笑顔の破壊力 lv.2
一ページ目には、本のタイトル『異世界に行く方法』という文字と、実際に異世界へ行くには何をすれば良いのか、行った後、元の世界での私の扱いはどうなるのか、が書かれていた。
異世界に行くには、
【深夜零時に、行きたい異世界のページを開き、その世界の名前を唱えながら、地球には無い力で本を破壊する】
という、現実味のない言葉が並んでいた。
地球には無い力?
「なんか、地球には無い力で本を破壊するとか書いてあるんだけど」
それを聞いた父は何故か嬉しそうに言った。
「地球に無い力を使わないといけない本が今ここにある。何故か。それは、れいるが今、ここにいるからだ」
「え……この力のせいで異世界に行く話になっているのに、この力が無いと異世界に行けないんだ」
私が混乱しているのを見て、母がテーブルを挟んで私の手を握った。
「お母さんは、れいるにだけ与えられた力は、このためだったんじゃないかって思うの。れいるがファンタジー小説を沢山読んでいたのも予行練習で、神様がれいるを違う世界に導くために仕組んだんじゃないかしら」
目を輝かせながら言う母は、もう泣き止んでいた。
さっきまでの涙は何だったのか。
母が言った事が事実なら、なんで私は今ここにいるんだろう。
神様がいるのなら、始めから私が生きやすい所に送ってくれたら良かったのに。
色々思う所はあるけれど、続きを読むことにした。
次に、【異世界に行った後、元の世界での私の扱いがどうなるのか】だが、
要約すると、異世界に行くと、今いる世界の人達の記憶から私は消える。痕跡も全て消えるらしい。
濃い人生を歩んでいる人ならば、痕跡を消すのは大掛かりなものになるだろうけれど、私の生きた十六年を考えると、痕跡を消すのは容易いだろうと心の中で自虐した。
その続きには、
【ただし、異世界へ行く本人が、自分を覚えていてほしいと思う人を三名まで指名すると、その三名だけは記憶を無くさない。更に、その三名とは一年に一度、始めて異世界の地に降り立った日付がくると、[思話]ができるようになる】
と書かれていた。ご丁寧に指名する三名の名前を書く欄まで設けてある。
[思話]とはいわゆるテレパシーで、電話等の機器を使わず、心の中で言葉を思い浮かべるだけで、相手と会話ができる、という便利な能力らしい。
三名か。私の世界には父と母しかいない。
一つ枠が余るのはなんとなくもったいないな……。でも、もう二度と両親との接点を持つ事は叶わないと思っていたから、この制度は素直に嬉しい。
私は本から視線を上げ両親の方を向き、
「一年に一度、三名まで連絡が取れるって書いてあるから、二人は私を異世界に送り出そうとしているんだね」と確認した。
父はなぜか得意気に、
「そうだよ。れいると離れ離れになるのは父さんも母さんも嫌だから、初めは、この本を読んだ時に捨ててやろうかと思った。だけど、れいるに自由な人生を歩ませてあげられて、その様子を年に一回でも知る事ができて、今までのような窮屈な生活をれいるにさせずに済むのなら、我が子の幸せのために送り出すのも愛情じゃないかと思ったんだ」
と言ってニカっと笑った。
その瞬間涙が溢れた。この十六年間、両親と離れる事なんて考えた事もなかった。
私の中で現状維持か異世界転移、どちらを選ぶのか気持ちが揺れ動く。
こんなことなら、異世界ものによくある、[いきなり光に包まれて〜]や[トラックに轢かれて気付いたら〜(でも死にたくは無いな)]みたいに自分の意思関係なく行かせてほしかった。
母は泣いている私の隣に座り、抱きしめてくれた。温かくて余計に涙が溢れた。
「その涙は私達を思って流してくれているのよね? お母さんもお父さんも覚悟はできているから、れいるの一番良いタイミングで行っておいで。子供の幸せが親の幸せなんだから」
母の優しい声を聞いて少し落ち着いた。
「お父さん、お母さん、ありがとう。私は今も本当に幸せだよ。二人の子どもに生まれて良かった」
私は涙を手で拭い、
「私、異世界に行く」
と二人へ宣言した。
「そういえば、さっきお父さんが行く世界を選べるって言ってたよね? それってどういう事?」
と聞くと、
「次のページに書いてあるから読んでみなさい」
父が本を指差した。
ページをめくると、選べる世界は六つあり、どれを選んでも良い人生になるであろう事と、その六つの世界の説明が1ページずつ書かれている。
そして、全ての世界で異世界転移特典がついてくるらしい。
第一の世界は、
【魔法がなく、戦乱の世であり、国中で内乱が起きている。その中で手柄をたて、出世すると国の頂点に立てる】
特典はお好きなチート武器と何でも防ぐ盾。
第二の世界は、
【魔法がなく、不平等な貴族主義の世界で、貴族じゃない者は虐げられ、同じ人間として扱ってはもらえない。貴族として生まれた人間はもれなく幸せが約束される】
特典は、公爵位。
第三の世界は、
【魔法はないが、寝なくても食べなくても生きられる体と、強靭な精神を授かる。生物はいない。全ての世界の本があり、本を読むためだけに生きていられる】
