笑顔の破壊力 lv.21
王宮に住んでいる?それは凄い事では……?
まあ、王宮に住んでいるなら、私の家に来る必要は無い。
そもそも、王族でも無い者が王宮に住んでいるとはどういう事なのか。
「隠していたわけではないのですが、何だか言い出しにくくて……。ずっとイチノの大神殿でお世話になっていたのですが、聖女の称号を賜ったタイミングで、王宮にある、『聖女の塔』という場所で暮らしています。私は王宮にいて、レイちゃんがこちらに来る、という形になりますので、私はレイちゃんのお家には行かないですと言ったんです。変な言い方をしてしまいすみません」
オルレアは上目遣いで謝った。
そこですかさず、
「ご主人様! 今のは全てわざとです! この聖女、今、一瞬笑っていました! 変な言い方をしてご主人様の反応を見たのですよ! 計算高い女です! 聖女だからといって、心が綺麗だとは限りません! 気をつけて下さい!」
ルルは、威嚇している猫のように今にもオルレアに飛びかかりそうだ。
私は、この2人のやり取りを見るのが結構好きだ。喧嘩するほど仲が良いと言うのは本当かもしれない。
それにしても、聖女になると王宮に住めるだなんて、聖女は国にとってよほど大切な存在なのだろう。
「王宮には聖女専用の住居が用意されてるんだね。それなら私達が王宮に着いた後にオルレアと合流しようか」
私は、あえてルルの話を無視した。
「ルルはご主人様の王宮行きをサポートする為、大事な時間をここで浪費している場合ではありません! 紅茶に罪はありませんから、この紅茶を飲んだら帰りましょう!」
ルルはめげずに言った。どうやらこの紅茶が気に入ったようだ。
本当にルルは、食事をすると別人になる。いつも騒いでいるのが嘘のように、上品で優雅だ。
確かに、オルレアに会って話すという目的は果たした。ここに居座る理由もない。
「そうだね。私はただ、待っているだけだけど、ルルは忙しくなるもんね。早めに帰って王宮行きに備えよう」
私が言うと、
「私もレイちゃんの準備をお手伝いしたかったです。ルルさん、レイちゃんが恥をかかないよう、お願いしますね」
オルレアが悔しそうに言った。
ルルは勝ち誇った笑みを浮かべ、
「当たり前です! ルルがご主人様をとーっても可愛くしますので、聖女はお楽しみにしてて下さい」
そういうと、怪しい笑みを浮かべた。
少々不安だが、2人も一緒だと思うと、王宮に行く日が楽しみになって来た。これが、俗に言う、遠足前の気分なのかもしれない。
ルルが紅茶を飲み終わったため、帰る事にした。オルレアは名残惜しそうにしていたが、3日後にまた会えると言うと、笑顔で頷いた。
そうして、私とルルは家に帰った。
家に帰るとまだ昼前だったが、ルルは昼食の準備をして、どこかへ出掛けて行った。
王宮へ行くにあたって用意する物があるのだろう。
私は異世界に来て、初めて1人の時間ができた。
元の世界では、1人でいるのが当たり前だったが、こちらに来て、ルルのおかげで毎日を賑やかに過ごしている。
たまには静かなのも良いな、と思いながら、私は少しその辺を散歩する事にした。
いつもと反対方向に行ってみようか。
中心街と逆に進んで行くと、10分くらいで砂に覆われた広大な大地が現れた。
砂漠のような場所。境目がはっきりとわかる。こんなに綺麗に森と砂の境目があるなんて……。
砂……?
