表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
笑顔の破壊力が物理的な破壊力!  作者: ぽこむらとりゆ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/57

笑顔の破壊力 lv.49

『認識阻害』は、初めてゼンに会った日に、ゼンのいる部屋にかけられていたものだ。


 部屋にいるのに、何が置いてあるのか、部屋の広さはどのくらいなのか等がわからなくなっていた。


 ゼンが存在しているのか、していないのかも曖昧で妙な気分になったものだ。


 私は、ゼンの耳を凝視しながら、


「『認識阻害』を耳にだけかけているんですね。そう言われると、どんな耳なのかわからないです。こんなに意識してるのにわからないなんてすごい魔法ですよね」


 と言ってゼンの目を見た。


「そうだよね。ぼくもこの魔法は気に入っているんだ。でも、使いすぎて、ぼくの周りで驚く人はいなくなったよ」


 そう言うとゼンは、遠い目をした。


 さすがゼンだ。


 飽きられるまで、人に同じ事をする勇気は私には無い。


「では、話はこの辺で。じゃあ土を掘って移動させたいから、手伝って」


 私は皆に言った。


 ゼンは『認識阻害』をといて、本当の耳を見せたかったようだが、そんな事に時間を使っていられない。


 ルルがキョロキョロと辺りを見回し、


「土を掘るのは何とかなりますが、運ぶにしても土を沢山入れられる箱がほしいですね!」

 

 と言うと、ゼンが指をパチンと鳴らし、両手で持てる位のサイズの箱を出した。


 この大きさじゃ、あまり量は入らなそうだ。


「おっ! こんなに小さいのにいくらでも入ると有名な『マジックボックス』じゃないですか! 初めて見ました」


 箱を見てアークが言った。


 細かく説明するとは、アークには『マジックボックス』のスポンサーでもついているのだろうか。


 それを聞いたオルレアが、


「でも、『マジックボックス』があまり流通していないのは、結局、『マジックバッグ』の方が使い勝手が良いからですよね? 私も『マジックボックス』を持っている人を初めて見ました」


 そう言って、ゼンを見た。


 もちろんオルレアに悪意はない。


 ゼンは平静を装っているように見えるが、多少のダメージがあるようだ。


 私からすると、ゼンが『マジックボックス』を持っていてくれて良かった。


 これで沢山土が運べそうだ。


「ご主人様のお役に立てて、国民には人気のない『マジックボックス』も本望でしょう」


 ルルはゼンを見て言った。


「私はありがたいですよ」


 一応フォローを入れる。


 そして、私は家の裏へまわり、


「ここの土を入れれるだけ『マジックボックス』に入れていこう。家が崩れる程掘らないでね」


 と言った。


 家が崩れる程掘らないでね。は、普通は言わなくても誰でもわかる事だろう。


 だが、このメンバーはわからない。何をしでかすかわからない天然揃いだ。


「レイちゃんが話していた時、植物達が『次の日には、良い土が穴を埋める』と言っていましたよね。移動させた土は残り、空いた穴は埋められるだなんて、ここは本当にすごい場所です」


 オルレアが手で土を掘りながら言った。


 ここの土は想像の何倍も柔らかく、素手でも掘りやすい。

 

 この世界に来て、初めて畑を作った時にも、あまり時間がかからなかったが、オルレアが簡単そうに手で土を掘れているところを見ると、あれは身体強化のおかげ、というよりは、この土の性質のおかげだったのかもしれない。


 ルルとアークが、ぎゃーぎゃーと騒ぐ声を聞きながら、相当な量の土を『マジックボックス』に詰める事ができた。


 この土をどこに置こうか……。


 元の世界と同じ、大きな木の周りは、木を中心に、直径にして10ミール程の広さの草原が広がっている。


 そこになら、土を置けるのではないか。


 私はその事をオルレアに相談した。


「では、そこの植物達に聞いてみますね。少し待っていて下さい」


 と言い、オルレアは丘をおりた。


 しばらくすると、オルレアが丘をのぼり、こちらへ来た。


「この土地にある土であれば、いくら置いてくれてもかまわないと、植物達が言っていましたので、あそこに置かせてもらいましょう」

 

