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笑顔の破壊力が物理的な破壊力!  作者: ぽこむらとりゆ


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55/57

笑顔の破壊力 lv.55

「み、『緑の精霊王』だって? ルル様は何を言っているのかなー。ぼくにはさっぱりわからないよー。ずっと眠っているって言ったはずなんだけどなー」


 ゼンが、今までで1番下手くそな話し方をしている。


 誤魔化すスキルは習得してこなかったようだ。


「なぜ眠っているのでしょう? ご主人様が元の世界におられた頃から、徐々に回復していましたよね」


 ルルはこちらを見て、ゼンに向き直った。


「『緑の精霊王』の拠点である、ニライにご主人様が来てくださっているのに、なぜまだ回復しきっていないのか……意味がわかりません。何か、起きたくない理由でもあるのでしょうか」


 ルルがゼンに詰め寄る。


 ゼンは相当焦っているようで、言葉が出ていない。


「ヴェルデは、不安なんだよ。オルレアに何も言わずに眠ってしまった事を悔やんでいるんだ」


 ゼンが言った。


 ヴェルデとは、『緑の精霊王』の名前のようだ。


「そうですか。不安ならば、寝たフリをしてその場をやり過ごせば良いのですね。大変勉強になりました。教えてくださり、ありがとうございます」


 ルルは嫌味たっぷりに言った。


 ルルはこういう時、基本的に正論しか言わない。


 噛みつかれる側はたまらないだろう。


 だが、『緑の精霊王』が本当に起きているのならば、すぐさまオルレアに会いに行くべきだった。


 オルレアを見ると、驚いたような表情でゼンとルルを見ている。


 ずっと眠っていると思っていた父親が、すでに起きていたのだ。驚くのも無理はない。他人から聞かされて、複雑な心境だろう。


「ルル様、ごめんね。ぼく達が間違っていたよ。そうだよね。これは単なる逃げだ。ヴェルデの気持ちを考えるのなら、『オルレアに会ってちゃんと話せ』と言わなければいけなかったんだ」


