笑顔の破壊力 lv.20
神官によると、オルレアは母親と暮らしていたが、膨大な魔力量と、卓越した治癒能力で、幼い頃から聖女として生きる事が確定しており、次期聖女として、母親と離れ『イチノの大神殿』で見習いとして育ったようだ。
オルレアの境遇は、大神殿では誰もが知っており、尊敬されていたが、中には、その生まれ持った能力を妬む者もいたようで、何度か嫌がらせを受けた事もあったようだ。
始めは人間関係に悩んでいたオルレアも、年月が過ぎるごとに、何かを吹っ切ったようにいつも笑顔でいるようになったらしい。
何だか、オルレアの知らない一面を勝手に覗き見ている気分だ。
オルレアは諦めたんだな。辛いと言う事を、苦しいと言う事を、寂しいと言う事を。
感情を隠して、あえて笑って過ごしていたんだ。
「高貴な存在である聖女様は、聖女見習いの時でさえ、同年代の子供達から避けられていました。聖女様と遊んでいる時に何か問題が起きた場合、一緒にいる子供にどんな罰が下るかわからない。という理由で親が遠ざけたようです。正直、これは仕方のない事かもしれない、と私は思っていましたが、最近の聖女様を見ていると、私の考えは間違っていたと思い知らされます」
と悲しそうに言い、神官は続けた。
「聖女様は本当に明るい笑顔を見せてくれるようになりました。先程、聖女様はいつも笑顔でいた、と言いましたが、今までの聖女様も、確かに笑っていましたが、心からの笑顔ではありませんでしたので……。聖女様も皆さんと同じ10代の少女です。そんな方が何を考えていつも笑顔でいたのかと思うと、胸が痛みます。ただの神官である私が言うのも烏滸がましいですが、聖女様とお友達になってくださりありがとうございます。これからも聖女様をよろしくお願いします」
神官は深々と頭を下げた。
友達……。オルレアとは少しの時間を一緒に過ごしただけだ。
けど、優しい性格も、気が強い所も、眩しい笑顔も、純粋な所も、オルレアの事を、一緒に過ごした短い時間で知れた気がする。
私達は友達だ。
「はい。私はオルレアの友達で仲間なので、これからも仲良くしたいと思っています」
私は笑顔で言った。
その時、神殿の扉が開いた。振り返るとオルレアが立っていた。
すぐに私に気付き、
「レイちゃん? 会いたかったです! ここには何しに来られたんですか? まさか……私に会いに? 感激です!」
オルレアは凄い勢いで抱きついて来た。
「 オルレアに会えるかなと思って来たんだけど、いなかったから、こちらの神官さんと話してた所だよ」
私が答えると、神官はオルレアに頭を下げた。
「聖女様。おかえりなさいませ。今日も患者様は来ていませんよ。私以外の神官は、怪我や病気で動けなくなっている人がいないか、見回りに行っています」
神官は、今の神殿の状況をオルレアに伝えた。
全然人がいないのはそういう事だったのか。
「ありがとうございます。カイデン。患者様がいないのは良い事です。私達が暇をしているのは平和な証拠なのですから」
オルレアは笑顔で言った。
この神官、カイデンという名前だったのか。そういえば、お互いに名乗っていなかった。特に困りはしなかったが。
「では、カイデンに紹介いたしましょう。私の親友であり、パートナーである、レイルちゃんです! もはや私達2人は一心同体です!」
オルレアは私の手を握りながら演説した。
そこにルルが割って入り、
「聖女が何か言ってますが、ほとんど妄想ですよ! ご主人様はルルとの絆を1番に思っていますので! 聖女の出る幕などありません!」
「あら。ルルさん。いらしたんですね。全然気付きませんでした。お久しぶりです。元気そうで何よりですが、妄想というのはご自分の事じゃないですか?」
「『ぽっと出』の聖女なんかにご主人様は渡しません!」
「今に『ぽっと出』ではなく、レイちゃんに無くてはならない存在になりますので、お気遣いなく」
オルレアは口喧嘩が強い。ルルが言い負かされる。
カイデンはその様子をぽかんとした顔で見ている。
聖女が人を小馬鹿にした態度で話しているのが信じられないのだろう。
だが、プハっと笑った後、
「失礼しました。聖女様。良いお友達を持ったようですね。聖女様の素のお姿はそちらなのでしょう。レイル様、ルル様、改めてこれからも聖女様をよろしくお願い致します」
と言い、カイデンは目の辺りを擦る素振りをした。
まさか、泣いているのか。これは気付かないフリを……。
「あれ? 神官の方泣いてます? 何かあったんですか? 痛い所があるのなら、この暇な聖女が治しますよ。ルルは聖女を好きではないですが、能力は認めていますから」
ルルにはスルースキルがないのか。ここは絶対に突っ込んではいけない所だった。
だが、カイデンはそんなルルの憎まれ口すら嬉しいようで、
「ご心配ありがとうございます。聖女様に診て頂かなくとも大丈夫です。ただ嬉しくて少しうるっときてしまいました。では、私は奥へ戻ります。皆様は神殿内のどこに入ってもらっても構いませんので、ゆっくりとお過ごしください」
そう言って頭を下げると奥へ下がった。
私達はオルレアの案内で、丸いテーブルと椅子が置いてある休憩室のような場所へ行き、オルレアがそこにあった魔道具で紅茶を入れてテーブルに置いてくれた。
オルレアにお礼を言った後に、私は話を切り出した。
「私、今朝、王様から召集令状をもらったの。胡散臭いダンって名前の執事が持って来たんだけど、王様が召集かけてるのに、行っても行かなくても良いって言われたんだよね。試されているのかと思ったけど、本当にどっちでも良いって後で念を押されたから、私が決めて良いんだと思う」
そこまで言うと、オルレアが口を開いた。
「そうなのですね。まさかダンが来るとは……。レイちゃんは相当国にとっての重要人物のようです。それで、どうするのですか?」
オルレアの表情は真剣そのものだ。
ダンはやはり普通の執事ではないようだ。
私は深呼吸をしてから、
「行こうと思う。さすがに王様の呼び出しに応じないのはまずいでしょう。国が私をどう思っているのかも気になるからね。それを言いに神殿に来たんだよ」
オルレアに言うと、オルレアは安心したように頷いた。
「呼び出しの内容は、ご主人様の『準備が整い次第』という事だったので、ルルがご主人様のご準備を請け負うことになりました! 3日ほどで終わりますので、それから出発になります」
ルルは王宮からの呼び出しの詳細を話した。
私は、バッグからダンに渡されたブレスレットを取り出し、オルレアに見せた。
「このブレスレットは、ボタンを押すと王宮にワープできるって、ダンから渡された魔道具なんだ。3日後にこれで王宮へ行く。3日後、行くなら朝かなと思ってるんだけど、オルレアも家に来れる?」
私は恐る恐る聞いた。
「私はレイちゃんのお家に行きません」
オルレアが言った。
聞き間違いか?
まさか、ここで断られるとは思わなかった。
オルレアなら、喜んで!と明るく言ってくれると思っていた。期待しすぎたのか。
「そっか。ごめんね。全然強制じゃないから。本当ごめんね」
私はがっかりした顔を見せまいと、笑顔で言った。
「レイちゃん違うんです! 私、王宮に住んでるんです!」
オルレアは私が落ち込んでいるのを見て焦ったように叫んだ。