特典は、不老不死。
第四の世界は、
【もふもふな生き物しか存在しない世界。地球にいる生き物も全てがもふもふになって存在している。人間はいない。文明はなく、ただ広い世界にもふもふが広がっている。もふもふの生き物はもれなく可愛くて永遠に癒される】
特典は、過ごしやすい家と、食料や調味料、調理器具等の食事に必要な物を百二十年分。
第五の世界は、
【魔法が存在するが、ほとんどの国が魔族に支配され、魔法使いも、人間も奴隷のように扱われている。魔王を倒せば富と名声が手に入る】
特典は、望んだチート能力。
第六の世界は、
【魔法が存在し、沢山の種族が共存する世界。文明もそこそこ進んでおり、魔法によってもたらされた技術やアイテムで豊かに暮らせる。平和な世界だが、一部魔物が生息する地帯がある】
特典は、住み慣れた家と特別仕様の眼鏡。
最後に、
【いずれの世界でも身体強化がついてくる】
と書かれていた。これは至れり尽くせりすぎる。
この六つの世界の一つに行ける。にしても……。
もふもふ……もふもふの世界って何だろう。
なんか怖い。もふもふ以外の世界はまともに見える。六つの中で、もふもふが浮きすぎている。
「なんか変な世界混ざってるね」
私がぼそっと呟くと、
「もふもふの生き物しかいないってやつよね? お母さんもびっくりしちゃった。さすが異世界! なんでもありなのね」
母は嬉しそうに言った。
父も、
「れいるは女の子だし、こういうのを選んでも父さんは反対しないぞ」
とまさかの肯定。
「いやいやいや、これ絶対この本を書いた……作った人がノリで書いただけだよね。狂気を感じるし、だから第四の世界は却下」
私はそう言った後、ふふっと笑った。
その瞬間、両親は顔をこわばらせた。
ああ……やってしまった……。
「ごめん、私……」
何か言わないと、と焦るほど言葉が出てこない。
すると父が大きな声で、
「すまない! 娘が笑うのを怖がる親なんて情けない! 嫌な思いをさせてしまった。れいるが何の為に毎日眼鏡をかけているのか……こんな父親でごめん」
と言い頭を下げた。
「お母さんも、反応してしまってごめんなさい。あんなに可愛い笑顔なのに。れいるの笑顔を奪わない為の話し合いの場で、本当に情けないわ」
母は私を抱きしめながら言った。
「私も、他の人がこんな力を持っていたら同じ反応するだろうし、二人が謝る事ないよ。気を遣わせてごめんね。じゃあ、話を続けるね」
と言い、私は本に視線を戻した。
やっぱり私はこの世界にいちゃいけない。
「どの世界も悪くは無さそうなんだよね。第三の本の世界なんて特典が不老不死だよ。不老不死にしないといけないほど膨大な量の本があるって事だもんね。すごく魅力的。ただ、生物がいないのは嫌だな。第三の世界も却下」
と私が言うと、
「父さんもれいるには沢山の人と出会ってほしいと思っているから、本の世界の順位は低かった。ちなみにもふもふは最下位だ」
父は、六つの異世界に順位をつけていたことを告白した。
あと四つ。問題が多そうな世界もあるけれど、どれも惹きつけられる設定ではある。
各世界の説明を、一文字一文字見逃さないようにじっくりと見ていると、
あ。と失敗した時のような小さな声が、口をついて出た。
「二つの世界について話した後で申し訳ないんだけど、大前提として、私は異世界=魔法は譲れないから、そもそも第一から第四までは選択肢に入らないんだよね。だから第五か第六、どちらかに行くよ」
異世界に行けるということで冷静さを欠いていた。
私はずっと、魔法のある世界に憧れていたのだ。
「確かに、異世界に行くのに魔法が無いのはつまらないな。れいるの今ある力が何なのか、魔法がある国なら解明できるかも知れないし、父さんも戦場やひどい差別が横行している世界よりも魔法のある楽しい世界を選んでほしい」
父が頷きながら言うと、母も、
「そうね。魔法は夢があって良いわよね。その魔法のある第5の世界と第六の世界の違いって治安よね?」
と本の中の第五、第六の世界を順番に指差して言った。
私は頷き、
「誰が見ても行くなら第六の平和で豊かそうな世界だよね。普通は第五は選ばないと思うんだけど、なんで選択肢に入ってるんだろう?」
気になっていた疑問を口にした。
両親は、うーんと唸りながら考えている。
「いくら特典でチート能力がもらえるからって、わざわざ危険だとわかっている場所に行く人なんていないよね。私は第六の世界に行こうと思うんだけど、どう思う?」
私は両親に問いかけた。
「お母さんは、れいるには安全な場所で楽しく生きてほしいから、第六の世界に賛成」
母は小さく手を挙げた。
「さっき言った通り、父さんもれいるには楽しい世界を選んでほしいから、第六の世界に賛成だ」
と父も母を真似て小さく手を挙げた。
「第五の世界に関してはちょっと気になるけど、第六の世界で決定するね」
行く世界が決まったところで、私は次のページを開いた。
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