前に、砂に覆われた場所があると聞いた事があるような……。
【ゴウカ】だ。
ここは、【ゴウカ】なんだ。
まさか、こんなに近くにゴウカがあったなんて。
ゴウカがイチノ、ニライ、サンチと面しているのは知っていた。
家から神殿に行くよりゴウカに行く方が近い。
ニライとゴウカの境目に近づいていくと、ゴウカで何かが動いているのが見えた。黒い、大きな何か。
ここは、ズーム機能を使う。遠くを見るように意識をすると……見えた。
体全体が黒く、4足歩行の3メートル程の大きな物が沢山ゴウカで蠢いている。
気持ち悪い。
大きな虫のように見えるが、足が4本な事もあり、人間に近くも見え、吐き気がした。
ただただ気持ち悪く、おぞましい。
私はこんなものと戦うのか。
数体、結界に張り付いている。その姿はまるで2本の足で立っているように見えた。
結界は、魔物が出られないだけで、弾き飛ばすような効果は無いのか……。
と少しがっかりしたが、魔物が出て来られないだけマシだと思い直した。
……帰ろう。
元来た道を戻る。
私は見てはいけないものを見た気がした。
違う。目を背けようとしていた現実に直面し、落ち込んだのだ。
【ゴウカの魔物】を実際に見ない内は、私の中で現実では無いと思い込もうとしていた。
ルルやオルレアと話した時も、まだ気持ちに余裕を持って話していた。
あんなものを私1人で倒すのか。
あんな大きなおぞましいものを……。
……怖い。
家に着き、部屋へ行き、ベッドに倒れ込む。
しばらくすると、ドアが開く音が聞こえ、ルルが帰って来た。
「ただいま戻りました! あれ?ご主人様どうしたんですか? ルルはてっきり、お散歩にでも行っているのかと思っていました!」
鋭い。私の事をよく分かっている。
私は、ルルにさっき見たものを話した。
ルルは真剣な表情で聞いた後に、
「ご主人様! まずは昼食を食べましょう! その後出かけますよ!」
と言って、私を起き上がらせた。
温かいスープを飲んでいると、少し心が落ち着いた。
空腹状態だと、変なことばかり考えてしまう。
食は大事なのだと改めて思った。
食事を終え、キュインをして、ルルに言われるがまま外に出た。
「とりあえず、深呼吸をしましょう」
ルルが言った。
今日も良い天気で、気持ち良い風が吹いている。
植物達のおかげか、この辺りは空気が他より綺麗な気がする。
私は大きく息を吸い、ゆっくり吐いた。
それを数回繰り返すと頭がすっきりした。
「ありがとう。ルルのおかげでどうにか落ち着けたよ」
私はルルに笑顔を向けた。
ルルは嬉しそうに笑い、
「ご主人様には笑っていてほしいですからね!」
と言った。
空を見上げると、緑色の時星が浮かんでいる。今は午後を過ぎたくらいか……。
「では、行きましょう!」
ルルは元気に言うと、歩き出した。
私はルルに着いて歩く。
神殿も、中心街も通り過ぎ、今まで来たことのない場所に着いた。
だいぶ遠くまで歩いたが、1時間程しかかかっていない。どうやら、ニライからは出ていないようだ。
辺りを見回すと、所々に遺跡のような、古い建築物がある。相当広い範囲で、昔ここに町があったようだ。
意外に人も数十人いる。何かお宝でも出るのだろうか。
「ねえここは遺跡? 結構人がいるけどこの人達はなにをしてるの?」
ルルに聞くと、
「はい! ここは遺跡ですよ! そして、ここに集まっている皆様の目的は…………。そう! 『聖剣』です!」
ジャーンッと言うように、ルルは聖剣のある方に両手を伸ばし、両手の指をひらひらさせ、聖剣の存在をアピールした。
聖剣は、イメージ通りの『ザ・勇者の聖剣』と言う見た目で、例に漏れず地面に突き刺さっている。それを引き抜こうと、屈強な男達が必死に挑んでいた。
聖剣があるなんて……ファンタジーすぎる……。
「なぜ、ルルがご主人様をここにお連れしたかわかりますか? もちろん! この聖剣は絶対にご主人様のために存在する物だからです!」
ルルの言葉には物凄く力がこもっている。
聖剣に選ばれし者か、カッコいい……。
「もしかして、聖剣に選ばれた人でないとこの聖剣を抜く事ができなかったりするの?」
分かっていても聞いておきたい。
「ご名答! さすがご主人様! この聖剣は『勇者』として選ばれた者だけが引き抜けると言われています! 実際に大きな戦いが起こる時代、その時の勇者によって引き抜かれ、戦いを終わらせると聖剣は消失し、またこの場所に突き刺さっているという不思議な剣です!」
ルルは剣を持ち、辺りを切りつけるフリをしてみせた。
伝説の聖剣……私も挑戦したい。