 そう言ってゼンは、指をパチンと鳴らすと、私達の前から消えた。


「あれ。大神官様が消えたな。まさか、『緑の精霊王』を呼びに行った訳じゃないよな」


 アークの声色に緊張が滲んでいる。


 人間と交流を持つ精霊王もいるが、実際、中々会えるものではないのだろう。


「そのまさかでしょうね。それならこちらから出向いた方が早いかもしれません。『緑の精霊王』は、今頃ゴネているでしょうから」


 ルルは『緑の精霊王』の事を知っているようだ。


「オルレアは大丈夫? 急にこんな話になって不安だよね。オルレアが会いたくないのなら無理に行かなくて良いよ」


 私はオルレアが心配だった。


「いえ、行きます。父はすごく優しい人でした。私に会いに来てくださらなかったのは悲しいですが、会いたい気持ちが大きいです」


 オルレアは落ち着いた様子で言った。


 今何を思っているのだろうか。


「わかった。1人で行く? 私達がいたら、話しにくいんじゃない?」


 私が聞くと、オルレアはニコッと笑って、


「いえ、皆さんに父を紹介したいです。一緒に来てください」


 と言って立ち上がった。


 そして、私達は家を出て、ルルとアークがあけた、大きな穴が無くなった丘を下り、『緑の精霊王』が狸寝入りをしている大きな木の前に来た。


「皆来たんだね。これはもう、逃げ切れないね」


 ゼンが、パチンと指を鳴らすと、木の周辺を覆う結界に乗っていた土が浮き上がり、ドサッという音を立て、近くに盛ってある土の上に置かれた。


 もう一度指を鳴らすと、木の周りの結界が消え、木に近付けるようになった。


 オルレアがゆっくりと近付き、木に触ると、少し木が揺れたように見えた。


「パパ起きてる? オルレアだよ。私……ずっと寂しかった。パパが起きてるなら会いたいよ」


 オルレアが、くだけた話し方をしているのを初めて聞いた。


 今は聖女として、丁寧な言葉遣いを心がけているだけで、こっちが本来の話し方なのかもしれない。


 オルレアの目に涙が滲み始めると、木がパアアッと光り、黄緑の髪に、オルレアと同じ緑の目をした、男性が現れた。


「レア! パパも会いたかった。レアに嫌われるのが怖くて、出ていけなかったんだ。本当にごめんよ。泣かないでおくれ、パパを嫌いにならないでほしい」


 そう言ってオルレアを抱きしめた。


 この男性が、『緑の精霊王』ヴェルデのようだ。


 オルレアの事を『レア』と呼んでいるらしい。


「うう……。パパ。会いたかったよ。もう勝手にいなくならないで」


 オルレアが涙声で言った。


 子供だ。オルレアが子供になっている。


「こんな珍しい光景、そうそう見られるものではありません。しっかりと目に焼き付けましょう」


 ルルがニヤニヤしながら、私の耳元で言った。


「良かったな、オルレア……」


 アークは、今にももらい泣きしそうだ。


 再会を喜んだ後、ヴェルデはゼンの前に行き、


「ゼン、レアをずっと見守ってくれてたんだね。ありがとう」


 と言い、にこやかに笑った。


 ゼンは、照れたように、頭を触りながら、


「何を言ってるんだよ、ヴェルデ。ぼくは大神官だ。大神官が聖女を見張るのは当たり前なんだよ。聖女が悪さをすると、神殿の評判が下がってしまうからね」


 と言うと、


「ふふふ。ゼンらしいね。気を遣わないでって言ってくれているのだろう? 僕にはわかるのだから、恥ずかしがらないでいい」


 ヴェルデが言うと、ゼンの顔が赤くなった。


 いつもは人をからかう側のゼンが、ヴェルデに自身の気遣いまで口にされ、恥ずかしくて仕方ないらしい。


「ヴェルデ、本当に君は変わらないね。君のそういう所はオルレアとそっくりだよ」


 ゼンが皮肉混じりに言うと、ヴェルデとオルレアは顔を見合わせて笑った。


 褒められていると思ったようだ。似たもの親子とはこういう人達の事を言うのだろう。


 次にヴェルデは、私の前まで来て(ひざまず)いた。


「レイル様。僕が願ってしまった事で、あなたを巻き込んでしまいました。申し訳ありません。そして、この世界を選んでくれてありがとうございます」


 ヴェルデは、目をキラキラさせて言った。


 この目は、この世界に来てから見る機会が多い。


「ヴェルデ様、そんなにかしこまらないで下さい。ヴェルデ様にお願いされたからではなく、私は、自分で選んでここに来たんですから」


 私が言うと、


「レイル様は、僕がずっと待っていた『英雄』で、また、『命の恩人』です。僕に『様』などつけず、どうぞヴェルデとお呼びください」


 そう言って、私の手を取った。


 その瞬間、オルレアが私とヴェルデの間に入り、右手で私の左手を持ち、左手で、ヴェルデの右手を持って、


「パパ? 気安くレイちゃんに触らないで」


 とヴェルデの方を見て言った。


 こちらから表情は見えなかったが、声が明るかったため、笑顔のオルレアを想像していたが、ヴェルデの表情に焦りが滲んでいる。


「そうだね。いきなり女の子に触れるなんて、パパが悪かったよ。レイル様。申し訳ありません」


 精霊王といえども、娘には弱いらしい。


「よし、ヴェルデの顔見せも終わった所で、作戦会議の続きといこうか」


 ゼンが言うと、パチンと指を鳴らした。


 その瞬間、ゼンと初めて会った日に案内された、真っ白な部屋にいた。


「レイルちゃんの家にずっとお邪魔しているのも悪いからね。場所を変えてみたんだ。ちなみにさっきまでのお茶とお菓子も持ってきているよ」


 ゼンが指さした方を見ると、私の家にあったはずのお茶とお菓子が、大きな長方形のテーブルに置かれ、テーブルの周りには椅子が6脚用意されている。


 私は、ルルとオルレアに、横並びになっている3脚のうちの真ん中に誘導され座った。私の右にルル、左にオルレアが座る。


 後の3人は、オルレアの向かいにヴェルデ、隣にゼン、アークの順に座っている。


「さて、せっかくヴェルデに来てもらったんだ。思い出すのが辛いのはわかってるけど、この世界の未来の為に、50年前の話をしてもらおうか」


 ゼンが、ヴェルデに言った。



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― 新着の感想 ―
最新話まで追いつきました。 気持ちは分かるのですが、もう少し話の展開が早い方がいいかなと思いました。 大事な作品ですから丁寧に書きたいという想いが伝わるので、僕としては全然問題はありません。 精…
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