笑顔の破壊力 lv.58
以前、ダンの能力は毒だと聞いた。
毒使いが騎士団の団長なのか……。騎士とは剣を使うものでは無いのか。
「ダンは王宮の執事だと思ってました。あと、毒を使うと聞いていたので、まさか、騎士団にいて、それも団長だとは思いませんでした……」
私は、ダンが剣を振っているところを想像してみたが、いまいちしっくりこなかった。
「まあ、あのダンが普通に剣で戦っているとは思えないよね。実際あいつが使うのは普通の剣ではないんだけど」
この含みのある言い方、実にゼンらしい。
「ダンか。元気そうで良かった。あの剣は狡いよね。僕はダンには勝てる気がしないな」
ヴェルデが言った。
「どんな剣なのですか? もったいぶりすぎです! 早く言ってください!」
ルルが、苛立ったように言った。
私も同感だ。まあ、毒使いなのだから、剣に毒が塗られているのだろう。
ヴェルデが主に木を使っているのなら、腐食の毒を使われると勝ち目はないかもしれない。
「ルル様はせっかちだなあ。もったいぶってごめんね」
ゼンは口では謝っているが、ニコニコと笑っている。
「ダンが使うのは『毒の剣』だよ。ダンが作り出した毒を硬化させて、剣の形にした物なんだけど、魔法で形が変えられて、敵に剣が刺さると液体に戻して、体内を侵食していく。えげつない技を使うって事で、ダンは皆から少し距離を置かれているんだ」
ゼンは、なぜか嬉しそうに言った。
自分も友達がいないのに、弟も距離を置かれているだなんて、少し可哀想な兄弟だ。
「ダンは凄いんだぞ。剣だけじゃなく、毒を撒いたり、霧にして空中に散らせたり、毒で壁を作って逃げ道を塞いだりもできるんだ」
アークは目を輝かせながら、ダンについて語り出した。
ここで、アークが反応するのは意外だ。
ダンの能力は、勇者というよりは、邪道な戦い方のように感じる。
「戦いの選択肢が広く、技術力もあり、強い方であることは知っていますが、私も皆様と同様、少し恐ろしく感じて距離を置いてしまいます」
オルレアが申し訳なさそうに言った。
確かに、オルレアはダンに対しての警戒心が強かった。
見た目の胡散臭さも、距離を置かれる理由の1つかもしれない。
「苦手な人を、無理に好きになる必要はないけど、少しダンが可哀想になるね……。そういえば、アークがダンを呼び捨てで呼んでるのちょっと意外」
私が言うと、アークが気まずそうに頭をかきながら、
「俺ってさ、貴族だろ? 階級が自分より低い人に敬称をつけると、色々言われたりするんだよ。そういうの嫌で反発してた時期もあったけど、俺が変な目で見られると、親が責められるって気付いてやめたんだ」
そう言って小さくため息をついた。
これを贅沢な悩みというのかもしれない。
「アークも大変だね」
私は、そう一言返してから、
「それで、その騎士団団長が率いる部隊が、ゴウカの周りに待機してくれるというのは、有事の際に備えて、と言う事ですか?」
とゼンに向かって聞いた。
「部隊は戦闘だけのためにあるわけじゃないんだよね。万全の準備を整えても、不測の事態は起こり得る。ぼく達だけじゃ、対処しきれない事も出てくるんだよ」
ゼンが真剣な顔で言った。
「そうですね。例えば、『聖女の結界』が破られ、ゴウカから他の街に魔物が侵攻してしまった時に、5人しかいないパーティーに余裕があるとは思えないですし、連絡係としても誰かは待機していた方が良さそうです」
ルルが顎に右手を当てながら言った。
「住民の方々が、避難しないといけなくなってしまった場合でも、部隊が控えているとわかっていたら、落ち着いて行動できそうですよね」
オルレアは嬉しそうだ。
何故か、簡単に勝てるイメージが湧いているが、実際に魔物と戦えるのは、私とアークだけだ。
魔物全部に手が回らなくなり、何体か見逃してしまう事もあるかもしれない。
結界が破られるのは最悪の事態だが、今の魔物の成長スピードを見ると、十分ありえる。
「そうだな。後は、進化した魔物に魔法が効いたら良いんだが、あまり期待はできないな」
アークが言った。
魔法が効くようになるということは、進化ではなく退化ではないのか。
と思ったが口には出さなかった。
