笑顔の破壊力 lv.48
『白の輪』は、ダンから渡された白いブレスレットだ。
対になっている『黒の輪』を使った場所にワープで戻れる。
私が『黒の輪』を使ったのは家だけど、何故ゼンは知っているのか……。
それにしても……『あいつ』……?
ゼンは、ダンの事を『あいつ』と言ったのか。
「『白の輪』ならありますけど」
と言って、私はゼンに白いブレスレットを渡した。
「今、『あいつ』って言いましたよね? 『白の輪』を私にくれたのはダンなんですけど、『あいつ』ってダンの事ですか?」
私は2人がどういう関係なのか気になった。
ゼンはニコニコしながら、
「そうだよ。いつも王宮にいる、顔に笑顔を張り付けている、あのダンの事を『あいつ』って言ったんだ」
そう言って、ゼンはダンの笑顔を真似した。
その顔が、ダンと似ていて笑いそうになる。
「キャハハハハ! 大神官! 何ですかその顔は! あの胡散臭い執事と似すぎですよ! ハハハ! 笑いが止まりません!」
ルルが爆笑している。
アークとオルレアは、立場上あまり笑いたくないのか、笑いを堪えてプルプルと震えている。
「顔はあまり似ていないのに、その笑顔は本当に似てますね」
私が言うと、
「顔も似てるでしょ? ぼくとダンは兄弟なんだから」
とゼンが言った。
『えええええ!?』
全員が驚いて叫んだ。
「今日王宮に行ったのに、ダンは来なかったでしょ? ダンはぼくの事が好きでは無いから、ぼくを避けて今日は出てこなかったんだよ」
ゼンはそう言いながらニヤついている。
今まで散々、ダンに何かをやらかしているのだろう。
ダンがいない事は気になっていた。
そういう事情があったのか。
この世界の出身である、アークとオルレアも2人が兄弟だという事を知らなかったらしい。
誰も、あのダンとゼンが兄弟だとは思わないだろう。
ゼンの見た目はまだ十三、四歳程の少年で、ダンは胡散臭い笑顔を顔に張り付けた若い男性だ。
ゼンと兄弟だという事は、ダンも相当長い時間を生きているのだろう。
「そうだよ。ダンもぼく同様に、見た目の成長がすっごく遅いんだ」
兄弟と言われると、少し納得した。
この様に、私の表情を読み、心の声を聞いた二人の反応は似ている。
「あと、分かっているだろうけど、もちろんぼくが兄だよ」
ゼンは得意気に言った。
こんな駄々っ子のような性格のゼンの弟が、あの落ち着いた性格のダン……?
ああ、反面教師か。
「ねえレイルちゃん。今何か、ぼくに失礼な事を考えなかった?」
ゼンは、まだニヤニヤしている。
こういう所は本当にルルとそっくりだ。ダンでは無く、本当はこの二人がきょうだいなのではないだろうか。
ゼンとルルは、見た目の年齢もさほど変わらない。きょうだいだと言っても誰も疑わないだろう。
「いいえ、私は失礼なことなど考えていませんよ」
物凄く棒読みになった。
アークとオルレアの肩が、更に小刻みに動いている。
ルルはまだ先程の顔が頭にチラつくらしく、笑って、落ち着き、思い出したらまた笑いを繰り返している。
見ている側は、ただただ怖い。
ゼンは訝しげな様子でこちらを見たあとに、後ろを向いて、ふうっと息を吐いた。
そして、私達の方に向き直り、
「よし、じゃあ行こう。いざ、レイルちゃんの家へ」
と嬉しそうに言うと、ルル、アーク、オルレアも嬉しそうに「おー!」と息を合わせ声を上げた。
もう完全に遠足の雰囲気だ。
この人達は、先程まで魔物討伐をしていた事など忘れている。
ゼンがブレスレットのボタンを押した。
すると、少しの浮遊感の後に、家の前に降りた。
アークは周りを見渡すと、
「え! このきれいな空気、前に来た、妖精の国じゃないか」
と言った。
「勇者は何を言っているのですか? 大神官が、ご主人様の家に行くと言っていたのが聞こえなかったのですか?」
ルルは、汚いものでも見るような目でアークを見ている。
「ちょっとふざけただけだろう! そんな目で見ないでくれ」
アークはアタフタしながら言った。
本気か冗談かわかりにくいキャラクターなだけに、冗談を言うと痛い人にしか見えなくなる。
せっかくのイケメンがもったいない。
「レイちゃん、植物達がお話ししたがっているのですが、今よろしいですか?」
オルレアが聞いてきた。
私も話したかった。
【ゴウカの魔物】との戦いが終わった後のご褒美として、オルレアにお願いしようと思っていたが、植物達から話したいと言ってくれるとは。
「ずっと話したかったから嬉しい。お願い」
