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笑顔の破壊力が物理的な破壊力!  作者: ぽこむらとりゆ


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46/57

笑顔の破壊力 lv.46

「魔物がいないってどういう事だよ。国境側の結界は削られて無いって事か?」


 アークが聞いてきた。


「たぶんそう。今結界を細かく見てるけど、こっちと比べると、相当分厚く見える。『ゴウカの中心』辺りからこっちにかけてにしか魔物はいないみたい」


 それを聞いたルルが


「魔物共の標的はオルカラ王国だけ、という事ですか。舐められていますね」


 怒りを我慢したような低い声で言った。


「でも、他国との揉め事を無くせたと思うと、少し気が楽になりました」


 オルレアは胸に手を当てている。


 もし、オルカラ王国に出現した魔物が、他国に侵攻したとしたら、王国が責任を取らされるのは目に見えている。


「そうだな。そう考えるとこの状況は、まだマシなのかもしれない」


 アークが、複雑な表情をしながら言った。


「じゃあそろそろ、今結界に張り付いてる他の魔物も倒してもらおうか。レイルちゃんもやりたいよね? 左半分をアークに、右半分がレイルちゃんでどう?」


 とゼンが提案してきた。


 嬉しい。


 さっき、8体の魔物の『核』をアークに伝えていた時、そのまま私が神力を撃ちたくて仕方が無かった。


「アーク、それで良い? 私も早く一緒に戦いたい」


 私が言うと、アークは笑顔になり、


「良いに決まってるだろ! カッコいい所を見せたかったけど、レイルがやりたいなら、それが最優先だ」


 そう言うと、私に拳を向けてきた。


 これは、漫画でよくあるやつだ。


 私も拳を作り、アークの拳にぶつけた。


「じゃあアークから倒してよ」


 ゼンが言うと、指をパチンと鳴らし、結界を挟み、魔物の前にワープした。

 

 ここの魔物も結界にへばりついている。


 数は20体程。


 この数の『核』の位置を言うのは、少し大変そうだ。


 私は左手で丸を作り、左目で覗き、魔物の『核』を探した。


 今いる全部の個体を見終わった頃に、アークに呼ばれた。


「あのさ……。レイルに精神操作かけていいか?」


 まさかの発言だった。意味がわからない。


 練習をするにしても、なぜ私なのか。


 警戒しているのが顔に出ていたらしく、


「いや、違うんだ。変な意味じゃなくて、レイルは今『核』を見ただろ? 俺の精神操作は、人を操る事もできるが、人の記憶を覗く事もできる」


 まで言うと、焦ったように続けた。


「その記憶は鮮明に頭に残るんだ。だから今、レイルが見た『核』の位置を自分で見た方がレイルに負担が少ないかと思ったんだが……」


 と言って、伺うような目でこちらを見た。


 わかってはいたが、精神操作も相当やばい能力だ。


 まさか記憶が覗けるとは……。


 見られて困る記憶など無いが、流石に見られたくないものはある。


「ご主人様が、入浴やお着替えをしていらっしゃる時の記憶を覗く事も出来るのではないですか? 勇者は下心がありますから、ルルは気になります!」


 ルルは、軽蔑するような目でアークを見た。


 オルレアも力強く何度も頷いている。


 それを聞いたアークは、さらに焦ったように、


「いやいやいや! 何言ってるんだよ。見る記憶はレイルが決めるんだ。精神操作をかける前に、その事を考えてくれるだけで良い。それ以外の記憶は見ないと誓うよ」


 私の目を真っ直ぐ見ながら話した。


「そうなんだ。なら良いよ。それなら私も戦闘が楽になりそう」


 私が言うと、アークはニコッと笑い、


「ありがとうレイル。一瞬、乗り移られた感じがすると思う。準備ができたら言ってくれ」


 と言った。


 私は、先程魔物を能力で覗いた事を思い出していた。


 右から左に魔物を覗いていく。まだ記憶は鮮明だ。


「いいよ」と私が言うと、


 頭の中に違和感がきた。そして、すぐに消えた。


「終わったぞ。ありがとなレイル」


 と言って魔物に向き直り、また、ものすごい速さで数十体の魔物を倒した。


 今回は数が多いからか、剣を振る音が何度か聞こえた。


 そして、アークは結界の中に入り、魔物から落ちた魔力石を拾っている。

 

