表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
笑顔の破壊力が物理的な破壊力!  作者: ぽこむらとりゆ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/57

笑顔の破壊力 lv.19

 私が玄関の扉を開けると、執事風の若い男が立っていた。


 この男は、笑顔が張り付いたような表情をしていて、あまりにも胡散臭(うさんくさ)い。


 私の能力を知った王室が、戦闘系の執事でも送って来たのだろう。分かり易くて少し苛立った。


 いつものように、音も無く私の真後ろに立っていたルルは、そんな私の様子を見て、表情を引き締めた。


 こういう時は、年季の入ったおじいさん執事が来るものだろうと思ったが、今、そんな事はどうでも良い。


 とりあえず早く帰ってほしい。


 執事は礼儀正しく頭を下げながら、


「初めまして。わたくしは、オルカラ王家の執事を務めております、『ダン』と申します。こちらはオルカラ国王から、レイル様宛ての召集令状でございます。お確かめ下さい」


 そう言って、ダンは、大層な金の封蝋(ふうろう)が押された、高そうな赤い封筒を渡してきた。


 赤い封筒か……。なんとなく歓迎されていない気がする。命令なら行くしか無いのだろうが。


「拝見します」


 私は封筒を受け取り、ルルに渡されたペーパーナイフで封を開けた。


 中には便箋(びんせん)が1枚とカードのような物が入っていた。


 便箋には、準備出来次第、王宮に顔を見せる事。と書いてある。


 準備が出来次第って……。準備が出来なければ行かなくても良いのか……。


 遠回しに今日来いって言っているのかもしれない。


 本によると、貴族は何でも遠回しに話すらしい。王族はどうなのだろう。


 考えても仕方がない。用意はしよう。


 封筒にもう1つ入っていたカードは、王宮への通行証のようだ。これを見せれば王宮の門を通れるらしい。


「準備出来次第って、曖昧ですよね。今日とか、明日とかじゃないんですか? もしかしたら行かないかもしれませんよ」


 私が言うと、


「それは、レイル様が決める事でございます。こちら側がレイル様を強制する事はできませんから。王宮へ向かうも向かわないも、レイル様のお気持ちひとつ。行っても良いと思われた時にお寄り下さい。どうか、じっくりとお考え下さいませ」


 ダンは相変わらず張り付いた笑顔で言った。


 そんな軽い気持ちで王宮に向かう人は居ないだろう。


 王様なら命令するのではないのか。一国民に対して選択権を与えるだなんて、寛容なのか、試されているのかわからなくてもやもやする。


「準備と言われても、何をしたら良いのかわからないので少し時間をいただきます。1週間はかからないと思いますが、出来るだけ急いで向かいます」


 私は何も教えてもらえない事に苛立ちを覚えながら、出来るだけ落ち着いた口調で言った。


 ダンの張り付いた笑顔が少し崩れ、困ったような表情になった。


「わたくし共は、レイル様に命令する権限を持ち合わせておりません。『わたくし共』の中には『王族』も入っております。レイル様に『こういった準備をして、いつまでに来て下さい』等の指示も出来ません。逆に言えば、レイル様はどんな準備をしても、しなくても、いつ向かわれても向かわれなくても良いのです。他意はありませんので、どうか、言葉通りお受け取り下さい」

 

 そういうと、ダンはまた、笑顔を作った。


 試している訳ではなく、本当に私がしたいようにして良いのか。何故かはわからないけれど、それなら遠慮なく自分のタイミングで行こう。


 と言いたい所だが、相手はこの国の王。さすがに待たせすぎるのは良くないだろう。


「なぜ、私にそんなに自由が与えられているのかわかりませんが、出来るだけ急いで行きます。と王様にお伝えください」


 私が言うと、ダンは嬉しそうに笑いながら頭を下げた。


「レイル様が王宮へ向かわれる手段ですが、徒歩や馬車では疲れてしまわれるかもしれませんので、こちらでワープの魔道具を用意させて頂いております。宜しければ、ぜひお使い下さい」


