笑顔の破壊力 lv.113
ニライの中心街を、アークとオルレアと三人で歩く。
この世界には、様々な種族が存在する。その中でもまだ関わった事がないのが、獣人とドワーフだ。
すれ違う彼らを見ながら、いつか仲良くなれるのだろうかと考える。
「レイちゃん? どうしたんですか?」
オルレアが、心配そうにこちらを見ている。
「ううん、何でもないよ。どんなお店か楽しみだね」
私はオルレアに笑いかけた。
すると、アークが立ち止まった。
どうやら目的のカフェに着いたらしい。
アークがドアを開けると、扉についた小さな鈴がチリンッと可愛い音を出した。
「いらっしゃいませ。好きなところに掛けてください」
見た目は十代後半位の若い女の子が、ぶっきらぼうに言った。
他に店員がいない所を見ると、この子が店主のようだ。
店内は広くはないが、茶色を基調とした落ち着いた雰囲気で、私の好みの内装だった。
私達は、窓際の四人掛けの席を選び座った。
店内を見回すと、所々にピンク色の小物が置いてあるのが気になる。店主の趣味なのだろう。
「ここは全て味が良い、どれを頼んでも外れは無いぞ」
アークが自慢げに言った。
「私はこのセットを頼もうかな」
『店主の激推しウインクセット』
という、少しアレなネーミングのセットを指さし、私は言った。
このセットの内容は、その日店主が一番自信のある料理と飲み物を出す、というもので、初めて店に来た客には、ありがたいセットだ。
「じゃあ、私はこのセットにします」
オルレアが指さしたのは、
『ばっきゅん!可愛いくてごめんねセット』
という、私が選んだ物より数段アレなネーミングのセットだ。
セット内容は、好きな飲み物とヘルシーな料理と書かれている。
飲み物も料理も、それぞれ四つの中から選んで組み合わせられる。
オルレアは少し顔が赤くなっている。恥ずかしいのだろう。
「俺はここに来るといつもこれしか食べないんだ」
そう言ってアークが指をさしたのは、
『いつものセット』
という、よくわからないものだった。
「これを常連が頼んだら、その人がいつも選ぶ料理を出してくれるんだ。それにしても……飲み物も料理もセットもほとんど名前が変わってて驚いた」
アークは、ネーミングセンスに触れずに、ニコニコと話している。
「元々こんな感じではあったの?」
私が聞くと、
「いや、普通だったぞ。レイルが選んだやつは『今日のセット』だったし、オルレアのやつは『ヘルシーなセット』だったと思う」
普通というよりは、やる気が無さそうに聞こえる。
「あの女の子……センリが店主だから、何で変わったのか聞いてみるか。今のじゃどんな料理なのかわかりにくいだろ」
あの子はセンリという名前らしい。清潔感があり、頭の高い位置で揺れるポニーテールが印象的で、少し冷めた表情をした綺麗な女の子だ。
だが、眼鏡をかけている。
そして、カウンターには、ピンク色の時計が置かれている……三個もだ。
今日発売の時計を、さっきオープンしたばかりの店で買って、すぐに自身の店に置いている、という事になる。
恐らく、あの時先頭付近に並んでいたのだろう。
流行りものが好きなのかもしれない。
「あまり女の子に対して踏み込まない方が良いよ。センリさんのお店なんだから、私達が口を出す事じゃないでしょ?」
私がアークを制止する。
「とりあえず頼みましょうか」
と言って、オルレアがセンリを呼ぶと、すぐにセンリはこちらに来た。
「注文をどうぞ」
先程と同じく、ぶっきらぼうな言い方をする。
「私はこれで、これとこれのセットでお願いします。そして、この方がこのセットで、この人がこのセットです」
オルレアがセンリにメニューを見せながら、指をさす。
すると、センリはみるみる顔を赤らめ、口元が緩み始める。
「『ばっきゅん!可愛いくてごめんねセット』の①と④の組み合わせが一つ、『店主の激推しウインクセット』が一つ、『いつものセット』が一つですね」
と言って、先程と打って変わってニヤニヤと笑いだした。
……物凄く怖い。ルルと出会った頃を思い出す。
すると、センリはいきなり真顔になり、
