笑顔の破壊力 lv.11
人に向けて神力を使ってしまった日から、私は神力をコントロールするため、家で修行をする事にした。
私の家は、どういう仕掛けがしてあるのか、神力の影響を受けない。
これ程うってつけの修行場はないだろう。
この力に自分が恐れを抱かなくなるまで、神力をコントロールし、自分のものにするまでは、家の敷地から出ないつもりだ。
あの時、本当に事故で片付けられたのだろうか…。
ルルに聞いただけで、実際に確かめてはいない。そもそもあれほどの爆発を事故で片付けられるのか?
あれを見て、私を探している人がいたらどうしよう。
周りにいた人達は驚いただろう。私は、自分の事だけを考えて、保身の為に逃げてしまった。
毎日毎日、罪悪感に押しつぶされそうになる。吹っ切れては落ち込んでの繰り返しでおかしくなりそうだ。
同じ過ちは繰り返さない。私は自分の力に負けない。
家にいる間は、眼鏡を外し、食事や入浴、植物への水やり等の生活に必要な事以外の時間は、修行をした。
修行の方法は、今は誰も使っていない両親の部屋の壁に、ルルが書いてくれた的があり、的から1番離れた位置に立ち、そこから神力をぶつける、というものだ。
的といえばこれだと思い浮かぶ、白い丸が4重になっているタイプの的で、外から5点、10点、50点、100点と、中心に近づくにつれ、高得点になる。
100点の所だけ赤く塗られていて特別感がある。こんなに丸は綺麗に書けるのか、と思う程、等間隔で正確な的だ。
ちなみに100点は直径2センチ程しかない。
初めは全然、力のコントロールが出来なかった。当たり前だ。大体の魔法は杖を振る、手をかざす等の動作をきっかけに発動させるのに、
私はというと、その物を見て笑う。
なんて不気味な力だろう。
面白くて笑う訳でもない、ただの苦笑いでも壁に衝撃をくらわす。しかも爆音と光付きだ。
私の修行を見て、ルルは毎日目を輝かせながらニヤニヤしている。
そんなルルを見ると集中出来ない。せめて的の隣ではなく、私から見えない所にいて欲しい。当たったらどうするのだろう。
ほとんど、修行しかしない生活を2週間ほど続けて、私は次第に、神力の使い方のコツを掴んできた。
まず、コントロール。これが意味がわからない程に難しかった。そもそも神力がどこから出ているのかわからない。
元の世界でも、眼鏡をしていたら発動しなかった事を考えると、高確率で目だろう。
認めたくない。
目からビームはダサすぎる。
自分が目から神力を飛ばしているのを見たくない。
何を考えても、結局は目に行き着く。
最後は諦め、笑顔になった自分が、どのように神力を発動しているのかを解明する事から始めた。
ルルには、神力がうっすらと見えるそうだ。私が笑顔を作ると、目の周りが白く光り、その後、文字通り光の速さで標的に当たるらしい。
完全に目からビームだった。
狙いは私が見ている物。そこに一直線に飛んでいく。はずなのだが、そんなに数を撃った事はないけれど、1度だけ、見ていない所に当たった事がある。
両親との別れの日、あの時私は、両親を見て笑顔を作ったのに、当たったのは『異世界に行く方法』という本だった。
あの時は、両親の方にはいかないと漠然と思った。結果、両親ではなく、本当に破壊したい物へ神力を飛ばせたのだ。
という事は、神力はコントロールできる。やはり、結果を出す為には、成功体験を繰り返し思い出すのが大事だ。
まずは、成功した時に何をしたのかを思い出す。
私は両親とのお別れの瞬間、両親の思い出の中の私を笑顔の私にしたかった。
私の人生で初めて、満面の笑みを見せられた。
感情が影響しているのか?
そういえば、あの時は目的を持って神力を使った初めての瞬間でもあった。
今練習している的当ては、ルルにずっと見られているから集中できなくて成功しないだけでは……?