 アークは自身の能力との相性が良い。


 こんな所で精神操作が役に立つとは……。


「相手が望んだ所だけ記憶が見られるなんて、精神操作って便利な能力なんだね」


 私は、精神操作という能力を勘違いしていたかもしれない。


 ただ、人の思考を意のままに操る能力だとばかり思っていた。


「まあ、見ようと思えば鍵をかけている記憶も見られるけどな。それをするのは悪い奴にだけだ。精神操作は慣れれば結構使い勝手が良いぞ!」


 と言ってアークはニッと笑った。


 ゼンがパチンと指を鳴らすと、右側にいた魔物の群れと、結界を挟んだ場所にいた。


 ここでルルが、


「では、ご主人様! 思う存分魔物共を倒してください!」


 と言うと、目をキラキラさせて私を見た。


「うん。じゃあ見える範囲の魔物は倒しちゃうね」


 やっと神力が撃てる。


 待ちわびた瞬間だ。


 私は目の前にいる、魔物の『核』の位置を記憶した。


 そして、メガネを外し、右手を上げ、魔物を指さし、左目を閉じ、魔物に照準を合わせて笑った。


 これは魔物を倒すために作った笑顔ではない。


 嬉しくて笑った。楽しくて笑った。


 ドッカーーーッン!


 何やらすごい音が聞こえた。


 1発で数十体が消し飛んだ。


 皆を見ると、全員ポカーンと魔物が消えた場所を見ている。


「レイルちゃん。それが君の『普通』なのかな? ニライの神殿で見た時、ぼくはもう少し、優しい力だと思ったんだけど、神力って凄い威力なんだね」


 ゼンが言った。


 普段は大爆発なんてしない。ただの目からビームだ。


 今日の神力はどうなっているのだろう。


「魔物共が一撃で吹き飛びましたよ! なんという威力! ご主人様にしかできない技です! いつもの数十倍の強力な神力でした!」

 

 ルルは大興奮だ。


「私にもさっぱり……」


 私が呟くと、ゼンが何かを思いついたように、


「レイルちゃん、今神力を撃った時の感情はどういったものだったか聞いても良いかい?」


 と私に聞いた。


 撃った時の感情……。


 いつもは、とりあえず笑顔を作っている。


 さっきは……。


「楽しかった……。嬉しくて、すごく楽しくて、自然に笑顔になってた……かも」

 

 私は、その時の気持ちを思い出していた。


 気持ちが高揚して、早く早くと、子どもみたいに胸を高鳴らせていた。


「それだよ! レイルちゃんが本当に楽しくて、嬉しくて笑う時、その時に威力が増強するんだ! これはすごい発見だよ! 面白いなあ」


 ゼンが嬉しそうに言った。


「俺が初めてレイルに出会った時、レイルが撃った神力は、これくらいの威力だった。という事は、聖剣が吸収したのはとんでもない量の神力って事になるな。どうりで、強くなるわけだ」


 アークが納得したように頷きながら言った。

 

 あの時も、友達ができるという期待感で『ちゃんと』笑った気がする。


 それで威力が変わるとは……。


 私が楽しければ楽しいほど、嬉しければ嬉しいほど強い神力が撃てる。


 大笑いしながらなら、どれほどの威力になるのか。


 強さの上限はどれ位までなのか。


 気にはなるけれど、魔物を大笑いしながら倒すなんて、そんな悪魔みたいな事はしたくないのが本音だ。


 とはいえ、これは嬉しい誤算かもしれない。


 強くなれる可能性があるのなら、この戦いの追い風になる。


「レイちゃんカッコいいです。レイちゃんは雲の上の存在なのだと実感します。私は歴史的な瞬間に立ち会っているのですね」


 オルレアが言った。


 何だか、崇拝されすぎている気がする。


「ご主人様は最高です! ご主人様は最高です! ご主人様は最高です! ご主人様は最高です! ご主人様は最高です!」


 ついにルルが壊れた。


 

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