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笑顔の破壊力が物理的な破壊力!  作者: ぽこむらとりゆ


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笑顔の破壊力 lv.4

 異世界に行くと決めた日から、家族での時間を作る為に、そして、異世界へ持っていく物を厳選する為に、1ヶ月はこの世界に残る事にした。


 この1ヶ月、父は溜まりに溜まった有休を消化するらしい。


『娘との最後の時に後悔したくない』という意思の表れだった。


 あの日から、両親との関係が良い方向にガラッと変わった。よく話し、今まで別で食べていた食事も一緒に取るようになった。


 何より、両親の前で『笑える』ようになったのが、1番の変化だった。


 このまま異世界に行かずに、ここに残っても良いんじゃないか…と思う事もあった。


 その度に、両親との関係が改善されただけで、この世界で生きるには家にいるしかない事を思い出す。


 私は、魔法のある、憧れの異世界へ行く。


 異世界へ行く前に、両親と写真を撮った。この世界の写真は消えてしまうだろうけれど、私が異世界へ持っていく写真は残るんじゃないかと、少しだけ期待して。


 初めて写真館へ行って、笑う父と母の間で笑顔の私。もちろん眼鏡はかけている。


 写真館の人達には、眼鏡を外さないのかと何度も聞かれた。


 レンズが厚い、ゴーグルのような眼鏡をかけている女の子なんて他にいないだろうから仕方ない。


 人前で前髪を分けて、目が隠れないようにするのも新鮮だった。


 撮った写真は、当日着る予定の服のポケットに入れて、落ちないように縫い付けてもらった。

 

 両親は大きな鞄に、家にある使えそうな物を詰め込んでいた。


 母は、身だしなみに関する物を中心に入れていた。アイロン・爪切り・ヘアブラシ・ヘアゴム・マニキュア等、私が眼鏡を外して暮らせるようになる事を願い、メイク道具を一式。


 父は対照的に、身を守るための道具や、いつか使うかもしれないと、工具を詰め込んでいた。


「向こうは色々(そろ)ってそうだから、れいるに何を持たせれば良いのか悩むな」


 父は鞄の隙間に何かを入れたいようだ。


 母は、そんな父を見て


「心配だけど、いらない物を入れても、れいるが困っちゃうわよ」


 と呆れながら言った。


 私は「文明もそこそこ進んでいるようだし、大体のものは向こうで揃いそうだよね。気になるのは、向こうのお金事情がどうなっているのか。異世界ものを読んでいると、[元の世界から持ってきた物を売る]のがセオリーにはなっているんだけど…」と、ずっと気になっていた事を口にした。


 私が行く異世界に、換金の制度があるのかすら分からない。こういう事を考えると、すごく不安になる。


「それなら父さんに任せなさい!」


 と言うと、父は家を飛び出して行った。


 母を見ると、父の事を気にも止めず、鞄に入れる服を綺麗に畳んでくれている。


 そしてこちらを向き、「お茶にしようか」と言って立ち上がった。


 母とお菓子を食べながらお茶をしていると、玄関の扉が開く音がし、父が帰ってきた。


「ただいま! 考えてみたんだが、ここから異世界に持って行った物を売ってしまうと、少しの間(しの)げる金額は稼げるかもしれないが、売る物が無くなればそれで終わりだ。大事なのは、[継続的に稼げる]事だろう。そこで……」


 と言って父は大きな袋から沢山の小袋を取り出した。


「これは、花や野菜、そして果物の種だ。父さんも少しは異世界の事について、本や漫画で見ているからな。異世界の野菜や果物は、元の世界と違う場合が多い。これを育てて、八百屋をやると継続的にお金が入ってくるって算段だ」


 すごい……父は……………天才だ…………。


「とりあえず、ホームセンターに売っている種は全部買ってきたぞ。食料も1年で無くなるなら、野菜や果物を育てて食べれば良い。1年あれば何かしら育つだろう。異世界の土が合うかまではわからないが。花は食用ではなくて、れいるが少しでも心を休められる場所になればと思って買ったんだ。育てるのはれいるだけどな」


 父はガハハと大きく笑った。


「ありがとうお父さん。異世界に行くまでに野菜や果物、お花の育て方の本を徹底的に読んでいくね」


 私は、今日から父を崇拝してしまうかもしれない。


 これにより、異世界でやりたい事ができた。


「れいる、ちょっといい?」


 母が寝室から私を呼んだ。


 「お父さんばっかりれいるの役に立つのは悔しいから、これをあげるわ」


 と言って母は私にネックレスを差し出した。


 これは、母がおばあちゃんから貰って、とても大事にしている物だ。


「これ、大事なやつなんでしょ?それにすごく高いって…」私は恐る恐る聞いた。


「このネックレスはね、お母さんのおばあちゃんのおばあちゃんの代から大事にされてきた物なのよ。お母さんの家系では、女の子が生まれて、お嫁に行く時に受け継いできたの。れいるはまだ16歳で、結婚なんて考えてもいないだろうけれど、この世界なら難しくても、異世界でなら素敵な男性と出会って、結婚するかもしれないじゃない?その時には渡せないから、今、渡しておく。もしも、お金に困ったら迷わず売りなさい。異世界では全く価値のない物かもしれないけれど、少しでも足しになるならお母さんは嬉しい」


 そう言って母は、私の後ろに周り、ネックレスをつけてくれた。


 大きなダイヤモンドが付いている高価なネックレス。こんな物を持ち歩くなんて怖すぎる。


 あと、さらっとこの世界で結婚は難しいって言った?事実だけど言わないで…。


「お母さんありがとう。このネックレスには歴史があったんだね。本当に必要になる日まで厳重(げんじゅう)に保管する事にするよ。盗まれたり、落としたり、無くしたりしたら最悪だもんね。ずっと大事にする」


 私は首からネックレスを外し、異世界へ着ていく服のポケットに入れて、落ちないように母に縫い付けてもらった。


 あれも違うこれも違うと言いながら、3人で荷造りをしたり、例の本『異世界に行く方法』に見落としがないか読み返したり、異世界について語り合ったり、美味しいものを食べて笑い合ったり。


 私がこちらの世界の本を読んでいる時には、2人も異世界で役に立ちそうな本を探して持ってきてくれた。


 慌ただしい日々だったけれど、楽しかった。


 それしても…長い!!!!


 異世界に行くまでが長すぎる!!!


 本の知識を頭に入れられるのも、両親と一緒にいられる時間をたくさん設けられたのも、ありがたい事だけれど……。


 異世界へ行った先輩方のほとんどが、1話目には異世界へ行っている。異世界へ行くのに十分に準備している事なんてほぼ無い。


 皆さん。準備したかったですよね。気付いたら異世界なんて怖いですよね。気持ちは分かるんですけど、異世界に行くかどうか選ぶのも、いつ行くか考えるのも、相当心に負担がありましたよ。


 なんて、くだらない事を考える。実際、この期間はボーナスタイムのようなものだから、『異世界に行く方法』の作者(おそらく神様)には感謝するべきだ。


 明日で準備期間である1ヶ月が経ち、異世界へ行く日になる。


 出発前日、両親は私にべったりだった。16歳にもなって恥ずかしいと思うくらいに、2人の愛情を存分に感じた。


 実は、昨夜は両親と離れるのが寂しくて泣いていた。泣き疲れて寝たから目が腫れている。


 眼鏡のおかげでそこまで目立たないはずだが、いつもよりしっかりと顔を洗った。


 母は、隠せないほどに目が腫れている。

 