ニヤニヤニヤニヤしている顔にもムカついてきた。
ルルは、神力が見えるらしいから近くにいてもらっていたけれど、それが原因で集中できない可能性もある。退場してもらおう。
私は修行をやめ、ルルを見た。ルルはまだニヤニヤしている。
「ねえルル。一旦部屋から出てくれない? もうこの生活を始めて2週間になるのに、一向に的に当たらないよね。ルルが悪い訳じゃないんだけど、見られていると集中できないから、1人で修行させてほしい」
私なりに言葉を選んで言ったが、ルルは悲しそうな表情になった。
そして大きな声で、
「ルルはご主人様の成長の過程を見届けたいんです!神力を使われているご主人様の神々しさも目に焼き付けたいですし……。大人しくしているので、見るのだけは許してください!」
と懇願してきた。
場所と見方を変えるなら良いかな……。
「じゃあ、見せても良いけど約束して。私の後ろから見ること、変な顔で見ないこと、できる?」
私はルルに甘いかもしれない。
ルルは嬉しそうに「守ります!絶対に守りますのでお願いします!」と言った。
そこから、ルルはちゃんと後ろに下がり、気配を消して私の修行を見るようになった。
本当に誰もいないと錯覚するほど、見事に気配を消している。
戦ったら私より強いんだろうな……。
やはり、神力を上手くコントロールできなかったのは、ルルの視線の影響が大きかったようで、後ろに行ってもらってからは、思うように神力を飛ばせるようになった。何度か的にも当たった。
ただ、問題が起きた。
私は今までの人生をできるだけ笑わないように過ごしてきた。そのせいで、何度も神力を使う為に笑うと、表情筋が筋肉痛のように痛むようになった。
ルルに相談すると、この世界には魔法の世界の定番、『ポーション』があるらしく、それを飲めば治ると言われたが、前回、騒動を起こした中心街に売っていると聞いて諦めた。
『ポーション』とは、筋肉痛でも怪我でも重傷でなければすぐに治る万能薬である。
ものすごく欲しかったが、私はまだ外にはいけない。ルルに買いに行かせるのも悪いと思い、顔の筋肉に鞭を打ち、修行を続けた。
修行を始めて3週間が経った頃。
笑顔を作るとまず、照準のマークのような物が出るようになった。白い丸の中にプラスが書かれているような、銃の出てくる漫画ではたまに見た物だ。
今までは見えていなかった。でも、何故か見覚えがある。
ルルに聞いても神力の細かい事についてはわからないと言う。
いつ見たのだろう……。
「あっ!」思い出した。両親との別れの日、最後に撃った時に確かに出ていた。
照準を本に合わせていたから、両親に当たらないとわかっていたのだ。こんな大事なことを忘れているとは……。
なぜ、今思い出したのかはわからないけれど、照準を合わせるための補助機能があるとわかったのは、大きな収穫だ。
照準マークを出すには何か条件があるはずだ。私は毎日色々試した。
笑顔を作る際の口の角度を変えてみたり、念じてみたり、「神力! 」と声に出してみたり、ヒーローがするようなポーズをしてみたりもした(その時はルルが後ろで笑ったのが聞こえた)。
しかし何を試しても、照準マークが出る事はなかった。
もう照準マークを出すのは諦めて、照準マーク無しでコントロールを鍛える事にした。
今までは的に当たれば良いと思っていたが、的の中心、[100点]を狙う事にする。
集中して的の中心を狙っていると、照準マークが出てきた。あれだけ試行錯誤しても出てこなかったのに、なぜこのタイミングで。
集中を解く。すると照準マークは消えた。
すごく簡単な事だった。大まかに『あの辺』、ではなく、『ここ』と当てたい場所をピンポイントに決める。それだけで照準マークが現れるのだ。
そんな簡単にど真ん中に当たるわけがないという、先入観のせいで時間を無駄にしてしまった。
両親との最後の日、あの日は確か、『異世界に行く方法』と言う本の中心に当てたいと考えていた。少しでもズレたら、両親の大切な家に傷をつけてしまうから。
結果、ちゃんと本に当たり、私は異世界に来た。
的の中心に当てようと思って、照準を合わせるにも、距離があるときっちり合わせるのは難しい。
狙ったところに当てられる良い方法は無いだろうか。
そういえば、銃を撃つとき、銃の位置を目の前に合わせて撃っているシーンを結構みた気がする。
それを真似してみる。
腕を伸ばし、親指と人差し指を伸ばす、よくある銃を撃つポーズでは、親指が邪魔で上手く飛ばなかった。
親指を引っ込め、人差し指で的を指さしているようなポーズを取り、左目を瞑り、右目を人差し指の上にくる位置にあて、照準マークを乗せるように腕を上げる。
ここで笑うと
ドーーーン!!という音と光が的に当たった。的の中心[100点]が点滅している。
点滅……。点滅してる。
「ご主人様! おめでとうございます! 見事[100点]を撃ち抜きましたね! ご主人様は、ほんっとーーーうにすごいお方です! この素晴らしい瞬間のために、[100点]には、衝撃を受けると点滅する魔法をかけておきました!」ルルは上機嫌だ。
正直、点滅は的の中心に当たった実感が湧いて嬉しかった。
でも、まさかこの3週間、1度も中心に当たっていなかったなんて。そもそも、的にも全然当たらなくて、的の横にいたルルには何度も当たりそうになっていたけれど。
この1度の成功から、私は指をさして片目を瞑りながら撃つと百発百中になった。何にでも工夫は大事なのだと改めて思った。
もう私に恐れはない。神力は私にとって、手足のようなものになった。大袈裟かもしれないが、それ程にコントロールが安定した事で大きな自信がついた。
神力のコントロールが安定してきた所で、眼鏡の扱い方の訓練も始めるとしよう。
本当は、始めに眼鏡の事をやりたかったのだが、中心街での事故がきっかけで、神力をコントロールする方を優先した。
『特別な眼鏡』いくつかある機能のどれからやっていこうか。