「『いつものセット』を注文されたのはどなたですか? こちらを注文出来るのは常連のお客様のみですが」
と素っ気なく言った。
「ああ、それは俺だ。今、色々あって変装中でな」
アークが申し訳なさそうに言うと、
「その声は……アーク様ですか。わかりました、少々お待ちください」
センリは、冷ややかな態度で奥に下がって行った。
アークの見た目が全然違っても、全く興味が無さそうだった。
「なんか、凄い人だね」
私が言うと、
「ああ、本当に凄い人だよ。元、王室騎士団所属で、ケイと結婚して騎士団を抜けて、飲食店を開いているんだ。部隊長まで上り詰めた騎士だったとは思えない程の料理の腕だぞ。センリは……とにかく半端じゃない」
アークは興奮した様子で答えた。
私が言いたいのはそこじゃない……だが、情報が多すぎる。
センリが王室騎士団にいた……そして、王室騎士団副団長であるケイの妻……。
「そうだったのですね。お二人の雰囲気は似ていらっしゃるので、とてもお似合いです」
オルレアはニコニコだ。
真面目で礼儀正しいケイと、ぶっきらぼうで素っ気なく、少し変わっているセンリ。
「そうだね。なんか本当に凄いね……」
私は、ツッコミどころが多すぎて諦めた。
話していると、センリが料理を持って、こちらへやって来た。お皿と飲み物のカップを私の前に置き、
「『店主の激推しウインクセット』です。お皿の内側が熱くなってるので、触れないようにしてください」
手慣れた様子で私に注意を促すと、センリは次のお皿をオルレアの前に置きながら、
「『ばっきゅん!可愛いくてごめんねセット』です。よくかき混ぜて食べて下さい」
と言って飲み物のカップを並べた。
ここまで、センリはずっとニヤニヤしている。
最後にセンリは、アークの前にお皿を置いた。
「『いつものセット』です。いつものように食べて下さい」
真顔で冷たく言い放つ。
こういうお店が前の世界にもあった気がする。確か、ツンデレ喫茶……。
そして最後に、アークに色紙のような物を渡し、
「レイル様のサインを貰って来てくれませんか? 宛名は『センリへ』でお願いします。親愛を込めて、とか愛を込めて、とか何も書かないでと伝えてください。恐らく愛を込められると私は死にます。できたらで良いので、お願いします。サインをいただけたら、未来永劫、アーク様の食事代を無料にしますので、何卒」
センリはユウニ並の早口で、噛みもせず言い放った。
それを聞いたアークが、
「レイルならここ……」
と言い掛けた所で、
「アークさん、良いじゃないですか。レイル様にお会いした時にでも、お願いしてみてください。では、いただきましょうか、早く食べないと料理が冷めてしまいますよ」
とオルレアが焦った様子で、アークに食事をすすめる。
私と無関係なのをアピールする為に、あえて名前に敬称をつけたようだ。
「……わかった、じゃあ書いて貰ったら持ってくるよ。だが、食事代は払う! それは譲らないからな」
アークが言うと、センリは満面の笑みを見せ、
「ありがとうございます。では、ごゆっくり」
スキップをして、店の奥に戻って行った。
「アークさん、本人がいるなんて言ったら、センリさんが倒れてしまいますよ。空気を読んでください」
オルレアが、センリに聞こえないように小声でアークへ話しかける。
アークはハッとしたような表情をして、何度も頷いた。
そこから私達は食事を始めた。
本当に美味しい。魔法なのか魔道具なのか、お皿のフチは熱くないが、料理に触れている部分がずっと熱をもっている。
常に熱々の状態で食べられて、味も良い。
飲み物も、私の知らない花を使った、良い香りのする口直しに丁度よいお茶だった。
メニューの名前を見ると、すごい物が出てくるのでは、と思っていたが、料理自体は見た目も良く、最高に美味しいものだった。
アークもオルレアも、満足気に食べている。
美味しいお店と私の大ファンを見つけた瞬間だった。
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