「それは退化ですよね。なぜ進化しているのに、せっかく手に入れた魔法無効化を捨てるのですか。勇者の考える事はわかりませんね」
ルルがバカにしたような口調で言った。
「ルルは知らないのか? 進化って言っても全てが強化されるわけじゃないんだぞ。どこかの強度を犠牲にしてどこかが強化される、なんてことザラにあるんだ」
アークが得意気に言った。
これは勉強になる。
珍しくアークがルルを言い負かした。
ルルは、悔しそうに頬を膨らませた。
「そうだね。今の【ゴウカの魔物】がどうなっているのか、戦ってみないとわからないだろう。だけど、試しに技を撃たせてみよう、なんて思ってはダメだよ。やられる前にやるんだ。わかったかい?」
ヴェルデが全員を順番に見ながら言った。
やられる前にやる。どんな攻撃技を使うのか興味はあるけれど、その攻撃を撃たせたことにより、想定外の犠牲が出るかもしれない。
「これは頭に入れておいてよ。間違っても、魔物や魔人の能力を確認しようだなんて思わないように。万が一攻撃を受けそうになったら、ぼくかオルレアの近くに来てよ。間に合わなければ、各自で判断する事になるから、咄嗟に動けるようにシミュレーションしておいて」
ゼンが言った。
私は、頷いた。
自身の判断で、戦況が大きく変わる場面が必ず訪れる。間違えないようにしなければ……。
「執事の部隊は、いつゴウカに来れるのですか? こちらはもう準備が整いましたよね。ゴウカに行くなら明るいうちでないと、苦戦しますよ」
ルルがゼンに言った。
魔物は黒い。砂漠にいる魔物は昼間はよく見えるが、夜の闇に紛れられると厄介だ。
「確かに、ゴウカに夜は来ないといっても、イチノ、ニライ、サンチには夜が来る。ずっとゴウカの中にいるのもリスクが高いし、周りが暗くなる前に倒したいよね」
と言ってから、
「ダンの部隊は、すでに出発準備を終えているから、もうゴウカ周辺に行ってもらおうか。ちょっと待ってね」
ゼンは笑顔で固まった。
誰かと思話で話しているらしい。時折目が動く。このシステム、本当にどうにかならなかったのか。
「今、ゴウカには夜が来ないって言わなかった?」
私は、隣にいるオルレアに言った。
オルレアは少し驚いた表情をしてから、
「レイちゃんは知らないですよね。『黒の精霊王』ネロ様がいなくなってから、ゴウカには夜が来なくなったんですよ。ネロ様は、『闇を司る精霊王』ですから何か関係があるのかもしれませんね」
と言って、少し悲しそうに笑った。
闇を司る精霊王が消えたからといって、夜が来ないとはどういうことなのだろう。
ゴウカの夜は『黒の精霊王』が作っていたというわけではないだろう。
私が混乱しているのを見たヴェルデが、
「これは、精霊王達が何を『よりしろ』にしているかに関わってくるのだよ。僕はあの大きな木をよりしろにしている。ネロ君は、『夜の闇』がよりしろだったんだよ」
と言って、ニコッと笑った。
だから何だと言うのだろう。
ここで、ゼンに表情が戻った。
「もうダンの部隊はゴウカに向かうようだよ。その前に、疑問は取り除いておこうか。『精霊王のよりしろ』の話だね」
と言って、ゼンはいつものように空中に絵を描きだした。
「まずはヴェルデはあの大きな木がよりしろで、『黒の精霊王』であるネロは『夜の闇』をよりしろにしている。逆に言うと、よりしろとは、精霊王の家みたいなものだから、よりしろがないと回復もできないし、その場にとどまる事が難しくなるんだよね」
ゼンは、木と簡素化したヴェルデの絵を、暗くなった場所に簡素化したネロと思われる人の絵を描いて、暗くなった場所を消しながら言った。
ネロは回復もできず、弱っている可能性がある。どこにいるのだろうか。
「でも、ネロは日中でもゴウカの街に現れていたから、ただ夜が無くなったからいなくなった、という訳ではないんだよ。この2つにどんな関連があるかわからないけど、今はそれより、【ゴウカの魔物】の討伐を優先しよう」
ゼンは切り替えるように言った。
これにヴェルデも頷き、
「ネロ君は遊んでいるだけだろうから、すぐに戻ってくるさ。気長に待ってあげよう」
とニコニコしながら言った。