 オルレアは、『マジックボックス』を持っているゼンに向かって言った。


 そして、全員で丘をおり、大きな木から少し離れたところで、ゼンが『マジックボックス』の中を解放し、土を出した。


 ザアアアアアアアアアアアッ。



 ザアアアアアアアアアアアアッ。



 ザアアアアアアアアアアアアアッ。

 

 終わらない。なんという量だ。


 丘の方を見てみると、家の裏側の土を入れていたはずが、左右がごそっと削れて大きな穴が空いている。


 まるで、左右から食べられたリンゴのようだ。


 これは地盤が危ないかもしれない。


 ザアアアアアアアアアアアアッ。


 という音を聞きながら、私はルルとアークに話しかけた。


「ねえ、2人はどこの土を『マジックボックス』に入れたの?」


 私が聞くと、


 ルルが胸を張り、自慢気に、


「あちらをご覧ください。左側に大きな穴が空いているのがわかりますか? あの穴の分の土を全てルルが1人で入れたのです! 我ながら良い仕事をしたと思います!」


 と言ってこちらをチラチラと見ている。


 褒めてほしいようだが、褒めるわけがない。


 次にアークが、ルル同様自慢気に、


「俺は、その反対側の大きな穴の土を全部入れたんだ。ルルより量は多いと思うぞ」


 そう言って、チラチラこちらを見た。


 まさかこんなに常識がないとは……。


 家が崩れる程掘らないで、のギリギリを攻めてくるとは思いもしなかった。


 作業中、確かに私はオルレアが土を掘っているところしか見ていない。


 ゼンは、『マジックボックス』を持って土を集めていたから、ゼンはあの2人の『常軌を逸した行動』に関わってはいないだろう。


 いや、土を集めていたのだから、異常な行動には気付いていたはずだ。


 異常だと思わなかったのか……。


 頭が痛い。


 ザアアアアアアアアアアアッ。


 物凄い量の土が積み上がり、山のようになっている。

 

 このままでは、大きな木まで埋まってしまう。


 ザアアアアアアアアアアアッ。


 土が流れる音がうるさい。まだまだ出てくる。


 ザアアアアアアアアアアアッ。


「ストップストップ! ゼン様止めて下さい!」


 私は叫んだ。


 人生で1番大きな声を出したかもしれない。


 私の声に気付いたゼンが、『マジックボックス』の解放を止めた。


「土の量が多すぎて、このままでは木まで埋まってしまいます」


 私が言うと、


 ゼンは指をパチンと鳴らし、木を丸く囲むように結界を張った。


「これは『物理結界』だよ。物の侵入を許さない。これで、土が木にかぶさることはないでしょ? この木なら大丈夫だろうけど、一応空気は通すから安心してよ」


 そう言ってニコッと笑った。


 こういう所はちゃんとしているのに、なぜ、所々抜け落ちているのか。


「ありがとうございます。では、残りもお願いします」


 私が言うと、ゼンは再び『マジックボックス』を解放した。


 しばらくすると、

 

「もう出てこないようだ」


 ゼンは、『マジックボックス』を逆さにして振りながら言った。


 物凄い量の土を移せたけれど、植物達が言っていた、『たくさんたくさんになるように』がどれ程の量なのかがわからない。


「なあ、これって『マジックボックス』に入れたまま置いておくほうが場所とらないんじゃないか?」


 アークが言った。


 確かに。それならこんなにハラハラする必要も無かったのではないか。


 それにはゼンが、


「それは出来ないよ。この場所は特別だから、ここに置くことに意味があるんだと思う。ぼくにも詳しくはわからないけどね」


 と言って、結界に囲まれた大きな木を見た。


 この木に何かあるのか。オルレアが悲しそうに笑っているのが気になった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