笑顔の破壊力 lv.25
扉が開くと、見慣れた人物達が入ってきた。
「来たか。この2人は、勇者アークと、聖女のオルレアだ。知っていると思うが、ゴウカの周りの『聖女の結界』は、このオルレアが張ったものになる。張った本人ならば、先程の話を聞く権利があるだろう。そして、先日勇者として、聖剣に選ばれたのがアークだ。レイルと共にこのオルカラ王国を守ってほしいと思っている。これは、命令ではなく、お願いだ。断っても良い」
王様は2人を私に紹介すると、テーブルに呼び寄せ、ジェイナが用意した椅子に座らせた。
まさかこの2人が呼ばれたとは……。
アークとオルレアは、何かを言いたそうにそわそわしている。
命令でなくとも、断れるわけがない。
「わかりました。協力して、オルカラ王国を守ります。この2人は、私の知り合いなので少し安心しました。知らない人だと緊張してしまうので」
私は2人を交互に見て言った。
すると、
『友達じゃないの(ですか)?」
と2人が同時に叫んだ。
「ほお。レイルは勇者と聖女の2人共に好かれているのか。アークはともかく、オルレアが心を開いているとは珍しい事もあるものだな」
王様はにこやかに笑いながら言った。
「いや……。オルレアは友達だと思ってるけど、アークは別に仲良しってわけじゃ無いよね……?」
私が言うと、オルレアは誇らしげに胸を張り、アークはがっかりしたように下を向いた。
アークの性格上、誰とでも仲良くなれるという自負があり、私が友達じゃないと言った事でプライドが傷ついたのかもしれない。
「アークは私じゃなくても、友達いっぱいいるでしょ? そんなに落ち込まないで。それに、私なんかと友達になっても、何か良い事があるわけでもないし、気にしない方が良いよ。これから一緒に戦う仲間になるんだから。改めてこれからよろしくね、アーク」
私はアークのプライドを傷つけないよう、最大限配慮して言った。
ここでルルが口を開いた。
「ご主人様と勇者は性格も全然違いますし、仲良くなれるわけがありません! ご主人様と同じパーティーメンバーになれた事をありがたいと思ってください!」
さっきの私の配慮が消え去った。
そして、オルレアの時と同様、『勇者』呼ばわりだ。
ここでオルレアが、
「そうですよ。アークさんとレイちゃんは、仲良くなるにはタイプが違いすぎます。レイちゃんには私という1番の友達がいますし……。申し訳ありませんが、身を引いて下さい」
まさかのルルへの援護射撃だ。
王様はこの状況を収めてくれるかと思いきや……。すごく良い笑顔で眺めている。
それを聞いたルルは、オルレアを見て、
「今は、ご主人様の1番のお友達が聖女だなんて冗談は見逃してあげます。とにかく、異性のお友達は断固反対です! ご主人様に良からぬ感情を抱いたら、勇者であろうと排除します」
なにやら物騒な事を口走っている。
それに対しオルレアは、首が心配になる程、何度も頷き、アークをキッ!と睨んだ。が、迫力は無い。
話の中心にいるはずのアークはというと、あたふたと狼狽えている。
勇者らしからぬ姿だが、人の良さが滲み出て、私の中の好感度が上がった。
「俺はただ、レイルと仲良いと思ってて……。まさか、知り合いとしか思われていなかったなんて……。流石に落ち込む……」
アークは2人にトドメを刺されたようだ。
「ルルもオルレアも過剰に反応しない! この話はおしまい。陛下。2人にも先程の話をしても良いですか?」
私は強引に話を終わらせ、王様に尋ねた。
ニコニコしていた王様は、一瞬ハッとしたような顔をしてから、コホンッと咳払いをした。
「そうだな。その為に呼んだのだったな。では、説明してやってくれ」
そう言って王様は私を見た。
私は、アークとオルレアにどう切り出すべきか悩んでいた。
そんな私を見て、ルルが口を開いた。
「結論から言いますと、もうすぐ【ゴウカの魔物】が結界を破って出てきます。なぜなら、奴らは『聖女の結界』を削りながら食べて、自らの力にしようとしているからです。これは、冗談ではなく、事実なので、まさか! 本当に? のようなリアクションは無しでお願いします」
ルルは説明が上手い。淡々と必要な情報だけを抜き出して伝えてくれた。
「ルル、ありがとう」と私が言うと、ルルは座りながら笑顔で軽くお辞儀をした。
ルルの話を聞いて、
「まさ……、いや、聖女の結界を食べるだなんて信じられない……。いや、事実か……。ごめん!俺はありきたりの言葉しか話せないようだ」
アークは、ルルが思った通りのリアクションをした。
ルルはというと、ニヤニヤと悪い顔でアークを見ている。
最後の言葉は、アークにダメージを与える為のものだったらしい。本当に良い性格をしている。
オルレアを見ると、また、考え込んでいる。
自分が張った結界が、魔物の養分となっているのだから、頭の中を色々な事が巡っているのだろう。
もし、私がオルレアの立場なら、ショックで寝込むかもしれない。
王様は黙って様子を見、アークは落ち込んで下を向き、ルルはそれを見てニヤつき、オルレアは考え事をしている。
謁見の間が静まり返り、居心地が悪い。
しばらく無言の時間が流れた後、
「聖女の務めは、第一に国を守る事ですが、今回の事は誰も予測出来ず、防ぎようも無かったので仕方ないですよね。私は、これからの戦いで負傷者が出た場合の、治療要員として戦いに参加します。レイちゃん、アークさん。魔物の討伐はよろしくお願いしますね」
オルレアはそう言って笑った。
完全に第三者が、聖女を庇う時に言う台詞だった。
実際、今回の事はオルレアに問題は1つもないが、こういう時、大体の人は謝ってしまうだろう。
自分が悪くない事は謝らない。
オルレアのそういうところも好きだ。
「オルレア。その通りだよ。結界を食べるなんて誰も思わない。現に、50年も結界を張ってて誰も気付かなかったんだから」
私が言うと、王様は頭をかいた。
「そうだ。気が付かなかったのだ。この国の誰もが、『聖女の結界』なら大丈夫だと思い込んでいた。もちろん、余もだ。ゴウカに見張りを立ててはいたが、魔法も物理も効かないものを相手になす術も無く、対策も考えなかった。これは国の怠慢が招いた悲劇だ。国王として面目ない」
王様は、頭こそ下げなかったが、申し訳なさそうに言った。
ゴウカに立てている見張りは、仕事をしていないのだろう。
この50年間、聖女の結界により守られ、何事も起こっていないのだから気が緩むのもわかる。
だが、その気の緩みのせいで、50年もの間、少しずつ結界を取り込み、【ゴウカの魔物】は着実に強くなっている。
私は、ゴウカについて、国の扱い方に疑問を持っていた。王様自らが国の怠慢だと認めた事により、少しだけ溜飲が下がった。
さっきまでは頼りないと思っていたが、意外に話のわかる王様のようで少し安心した。




