笑顔の破壊力 lv.51
今日は、沢山の事があった。
作戦会議をするために家に来たはずが、土を掘り、私がこの世界に来た原因を知る事になった。
外を見ると、暗くなっている。
さすがに脱線しすぎたか……。
「今から作戦会議すると、遅くなっちゃうから、今日は解散しよう。【ゴウカの魔物】の事を考えると、早く集まらないといけないのはわかってるんだけど、考えたい事もあって、数日猶予がほしい」
と私が言うと、
「そうだね。レイルちゃんは頭の中を整理したいよね。じゃあ、通信用の魔道具を置いていくから、作戦会議をするならいつでも連絡してよ」
と言って、ゼンはパチンと指を鳴らし、5つのシルバーのイヤリングを出した。
「これを耳につけてから、埋め込まれている石に1度触れて、話したい相手の名前を言うと、その相手と話す事ができる。2度触れると5つ全てが繋がるよ。受け取る側は、石に触れたら話せるようになるからね。思話だと、複数人で会話できないから、これをみんな無くさずに持っておいてよ」
そう言うと、ゼンはその中の1つを取り、耳につけた。
次にアークが、イヤリングを取り、
「女の子の家に遅くまでいたなんて事になったら、母親に何を言われるかわからないから、とりあえず俺は帰るよ。またな」
と言って家を出て行った。
クロエは、アークにとって優先すべき人物のようだ。
これくらいの歳の男の子は、親に反抗するものだと思っていたが、アークがあんなに素直で優しいのは、クロエの育て方が良かったのだろう。
「じゃあぼくも帰ろうかな。今日はゆっくり休んでよ。またね」
と言って、ゼンは指をパチンと鳴らし、消えた。
「オルレアは泊まっていくよね?」
と私が聞くと、オルレアは眩しい程の笑顔をこちらに向け、「はい!」と言った。
私達もそれぞれイヤリングを取り、無くさないよう、しまった。
その日は、ほとんどお茶とお菓子しか食べていなかった事もあり、ルルが腕によりをかけて夕飯を作ってくれた。
キュインをして、お風呂に入り、上がって部屋に行くと、また寝る場所で2人が揉めていた。
身体強化があるといっても、1日ですごい量の情報を頭に入れた事で、精神的な疲れが出ていた私は、すぐに眠ってしまった。
次の日の朝、だいぶ早くに目が覚めた。
ルルと至近距離で目が合って、叫びそうになったがなんとか耐えた。
寝ているオルレアを起こさないように、顔を洗って、眼鏡をかけてから、私とルルは外に出た。
「すごい……」
思わず声が出た。
昨日、ルルとアークが空けた、ありえない大きさの穴が塞がっている。
土が足された跡もなく、まるでずっと変わらず存在していたかのようだ。
丘を下った所にある土も、そのまま置いてあった。
下へ行かずとも、量が多すぎて、ここからでもよく見える。
「穴を掘った跡も残ってないですよ、どうなっているのでしょうか……」
ルルは何やら、考える素振りをしている。
「ご主人様。少しお話をしても良いですか?」
ルルが言った。
その目は真剣で、断るなんて出来なかった。
「いいよ。そこに座ろうか」
私は見晴らしが良く、景色が綺麗に見える場所をさし言った。
ルルはゆっくりと座ると、すうっと息を吸った。
「ルルは戦いにおいて、何のお役にも立てません。土を集めるくらいしかできません。ご主人様と出会って、本来、感じる事のないはずの感情を知りました。聖女も勇者も大神官もバカですが、一緒にいると楽しいです」
どうしたのだろうか。ルルが真面目に話している。
「食事も睡眠も必要としないルルが、毎日人間の真似事をしています。それが楽しくて仕方がありません。ルルは、この生活を手放したくないのです」
ルルの言葉を聞いていると、胸が熱くなった。
「ルルは使命があり、この世界に来ました。ですが、今は、ここがルルの居場所なのでは、と勘違いまでしてしまっています。なので、絶対にこの生活を守ってもらわなければ困るのです!」
心なしか、ルルの声が震えている気がする。ルルも涙を堪えているのかもしれない。
どうやら、昨日の『常軌を逸した行動』だと思っていた事は、私の役に立とうとルルなりに頑張った結果らしい。
私はルルの頭を撫でながら、
「勝つよ。私だってルルとずっと一緒にいるって決めてるんだから」
と言って笑った。
ルルもホッとしたような表情を見せてから、ニコッと可愛い笑顔を返してくれた。
2人で景色を見ていると、ふと、結界に囲まれた大きな木が目に入った。
そして、昨日聞いた『緑の精霊王』の話が浮かんだ。
「ねえ、精霊は現象だって前に教えてくれたよね。『緑の精霊王』は現象ではないの?」
私は、ずっと気になっていた、精霊王についての話を切り出した。
「精霊と精霊王は、似て非なるものですよ! 精霊は現象そのもので、目視できる事はほぼありません! 一方精霊王は、実体があり、たまに街で人に紛れていたりもするのですよ!」
そう言ったルルは悪戯っぽく笑った。
精霊王は現象では無いのか。人に紛れていた『緑の精霊王』と、オルレアの母、ローズさんが出会い、恋に落ちたのかもしれない。
なんてロマンチックな話だろう。
「精霊王はオルカラ王国の各街の象徴として、5人存在しています!」
ルルが言った。
精霊王は『人』で数えるのか。
『緑の精霊王』以外にも存在しているとは。
それから、ルルは、
イチノの象徴である、炎を司る『赤の精霊王』
ニライの象徴である、自然を司る『緑の精霊王』
サンチの象徴である、光を司る『白の精霊王』
シームの象徴である、水を司る『青の精霊王』
ゴウカの象徴である、闇を司る『黒の精霊王』
がいる事を教えてくれた。
オルカラ王国だけに精霊王が集中している事で、他国からの批判もあるようだ。
そこには、オルカラ王国が昔、帝国であったという歴史が存在するらしいが、ややこしくなるので割愛する。
オルカラ王国の武力は、精霊王の独占により強力であるため、周辺の国々への脅威でないと示す為にも、国同士で争わない『無戦協定』を各国と結んでいる。
精霊王のいる街は、災厄に見舞われる事なく、平和が約束される、と言われているらしい。
なら、ゴウカは……?
「ゴウカにも『黒の精霊王』がいるんだよね。なのに、何で魔物に支配されたの?」
私が聞くと、
ルルは困ったような表情で、
「それが……わからないのです」
と言った後に、
「『黒の精霊王』は、自由を好み、フラッとゴウカの街に現れては、民と交流し、ゴウカの住民から慕われていましたが、50年前から姿が見えず、どこからか現れた魔物に侵略され、ゴウカは今の有様になっているのです」
と続けた。
普通に人間と交流している精霊王もいるのか。
精霊王は意外と身近な存在のようだ。
「じゃあ、『黒の精霊王』に何かあって、魔物がゴウカに現れたって事なのかな。でも、精霊王ってすごい存在だと思うんだけど、そんな簡単にやられたりするものなの?」
謎ばかりが増える。
「『黒の精霊王』には弱点がありました」
ルルは深刻そうな顔で言った。
精霊王の弱点……。
そこを突かれて、何者かにやられてしまったのか……。
「弱点って……。何だったの?」
私が緊張しながら聞くと、ルルは一拍おいてから、ニヤっと笑って、
「それは……。『弱い者』です」
と言った。