 そう言うと、ダンは黒いブレスレットを私に差し出した。


「このボタンを押すと、王宮の前にワープする事が出来ますので、いつでもご利用下さい」


 説明を受け、ブレスレットを見ると、小さなボタンがついている。間違えて押してしまいそうだ。


 とりあえずブレスレットを受け取り、御礼を言った。


「では、わたくしは失礼致します。わたくし共は、レイル様のご訪問を心よりお待ちしております」


 ダンはお辞儀をして帰っていった。


 私は一度家の中に入り、渡されたブレスレットをルルから貰ったバッグに入れた。


 そして、ダンが居なくなったのを確認してから、外に出て、植物達に水をやる。


 私は丘を下りて、元の世界と同じ、大きな木の下に座った。


「いつ行こうか」


 私は、当然のように着いて来ていたルルに言った。


「準備に関しては、ルルにお任せください! 王宮へ行くからといって、ゴテゴテに着飾る必要はありません! 3日ほどで準備は整うはずです! 」


 そう言うと、ルルも私の隣に座った。


 3日か。思ったより早い……。さすがルル。


 オルレアに3日後だと言いに行かないと。ニライの神殿に行けば連絡が取れたりするのだろうか。


「神殿ってどこにあるか知ってる? オルレアに王宮に行く事を伝えないと」


 私はまたルルに聞いた。


 ルルは、どこにあったのか、地図を開き、この辺りですよ。と地図を指さした。


 中心街の近くだ。ここからだと中心街に行くより近い。


 せっかく外にいるし、このままいこう。


 朝食は近くに成っているミカンを採って、食べた。


 甘い中にも少しの酸味があり、口の中で果汁が弾けた。本当にここで育つ野菜や果物は美味しい。


 バッグに入れていたキュインをしてから、私とルルは歩き出した。


 歩いて20分程で神殿に着いた。


 真っ白な建物。ニライにあるのは、大神殿ではなく、普通の神殿だが、思ったより大きい。


 恐らく、元の世界でいう、小学校の校舎くらいの大きさか。

 

 オルレアに聞いた感じだと、この世界での神殿の役割は病院と変わらないようだ。


 行列が出来ているだろうから、神殿で話を聞くのに待ち時間が発生すると思っていたが、周りには患者らしき人はいない。


 皆が健康なのは良い事だが、1人もいないなんて事があるのだろうか。


「神殿って怪我や病気の人が来る場所だよね? 何で誰もいないの? 今日は休み?」


 私が聞くと、ルルは


「この世界での神殿はあまり機能していないのですよ。ポーションが存在するので、怪我や病気がよっぽど酷くなければ治るんです。ポーションが買えない貧困層の人がたまに治療してもらいに来るくらいで、普段は暇だと思いますよ」


 そう言いながら、神殿の中へ入った。


 ポーションか。そう言われると、異世界ものであまり病院や神殿のような場所で治療を受けている人を見た事がないかもしれない。


 それでも、神殿はもっと儀式や催し物で人が集まっているのではないのか。現実はこんなものなのか。


 私もルルに続いて中に入ると、神殿というだけあって、空気が綺麗で、物凄く清潔感がある。


 神殿に入ってすぐが大広間になっている。ここで、儀式等の大勢が集まる行事が行われるのだろう。


 ここにはオルレアはいないのか…。


「ここに何か御用ですか? 」


 大広間の奥から誰かがこちらに声をかけてきた。


 スキンヘッドで白地に金枠の、いかにも神官といった装束を着ている男性がこちらへ歩いて来た。


 なんとなく、神官は長髪の美男子なイメージがあったが、まさかスキンヘッドの神官がいるとは……。


「あの、私達、聖女オルレアを探してるんですけど、ここにいないですか? 話したい事があって」


 私は神官に聞いた。


「聖女様ですか。本日はこちらにはいらっしゃいません。いつも予告無しでいらっしゃるので、私にも聖女様がお見えになるのがいつかわからないのです」


 神官はツルツルの頭を触りながら言った。オルレアはここにはいないようだ。


 にしても、予告無しで現れるのは神殿側に中々の迷惑をかけていそうだ。

 

「そうなんですね。オルレアに会う機会があれば、ちゃんと連絡してから行くように伝えておきます」


 私が言うと、神官は、


「最近、聖女様にお友達ができたと聞きました。人に心を開かないと言われている聖女様が、お友達の話をする時は楽しそうに話すともっぱらの噂です。あなた達がそうなのですね」


 と言って、にこっと笑った。

 

 人に心を開かない?オルレアが?楽しそうに話すだけで噂になってるの?あの明るいオルレアが?


「それ、本当にオルレアの事ですか?」


 と私は神官に尋ねた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
なんかレイルの最強すぎる感が否めないなあ まるで神として扱われてるみたいだ あれ、そもそもこの異世界に来れた本って誰が作ったものだったんだ?なんか当たり前のように親が持ってたような気が……見直してきま…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