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笑顔の破壊力が物理的な破壊力!  作者: ぽこむらとりゆ


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45/57

笑顔の破壊力 lv.45

 ゼンが指をパチンと鳴らすと、私達はゴウカから少し離れた場所にいた。


「やっぱりすごいですね。私も色んな魔法を扱えたら、とは思いますが……。結界と治癒で皆さんを必ずお守りします!」


 オルレアが大きな声で言った。


「一応、ゴウカからちょっとだけ離れた位置にワープしたよ。近くに行って、不測の事態が起きると最悪だからね」


 ゼンが得意気に言った。


 ゼンは冷静だ。このパーティーは皆、称号は凄いものを持っているが、戦闘経験が無さすぎる。


 1人でも冷静でいてくれると、パーティーに余裕が生まれる。


「ありがとうございます。これくらいの距離ならゴウカの様子を見る事ができるので、見てみます」


 そう言って私は、ズーム機能を使った。


 段々とゴウカに近付いていく。

 

 見えた。


「結界にへばりついている魔物が多数と、周辺をうろついてるのも多数。何でこんなに数が増えたんだろう」


 私は、ズーム機能を使いながら、皆に状況を伝えた。


「驚いたな。ここは、ゴウカからちょっとだけ離れているとは言ったけど、300ミールはある。レイルちゃんは、ただ見るだけで遠くの様子がわかるんだね」


 ゼンが声を弾ませながら言った。


 周りからは、私はただゴウカの方を見ているだけにみえるようだ。


「なんか……。結界が動いてるような気がする……。気のせいかな」


 魔物が結界に当たるたびに、結界が弾んでいるように見える。


「それはまずいね。結界の前まで飛ぶよ!」


 ゼンが、指をパチンと鳴らすと、私達は結界の目の前にいた。


 結界を挟んだ目の前に、8体の魔物がいた。


 どの個体も、結界にへばりつき、結界を削りとり食べている。


 咀嚼をしていない所をみると、本当に取り込んでいるだけのようだ。


 バリンッと結界が削れると同時に、カケラが魔物の口の中へ消えていく。


 最近オルレアが張ったばかりだという結界が、魔物の餌になっている。


「ちょっと見ない内にこんなに薄くなるのかよ……」


 アークが結界を見て言った。


「想像以上の成長スピードですね! これは、戦闘は避けられないかもしれないです!」


 ルルは何故かニヤけている。


「ルルさん、何故笑っているのですか? これから戦闘になるのですよね? 私は少し不安です……。レイちゃんの勇姿が見られると思うと、楽しみも少しありますが」


 オルレアが言った。


 何を言っているのか。


 この人たちには、危機感というものが欠如している。


「ルルは楽しみが勝っています! ご主人様の神力を合法で拝めるのですから!」


 ルルは胸の前で拳を握った。


 するとアークが私の前に来て、


「俺にやらせてくれないか?」


 と言った。


 アークの目は真剣そのものだ。


 前回は私が勝手に倒したのを見ただけで、戦えずもどかしそうだった。


 魔物との戦い方を知る絶好の機会でもある。

 

「じゃあ私が『核』の位置を言うから、倒すのはアークにお願いするね」


 私はアークと目を合わせた。


 アークは頷き、「ありがとう」と言った。


「レイルちゃん、『核』の位置がわかるなんて言ってた? わかるから前の3体を倒せたのか……。本当にすごいね」


 ゼンは1人で問題を出し、1人で答えた。


 まさに、自問自答だ。


 私は左手の指で丸を作り、左目で覗き込んだ。


「右の魔物から順番にいくよ。右胸、顔の中心、左手の平、首、続けて首、お腹の中心、左肩、最後は左胸」


 言い終わり、アークを見た。


 8体いた魔物はすでにいなくなっていた。


「すごいです……」


 オルレアが呟いた。


 アークは、落ちた魔力石を拾っている。


 私はアークの元へ駆け寄った。


「アークお疲れ様。言い終わったらもう魔物がいなくなっててびっくりしたよ。やっぱりアークはすごいね」


 本当にすごかった。言わずにはいられない。


「いや、俺がすごいんじゃない。レイルが『核』の位置を教えてくれたから、迷わずに剣を振れたんだ」


 アークは照れたようで、頭をさわっている。


 結界を眺めていたゼンが、


「本当に結界が動いてるね。こんなの初めて見たよ。それをわかっているのか、さっきの8体は結界を押しているように見えた。知恵がついてきているのかもしれない」


 深刻そうな顔で言った。


「まずいですね。ご主人様がいてくださるとはいえ、皆さん戦闘経験が無さすぎるので、これ以上進化されるとどうなるかわかりません」


 ルルが言うと、


「本当は弱い魔物で練習をして、徐々に強い魔物と戦っていくものだけど、そんな猶予は無いからね。君たちには悪いけど、頑張ってもらうしかないよ」


 ゼンが申し訳なさそうに言った。


 ゼンはそう言うが、勇者であるアークは先程見た通り、見事な剣の腕を持っている。


 聖女であるオルレア、大神官であるゼン。


 この2人も結界、治癒能力共に申し分ない。


 ゼンに至っては、色んな魔法を使いこなしているから、こちらへの手厚いサポートが期待できる。冷静な判断でパーティーを導いてくれるだろう。


 ルルは……。今日も元気だ。


 あとは私だが、正直自信はある。


 遠距離攻撃で安全な場所から敵を倒せて、『核』の位置も完璧にわかる。


 このパーティーに必要なのは、正確な判断になるだろう。


 焦りはパーティーの崩壊を招く。


 勇者パーティーといえども、焦りでミスをおかし、バラバラになる様子を本で何度も見てきた。


 クロエが言っていた、


『人が強くなれるのは逆境ではなく、順境だという事を覚えておいて下さいね』


 という言葉が頭に浮かんだ。


 そうだ、ピンチはチャンスなんかじゃない。ピンチになってはいけない。


 安全に、確実に、皆と一緒に戦うんだ。

 

「じゃあさっきの要領で俺が手前にいる魔物を倒すから、レイルは『核』の位置を教えてくれるか?」


 アークが言い、私が頷いた。


「まずは、結界を触っている奴らからお願いできるかな? できればゴウカの周りを一周回って全部倒しておきたいね」


 ゼンが言った。


「一周回ると言いましても、他国との国境に接している部分もありますし、難しいのではないでしょうか」


 オルレアが不安そうに言うと、


「それが問題なんだよね。レイルちゃん、さっきの遠くを見る能力で、奥の国境の辺りにいる魔物がどうなっているか見てほしいな」


 ゼンは私を見て言った。


 ゴウカは一面が砂漠地帯だ。


 建物も無く、どれだけ広いといえど見晴らしが良い。


 これくらいなら見えるだろう。


「わかりました。奥の結界までですよね。見てみます」


 私は奥の方に意識を集中した。


 奥に行くにつれ、沢山の魔物がいる。1番魔物が多いのは、『ゴウカの中心』辺りか。


「中心に魔物が集中してるみたい。物凄い数がいる。見た感じ、数十体はいるかな」


 結界が見えてきた。


「結界の周辺には、魔物は……いない」


 

国境に位置する結界の周辺に魔物の姿は無かった。



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