 父は、私と目が合う度に、上を向き目を(つむ)っている。泣きそうになるのを(こら)えているのがバレバレだ。


 この1ヶ月で、両親との16年間の距離が埋まった。


 心残りはない。


 最後の1日は、念入りに鞄の中身をチェックした。結局持っていく物は、大きな鞄が2つ。向こうで買った方が良い物も沢山あるだろうということで、多くは持って行かない事にした。


 この世界での最後の夜は、両親と3人で布団に川の字になり、両親のぬくもりを感じながら眠った。


 次の日の朝、私が目を覚ますと、両親はもう起きているようで、布団には私だけだった。リビングに行くと、朝から豪華な食事が並べられていた。


 お皿をテーブルに並べながら、


「おはよう。お母さんがつくる食事をれいるに食べてもらえるのも今日で最後と思うと、張り切っちゃった」


 母はニコニコして言った。


 父は、慣れないお皿洗いをしながら、おはよう。と言ってこちらを見た。


 テーブルには、私が好きなものばかりが並べられているけれど……


 私は、お腹をさすりながら、


「お母さん、お父さん、おはよう。凄く豪華だね。朝からこんなに沢山食べられるかな」


 と言い、椅子に座った。


「余ればお弁当箱に入れて、向こうに持って行ってお昼にでも食べて」


 大きなお弁当箱を持っている母は、初めからそのつもりで作ったようだ。


 母の料理が食べられるのは今日で最後か……。


 いただきます。両親も席について一緒に朝食を取った。一口ずつ、味わって食べた。


 結局沢山余り、母がお弁当箱に詰めて、異世界に持っていく鞄の中に入れた。


 食事が終わり、少しゆっくりしてから、2人と別れの挨拶をする。


「お父さん、お母さん今まで育ててくれて、ありがとうございました。2人と過ごせた時間は絶対に忘れない。大好きだよ」


 今日は泣かない。もう覚悟は決まっている。


「れいる。元気でな。1年後の思話(しわ)で、れいるが幸せに過ごしているという報告を待ってるぞ」


 父は私を抱きしめた。


 母が「れいるが本に書いたのは1ヶ月前だから、実際は11ヶ月後だけどね」と言うと、父は、「そうだったな!」と嬉しそうに言った。


 それから、母も私を抱きしめ、


「れいるに辛い事がないよう、ずっと幸せでいられるよう祈っているわ。私たちの子供になってくれて、本当にありがとう。愛しているわ。お母さんとお父さんは永遠にれいるの味方で、れいるの家族だからね」


 声を震わせながら言った。


 人との別れを経験したことが無い私は、別れがこんなに辛いなんて知らなかった。でも、今日からは異世界で、1人での生活が始まる。涙はここに置いていこう。


 私は、眼鏡を外し、あの本『異世界に行く方法』を手に取った。

 

すると本が開いた、そこには、【第6の世界、シクス】と書かれている。


 世界の名前が書いていなかったから、当日に何かが起こるとは思っていたけれど、予想通りで良かった。


 父と母へ、2人とも元気でね!と言った後に、


「第6の世界、シクス!」と唱え、今までで1番の笑顔で、私を見送る両親が娘のこれからを心配しないように、両親がこれから先、幸せでいてくれますようにと祈りながら、私は、


「いってきます! 」


 と言った。



まさかの!!異世界に行けませんでした!!!準備が沢山あり!行けませんでしたー!!次回、必ず異世界に行きます!!少しでも続きが気になった、面白いと思ってもらえたのなら、評価とブックマークをお願いします。

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― 新着の感想 ―
どうやらちゃんと行けそうですねよかったw 両親けっこうお茶目ですね。 いつだって別れというのは辛くて寂しいけど新天地への希望を持って旅立ってほしい。 書きたいことがどんどん増えて結局思っていたとこ…
準備は重要ですからね! パパママの異世界対策ちゃんとしてて笑いました! 私が転生する時もここまでしっかり準備させて欲しいです!
お父さんとお母さんの描写が最高です。 れいるに何かしてやりたいという気持ちが痛いほど伝わります。
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