭を歩き出した。
私達はそれに続く。
「皆さん。くれぐれも無理をなさらないよう。何かあればすぐにお呼びください。健闘を祈ります」
後ろからダンの声が聞こえた。
少し歩くと、ゴウカに張られた『聖女の結界』の前に着いた。魔物が張り付いている。数が多い。
ガリガリガリガリ。
嫌な音が響く。
それと一緒に結界はボヨボヨと動いている。
もう限界に近いようだ。
「張り付いてますね。また不快な音を立てています。何となく、魔物の見た目が違うような気がするのですが」
ルルが言った。
結界に張り付いた魔物を見ると、形態が少し変わっている。しっかり2本足で立っているように見える。
そして……。
「『目』があるね。それに、結界にもたれかかる訳でもなく、2本足で立てるようになっている。ぼく達が来たのは昨日だ。これは1日の成長速度じゃないね。何かあるよ」
ゼンが魔物を見ながら言った。
たった1日で魔物がまた進化した。
口しかなかった魔物に、ギョロッとした目が出現した。そして、4本足で行動していたはずが、2本の足で立っている。
「とりあえずぼくは、昨日放置した魔力石を集めてくるよ」
ゼンはそう言って、外からゴウカを見回した。
「あれ……無いな……」
ゼンが呟いた。
ゴウカの中を見てみると、昨日大量に落ちていたはずの魔力石が無い。
誰かが持ち去ったのだろうか。
「本当ですね。あれだけあったのにどこに行ったんですかね」
私はゼンに言いながら、不安を感じていた。
「無いのなら回収できないね。気になる所だけど、今は魔物がこれ以上進化する前に倒してしまおう」
そう言ってゼンは、私とアークを見た。
「数が増えてるが、全部倒せば良いだけだ。目の前の奴らは俺に任せてくれ。レイル、良いか?」
私は左目で魔物を覗き、「いいよ」と言うと、アークが精神操作で『核』の位置を読み取り、シュンッという音と共に目の前から消えた。
そして魔物が次々に消えて、魔力石に変わっていく。
すかさずゼンが魔力石を回収する。
「魔物はまだ弱いな。今日で全滅させられそうだ」
アークが言った。
「まずは、結界付近にいる奴らから『見て』いくね。アークは左から『核』の位置がわかる魔物を倒して。私は右側を引き受けるから」
私は、同時に使えるか不安だったが、広範囲の魔物を見るために、『色』を見ながら『ズーム』を使った。
鮮明に見える。これは良い組み合わせかもしれない。
左にいる魔物の群れを、視界にとらえた。
「アーク。お願い」
私が言うと、一瞬頭に違和感がきた。
精神操作は少しの違和感しか感じず、私に負担は無い。
「では、お2人共、お願いします!」
ルルが言うと同時に、私とアークは左右に散った。
私はまず、右側の結界に張り付いている魔物の『核』の位置を確認し、眼鏡を外した。
そして、楽しい時間が始まる。
右手を上げ、左目を瞑り、右目で照準を合わせる。
嬉しい。
ドッカーーーーーンッ。
周辺の魔物が消え去った。
「レイルちゃん。相変わらずすごいね。魔力石は魔法で浮かせたり出来なくて、自分で取りに行くしかないから、これだけの数を一瞬で倒されると回収が間に合わないよ」
ゼンは、ワープを使って回収を始めた。
ああ言いながらも嬉しそうに魔力石を集めている。
ゼンには、宝の山に見えているようだ。
ズームを使って広範囲の『色』を見る。
『核』の位置を覚えた。
「見える範囲、全部倒します」
ゼンに宣言した。
照準を合わせ、左目を瞑り笑う。
楽しい……楽しい……楽しーい!




