笑顔の破壊力 lv.45
ゼンが指をパチンと鳴らすと、私達はゴウカから少し離れた場所にいた。
「やっぱりすごいですね。私も色んな魔法を扱えたら、とは思いますが……。結界と治癒で皆さんを必ずお守りします!」
オルレアが大きな声で言った。
「一応、ゴウカからちょっとだけ離れた位置にワープしたよ。近くに行って、不測の事態が起きると最悪だからね」
ゼンが得意気に言った。
ゼンは冷静だ。このパーティーは皆、称号は凄いものを持っているが、戦闘経験が無さすぎる。
1人でも冷静でいてくれると、パーティーに余裕が生まれる。
「ありがとうございます。これくらいの距離ならゴウカの様子を見る事ができるので、見てみます」
そう言って私は、ズーム機能を使った。
段々とゴウカに近付いていく。
見えた。
「結界にへばりついている魔物が多数と、周辺をうろついてるのも多数。何でこんなに数が増えたんだろう」
私は、ズーム機能を使いながら、皆に状況を伝えた。
「驚いたな。ここは、ゴウカからちょっとだけ離れているとは言ったけど、300ミールはある。レイルちゃんは、ただ見るだけで遠くの様子がわかるんだね」
ゼンが声を弾ませながら言った。
周りからは、私はただゴウカの方を見ているだけにみえるようだ。
「なんか……。結界が動いてるような気がする……。気のせいかな」
魔物が結界に当たるたびに、結界が弾んでいるように見える。
「それはまずいね。結界の前まで飛ぶよ!」
ゼンが、指をパチンと鳴らすと、私達は結界の目の前にいた。
結界を挟んだ目の前に、8体の魔物がいた。
どの個体も、結界にへばりつき、結界を削りとり食べている。
咀嚼をしていない所をみると、本当に取り込んでいるだけのようだ。
バリンッと結界が削れると同時に、カケラが魔物の口の中へ消えていく。
最近オルレアが張ったばかりだという結界が、魔物の餌になっている。
「ちょっと見ない内にこんなに薄くなるのかよ……」
アークが結界を見て言った。
「想像以上の成長スピードですね! これは、戦闘は避けられないかもしれないです!」
ルルは何故かニヤけている。
「ルルさん、何故笑っているのですか? これから戦闘になるのですよね? 私は少し不安です……。レイちゃんの勇姿が見られると思うと、楽しみも少しありますが」
オルレアが言った。
何を言っているのか。
この人たちには、危機感というものが欠如している。
「ルルは楽しみが勝っています! ご主人様の神力を合法で拝めるのですから!」
ルルは胸の前で拳を握った。
するとアークが私の前に来て、
「俺にやらせてくれないか?」
と言った。
アークの目は真剣そのものだ。
前回は私が勝手に倒したのを見ただけで、戦えずもどかしそうだった。
魔物との戦い方を知る絶好の機会でもある。
「じゃあ私が『核』の位置を言うから、倒すのはアークにお願いするね」
私はアークと目を合わせた。
アークは頷き、「ありがとう」と言った。
「レイルちゃん、『核』の位置がわかるなんて言ってた? わかるから前の3体を倒せたのか……。本当にすごいね」
ゼンは1人で問題を出し、1人で答えた。
まさに、自問自答だ。
私は左手の指で丸を作り、左目で覗き込んだ。
「右の魔物から順番にいくよ。右胸、顔の中心、左手の平、首、続けて首、お腹の中心、左肩、最後は左胸」
言い終わり、アークを見た。
8体いた魔物はすでにいなくなっていた。
「すごいです……」
オルレアが呟いた。
アークは、落ちた魔力石を拾っている。
私はアークの元へ駆け寄った。
「アークお疲れ様。言い終わったらもう魔物がいなくなっててびっくりしたよ。やっぱりアークはすごいね」
本当にすごかった。言わずにはいられない。
「いや、俺がすごいんじゃない。レイルが『核』の位置を教えてくれたから、迷わずに剣を振れたんだ」
アークは照れたようで、頭をさわっている。
結界を眺めていたゼンが、
「本当に結界が動いてるね。こんなの初めて見たよ。それをわかっているのか、さっきの8体は結界を押しているように見えた。知恵がついてきているのかもしれない」
深刻そうな顔で言った。
「まずいですね。ご主人様がいてくださるとはいえ、皆さん戦闘経験が無さすぎるので、これ以上進化されるとどうなるかわかりません」
ルルが言うと、
「本当は弱い魔物で練習をして、徐々に強い魔物と戦っていくものだけど、そんな猶予は無いからね。君たちには悪いけど、頑張ってもらうしかないよ」
ゼンが申し訳なさそうに言った。
ゼンはそう言うが、勇者であるアークは先程見た通り、見事な剣の腕を持っている。
聖女であるオルレア、大神官であるゼン。
この2人も結界、治癒能力共に申し分ない。
ゼンに至っては、色んな魔法を使いこなしているから、こちらへの手厚いサポートが期待できる。冷静な判断でパーティーを導いてくれるだろう。
ルルは……。今日も元気だ。
あとは私だが、正直自信はある。
遠距離攻撃で安全な場所から敵を倒せて、『核』の位置も完璧にわかる。
このパーティーに必要なのは、正確な判断になるだろう。
焦りはパーティーの崩壊を招く。
勇者パーティーといえども、焦りでミスをおかし、バラバラになる様子を本で何度も見てきた。
クロエが言っていた、
『人が強くなれるのは逆境ではなく、順境だという事を覚えておいて下さいね』
という言葉が頭に浮かんだ。
そうだ、ピンチはチャンスなんかじゃない。ピンチになってはいけない。
安全に、確実に、皆と一緒に戦うんだ。
「じゃあさっきの要領で俺が手前にいる魔物を倒すから、レイルは『核』の位置を教えてくれるか?」
アークが言い、私が頷いた。
「まずは、結界を触っている奴らからお願いできるかな? できればゴウカの周りを一周回って全部倒しておきたいね」
ゼンが言った。
「一周回ると言いましても、他国との国境に接している部分もありますし、難しいのではないでしょうか」
オルレアが不安そうに言うと、
「それが問題なんだよね。レイルちゃん、さっきの遠くを見る能力で、奥の国境の辺りにいる魔物がどうなっているか見てほしいな」
ゼンは私を見て言った。
ゴウカは一面が砂漠地帯だ。
建物も無く、どれだけ広いといえど見晴らしが良い。
これくらいなら見えるだろう。
「わかりました。奥の結界までですよね。見てみます」
私は奥の方に意識を集中した。
奥に行くにつれ、沢山の魔物がいる。1番魔物が多いのは、『ゴウカの中心』辺りか。
「中心に魔物が集中してるみたい。物凄い数がいる。見た感じ、数十体はいるかな」
結界が見えてきた。
「結界の周辺には、魔物は……いない」
国境に位置する結界の周辺に魔物の姿は無かった。