と私はオルレアに言った。
オルレアは、
「では……」
と言うと、両手の平を上に向け、両手を合わせ、お皿のようにした。
すると、手の平から小さな白い光が溢れ出し、その光を植物達に纏わせた。
「皆さん、またレイちゃんとお話できますよ」
オルレアが植物達に語りかける。
『ふふふ、レイルだわ』
『私達の野菜や果物をいつも食べてくれてありがとう』
『レイルの話を聞くの大好きよ』
『レイルになら、とっておきを教えてあげる』
『いいね、教えてあげよう』
『ここの土を、毎日どこかに移動させて』
『次の日には、また良い土が、できた穴を埋めるわ』
『たくさんたくさんになるように』
『ふふふふ、たくさんいるのでしょう?』
植物達が私に語りかける。
どういう意味だろう。でも……。
「わかったよ。土ね。毎日飛ばされないところで溜めていくよ」
と私が言うと、
『そうね。それが良いわ。たくさんたくさんになるように』
それを最後に、植物達を纏う光が消えた。
「あっ……私も話したい事あるのに……」
植物達が言っていた、土をどこかに溜めろとはどういう事なのだろうか。
私が必要なのか。誰かが必要としているのか。
「植物達がどうしてもレイちゃんに伝えたい事があると言って聞かなかったんです。今回は要件があったので、オルレアの花は大人しくしていたみたいですね」
オルレアはそう言うと、オルレアの花を見た。
私もつられて目をやると、なんとなく寂しそうに見えた。
私は、オルレアの花の前にしゃがみ、
「気を遣ってくれたんだね。ありがとう。また、素敵な歌を聞かせてね」
と言って、花びらを指でチョンっと優しく触った。
「レイちゃん、他の植物達が嫉妬してしまいますよ」
と言うオルレアも、嬉しそうに見えた。
「人が植物と話すのを見たのは初めてだよ。レイルちゃんは相当植物達に好かれているんだね。大体の植物は、人間をあまり好いてはいないのにすごいよ」
ゼンが言った。
植物が人間を好きでは無い。どこからの情報なのか。
「なぜ大神官にそんな事がわかるのですか? 大神官に変な気配は無いので、精霊の類ではありませんよね?」
ルルは疑いの目でゼンを見ている。
「ぼくは精霊でも妖精でもないよ。だけど、自然と共に生きるエルフの血が流れているからね。何となく、植物の感情のようなものがわかるんだよ」
ゼンは言うと、どうだ、というような表情をしてこちらを見た。
正直、インパクトには欠ける。
あれだけ驚いた後に実はエルフでした。はあまりハマらない。
「確かに、エルフは自然の中で生きていますね。俺もエルフは何人か知り合いです。皆自然を大切にしてますよ。良い種族ですよね」
アークが言ったが、違う。ゼンが欲しいのはその反応ではない。
「大神官様も植物達の事がわかるのですね。少しでも気にかけてくれる人がいると、植物達も安心して生きられるので、エルフの方々には感謝しています」
オルレアが嬉しそうにゼンに言った。
ゼンは笑っているが、口の辺りが引きつっている。
「へー、大神官はエルフだったんですねー」
ルルは、心底興味が無さそうだ。
私がフォローを入れるしか無いか。
「大神官様がエルフだなんて、全然気が付きませんでした。エルフといえば、耳が人より尖っているイメージがあったので。本当に驚きました」
私はできるだけオーバーに言った。
「レイルちゃんは、前に、ぼくをゼン様と呼ぶ約束をしたでしょ? 大神官様じゃ返事しないからね」
ゼンはプイッと顔を背けた。
ものすごく面倒くさい。
こんなに扱いにくい大神官、世界中探しても1人しかいないだろう。
「そうでしたね。ゼン様はエルフだったんですね。すごいです。では、土を掘って移動させるので、家の中で待っていて下さい」
と私が言うと、
「ちょっと待ってよ! ぼくも手伝うし、もうちょっと無いの? 何で耳が尖っていないのか知りたく無いの? 知りたいでしょ?」
ゼンは必死だ。
友達がいないのはこういう所なんだろう。
エルフなのに耳が尖っていない、というのは本の世界でも聞いた事がない。
ハーフエルフですら、尖っているものだ。
少し興味がある。
「それは知りたいです。教えてもらえるんですか?」
私はゼンに聞いた。
ゼンは自信に満ち溢れた顔をしている。
「レイルちゃんが言うなら教えるしかないね。ぼくの耳が尖っていない理由は……」
ここで無駄に間を空け、
「『認識阻害』をかけているからなんだ」
そう言ってゼンは胸を張った。




