笑顔の破壊力 lv.23
食事を終えると、ルルはまた1人で出かけて行った。
「はあ……」
私はお風呂に入りながら、今日は散々だったと、1日を振り返ってため息が出た。
ゴウカか。あれほど砂漠地帯になっていると、もし、魔物を全部倒しても、街としての復興には相当な時間がかかるだろう。
ということは、一刻も早く、戦いを終わらせなければならない。
あの巨大な魔物を倒す。私がひとりで。
不安だ。
やはり、修行あるのみ。
私は洗面所に行き、鏡に向かって笑顔を向けた。
出来るだけ、いろんな角度で良い感じに笑えるように練習をする。
地味だが、これは意外と大事だと思う。たぶん。
この先、泣きたいのに笑わないといけない時がくるだろう。
私は笑わないと、技が出せないのだ。
いつでも笑えるように表情を作る。表情筋にはこの戦いが終わるまで頑張ってもらおう。
すぐに神力が撃てるように、左目を閉じて指をさす練習もした。
さすが身体強化。腕が疲れない。これなら問題なさそうだ。
部屋に戻り、ベッドに寝転ぶ。
いろいろな事が頭を回る。
アーク。勇者になったんだな……。
この世界の主人公はアークとオルレア……。
私は……。
などと考えているうちに眠ってしまった。
朝になると、ルルに起こされ、植物達に水をやり、本を読み、食事をする。平凡そのものだった。
ルルは忙しそうにしていたが、食事の準備や、家の掃除は完璧にこなしていた。
平凡な日を堪能するのは、魔物を全て倒してからだ。と思い立ち、また、散歩がてらゴウカが見える距離まで歩いた。
正直あまり近づきたくない。とにかく魔物の見た目が気持ち悪い。
相変わらず、結界にへばりついている魔物も数体いる。
足が4本だと、結界に張り付いている魔物が人型に見え、違和感と恐怖で気分が悪くなる。
こんなのを、普通に暮らしている国民が見たら大パニックになるのではないか。
ゴウカは結界で囲まれているだけで、目隠しがある訳ではない。
国民が興味本位で覗いていてもおかしくはないのだ。
「これはトラウマになるでしょ」
私は呟いた。
少し近付いてみる。
ガリガリッガリガリッガリッ。
ゴリッゴリゴリッガリッガリッ。
不快な音が聞こえる。何かを削っている?
その音は、結界にへばりついている魔物の方から聞こえていた。
これは……。
私は走って家に戻り、ルルの帰りを待った。
1時間程経つと、玄関の扉が開く音がし、足音が私の部屋まで来た後、ルルが部屋に入ってきた。
「ただいま戻りました! ご主人様が着ていくお洋服の生地が手に入りましたよ! 早速ルルがご主人様にぴったりのものを作りますね」
ルルはご機嫌だ。
そんなルルに私は話しかけた。
「ねえルル。結界って食べれるの?」
私が言うと、
「どうしたのですか! ご主人様らしくないですね。そんなにお腹が空いているのですか? 結界は食べ物ではありませんよ! 結界が食べられる物なら【ゴウカの魔物】が出てきちゃうじゃないですか!」
ルルは冗談まじりに笑って答えた。
そうだ。結界を食べられる訳がない。
でも、結界に張り付いていた【ゴウカの魔物】は食べていた。
しっかり見た訳ではないが、絶対に食べていたと言い切れる。
私が黙っているのを見て、ルルから笑顔が消えた。
「何かあったのですね? ルルに話してもらえますか?」
「信じてもらえるかわからないけど、【ゴウカの魔物】が、オルレアが張った結界を食べているのを見た」
私が言うと、ルルの顔が青ざめた。
「ルルがご主人様の言葉を疑うはず無いじゃないですか! それは緊急事態です! 最悪な事が起きようとしている可能性があります! 少し早いですが、明日、王宮へ行きましょう」
そう言うと、ルルは自室へ行き、明日の準備を始めた。
しばらくしてルルが私の部屋に来た。
「ご主人様! ご飯を食べて、明日に備え今日は早く寝ましょう」
そう言うと、また私を起き上がらせてくれた。
ルルと一緒に夕食をとり、この日は同じ布団で眠った。
次の日、朝食をとった後、
私はルルが昨日作ってくれたピンクのワンピースを着て、バッグを肩にかけ、軽く髪をセットしてもらった。
「ご主人様かわいすぎます! ドレスは大袈裟ですので、淡い色のワンピースにしました! 所々にあるレースで上品に仕上げています! ご主人様はピンクがお似合いなので、ルルは大満足です!」
ルルは興奮気味に言った。
「ありがとうルル。かわいい色で嬉しいよ。良い話をしに行くわけじゃないけど、出かけるのが楽しみになった」
私は鏡の前で言った。自分じゃないみたいで、少し照れ臭かった。
「じゃあそろそろ行こうか」
私は、バッグからダンに渡された、ブレスレットを取り出した。
「はい! ご主人様」
ルルが言ったタイミングで、私はブレスレットのボタンを押した。
一瞬、浮遊感があったものの、すぐに、地面に足が着いた。
顔を上げると、大きな門の前だった。
「すごい」思わず声が出た。
王宮は、一言で言うと壮大だった。
門が閉まっている。どうしたものか。
門番らしき男が2人、門の両脇に立っていた。
「あの。ここを通していただきたいんですけど、王様に呼ばれてて」
私は、封筒に入っていたカードを見せた。
門番は顔を見合わせ、背筋を伸ばした。
「どうぞお入りください」
そう言って門を開けてくれた。
「ありがとうございます」
私はルルと門を通り抜けた。
さて、ここからどこに行けば良いのか。
あまりにも広すぎて、道に迷ってしまいそうだ。
とりあえず目の前にある、1番大きな建物を目指す事にした。
もっと、ダンから王宮の詳細を聞いておけば良かった。
と思ったけれど、指示や命令をする事ができなかった為、ここに行けと言えなかったのかもしれない。
少し歩いたら、恐らく敷地内で1番大きな城の前に辿り着いた。
門の前には誰もいない。勝手に入っても良いのだろうか。
「入っちゃいましょう。待っていても埒があきません」
ルルが城の大きな扉を開けた。
「お待ちしておりました。レイル様。ルル様」
執事とメイドがずらっと並んでいる。なぜ私達が来たのがわかったのだろう。
いつ行くか教えてもいなければ、門番に名乗ってもいない。
心当たりがあるとしたら……。ブレスレットか。
恐らく、あのブレスレット型の魔道具は、ボタンを押した瞬間に、ダンに通知のようなものがいくのだろう。
GPSのように、居場所がわかるものでなければまだ許容範囲だ。
私とルルは、メイド長だという『ジェイナ』に、私達のために用意されたらしい部屋へ案内された。
部屋は広く、豪華絢爛であった。
その光景に呆気に取られる私の目の前で、ルルはベッドで跳ねている。まるで子供だ。
私はあまりに早い展開についていけず、しばらく立ち尽くした。
はっと我に返り、ここに来た目的を思い出した。
もちろん王様に呼ばれていた、という理由はあったが、それよりも【ゴウカの魔物】について、話さなければならない。
ルルを見ると、既にベッドで跳ねるのをやめていた。
「行きますか?」
ルルが言った。
「うん。王様に会いに行こう」
私は答えた。




