笑顔の破壊力 lv.16
一般的に、人が纏う色が何色なのかはわからない。
でも、明らかに異質な色を持った女の子。
嫌な感じはしない。むしろ。神々しささえ感じた。
「どう思う?」ルルに聞いた。
「ご主人様が育てている植物を見ているだけで、特に悪い人には見えませんね」
その女の子は、家の前に立ち、野菜や花を見て笑っている。時折、なにかボソボソと話しているように見える。
結構危ない人に見えるが……。
「あの子1人で喋ってない? 何を言っているのかは聞こえないけど……。身体強化つけるなら聴覚まで強化してほしかったな」
「お帰りになりましたか?」
そう言って、女の子がこちらを向いた。
私もルルも、お互いに聞こえるくらいの小声でしか話していないのに、あの子はこちらに気付いた。
身体強化で、聴覚までカバーしてもらえるプランにしてもらったのか……?
冗談は置いといて、何で私達が帰ってきた事に気が付いたのだろう。
向こうが話しかけてきているのに、こちらが黙っているわけにはいかない。
「ここは私の家なんだけど、あなたは誰? どうしてここにいるの?」
前にもこんな事があったような……。
この世界ではデジャヴが起こりやすいのか。
女の子は、ハッとした顔をして、
「失礼しました。私は『オルレア』という者です。植物達が幸せそうに暮らしている場所があると聞いて、どんな方が育てているのか気になって来てしまいました。勝手にここまでお邪魔してしまい申し訳ありません」
オルレアと名乗る少女は、誰かからこの場所を聞いたらしい。
この場所を知っているのは、私とルルとクロエの3人だけだ。
ルルは毎日一緒にいて、行動を把握しているからルルが教えられるタイミングは無かった。
クロエには、契約の時に家の場所を教えておいたが、赤の他人に私の個人情報を渡すわけがない。
となると、この子はどこで私の事を聞いたのだろう。
「別にルルと違って、家の中にまで入って来た訳じゃないから、そこまで謝らなくても良いけど、知らない人が家の前で独り言を話してたら、警戒するという事は理解してほしいな」
私はそう言いながら、家に向かって歩いた。
育てている植物達に、ただいまと言い、オルレアと向かい合った。
オルレアは満面の笑みでこちらを見ている。
あれ……。やっぱり変な子かも……。
「私があなたの立場でも、絶対に警戒してしまいますのでお気持ちはわかります。その、ルルさんという方は家の中にまで入ったんですね。凄い方もいるんですね」
オルレアは感心したように言った。
ルルは素知らぬ顔で口笛を吹いている。
「ところで、さっき誰かからこの場所の事を聞いたって言ってたよね? この場所は限られた人しか知らないはずなんだけど、誰から聞いたの?」
この返答次第で、今後この家の扱いをどうするのか、真剣に考えなくてはならない。
「植物達から聞いたんです。『あの丘の上の家で暮らしている人間に育てられている子達が羨ましい』と。私は植物と話せるんです」
オルレアはすごい事を言っている。
そういえば、前にルルがちらっと、植物と話せる種族もいると言っていた。
オルレアは人間ではないのか。
人間にしか見えないけれど、ルルと同じような存在なのかもしれない。
ルルが、私とオルレアの間に入り、両手を大きく横に開き、私を守る形をとった。
「あなたは何者ですか? 完全な人間ではないですよね? 不穏な気配はありませんが、ご主人様によくわからない者を近付ける訳にはいきません!」
ルルが頼もしい……。
やはり、オルレアはだだの人間ではないようだ。植物達と話せるのが本当であれば、当然だが。
オルレアは、背筋を真っ直ぐ伸ばし、右足を斜め後ろに引き、青いワンピースの裾を持ち、スカートを軽く上げた。
「改めて自己紹介をさせて下さい。私は『オルレア』と申します。この国の『聖女』であり、人間と『緑の精霊王』との間に生まれた者ですので、純粋な人間ではないのですが、オルカラ王国では、人間で通っていますので、この事は内密にお願い致します」
そう言うと、ペコっと頭を下げ、ニコッと笑った。
精霊王って……。なんかすごい話をされた気がする。
前に精霊は現象だと聞いた。人間が現象と結婚? 可能とか不可能とかのレベルではなく、これは妄想じゃないのか。
もし、それが本当なら、美人・スタイル抜群・聖女・精霊王の子どもってヒロイン確定キャラだ。
今はこんな事を考えている時では無いのだろうが。
ふっふっふ…。
何やら、隣でルルが嬉しそうに怪しい笑い方をしている。
「このオルレアという少女をご主人様のパーティーに加入させましょう! 最近聖女が代替わりした、という話は以前したと思いますが、今期の聖女は歴代最高の魔力を持っているという話です! ここで会ったのも何かの縁でしょう! ぜひ、この者をご主人様の忠実な部下にしてください!」
ルルは、大袈裟な身振りで私を説得しようとしているようだ。
「いや、部下って。初めて会った人に失礼でしょ? それにパーティーなんて作ってないし、募集もしてないし、オルレアさんにも日々の生活があるんだから、そんな簡単に……」
私がルルの失礼をオルレアに詫びようとした時、
「素敵です! ぜひよろしくお願いします! 私の事は『オルレア』と呼び捨てで構いません。失礼ですがあなたのお名前を聞いても良いですか?」
何やら、オルレアは乗り気になっているようだ。
ちゃんと話も聞いていないのに何故?
「えっと、私はレイルだけど、本当に良いの? 何をするのかも知らないよね? 下手したら命を落とすような話なんだけど」
私は困惑しながら言った。
「レイちゃん、ですね。ここの植物はみんな幸せだと言っています。毎日が穏やかに過ぎ、お花が歌い、木々が踊っていると。他の地域の植物達の噂になる程、ここの植物達は幸せに溢れているんです」
オルレアは辺りを見渡し、手の平から溢れ出た白い小さな光を植物達に纏わせた。
「皆さんレイちゃんと少しだけ話せるようになりましたよ」
植物達に語りかける。
すると。
『ラーラーラー。ふふ。ラララーラー』
『ありがとうレイル』『ふふふ』
『私たちは世界一恵まれているわ』
『大切にしてくれてありがとう』
『果物も野菜も、もうすぐ食べ頃よ。美味しく実っているからたくさん食べてね』
『いつもありがとう。レイル』
これは……植物達の声。
歌うオルレアの花。透き通るような綺麗な声。
植物達はこんなに幸せを感じてくれていたんだ。
胸が詰まり、泣きそうになった。
「私こそありがとう。あなた達の声が聞けて嬉しい。果物も野菜もたくさん食べるね」
植物達が纏っていた光が消えた。途端に草木が揺れる音だけが聞こえる。
ここは、あんな風に賑やかな場所だったんだ。
「聞こえましたか? 植物達はレイちゃんにすごく感謝しているんですよ。これだけ植物に好かれる人間なんて聞いた事がありません。もちろん、ここの気候も素晴らしいですが、レイちゃんが愛情を与え続けているのが植物の様子を見てすぐにわかりました。それだけで協力する理由になるんですよ」
オルレアはそう言って笑った。




