笑顔の破壊力 lv.102
ヴェルデが指をさしているのは、空だ。
私達は皆、空を見上げる。
視線でヴェルデの指を追っていくと、ある物が目に入った。
『時星』だ。
ヴェルデは時星を指さしている。
「時星にネロ様がいるんですか? そもそも時星って星ですよね」
アークが混乱したように言った。
「そうだよ。時星は元からあった訳じゃないだろう? ある日突然に現れた。そうだね……ネロ君がいなくなった頃だから五十年程前かな?」
ヴェルデは平然と話を続ける。
「いやいやいや、ヴェルデそれはないでしょ? だって、ぼくらが気が付いた時には、既に時星は存在していたんだよ?」
ゼンは明らかに動揺している。
「時星が突然現れたなんて記録はありませんし、黒の精霊王であるネロ様が時星の中にいる、という事も信じられませんね」
ダンが言った。
「僕たち精霊王は、ネロ君があの中で何をしているのかはわからないけれど、特に苦しんでいる訳でも無さそうだったからね、放置していたのだよ」
ヴェルデはニコニコとしている。
途方も無い年月を過ごす精霊王達にとって、黒の精霊王の奇行など、特に気にする事でもないようだ。
「お父様、五十年前に時星がいきなり現れたと言うのはどういう事ですか? お父様はその瞬間を見たのですか?」
オルレアがヴェルデに問いかけた。
「僕たち精霊王にも、会議をする機会が数十年か、数百年に一度あるのだけど、ネロ君がいなくなった時に集まったのだよ。そしてネロ君の気配を探した所、空に見たことも無いものが浮いていて、その中にネロ君がいることがわかったという訳だ」
ヴェルデは、その日の事を思い出しているのか、ゆっくりと言った。
「そもそも、時星から漏れる魔力はネロ君のものだろう? 大神官ともあろう者がわからないのかい?」
ヴェルデにゼンがからかわれるという、珍しい光景だ。
「ちょっと待って、何だこの記憶は……これも精神操作だね。全て晴れたと思っていたけど、どうやら、まだぼく達が認識しきれていないものは残っているようだね」
ゼンは、ヴェルデに言われて時星が無かった頃の記憶が戻ってきているようだ。
「時星だあ? あの浮いてるやつだよな? 俺の中の『記憶』にはあんなの出てこねえぞ?」
ジェットの中にある『ゴウカの住人の記憶』の中に時星は無いらしい。
「ボクの中の人達も知らないようです」
「グランもなんだろ? どの空を思い浮かべても出てこないんだろ?」
イシスとグランの中にも、時星の記憶がない。
ゴウカは、時星が上がった少し後に魔物の侵攻を受けたはずだが、ゴウカの住人は、空を眺める習慣の無い者ばかりだったのか、時星を見つける前に砂にかえられたようだ。
「それで、結局時星って何なんですか? 魔法師団の人達が作ったのなら、聞いたらわかりそうですけど……」
私は、先程から気になっていた事を聞いた。
精霊王を閉じ込められる程の物の情報が全く出ないなどありえない。
「黒魔術を研究していたのは魔法師団なので、話はしたのですが、長い間ほぼ監禁状態で働かされていたようで、自身が何を何の為に作っているのかわからなくなっていました」
私の質問にはダンが答えた。
魔法師団の人達は、作業をするだけのロボットのようになっていたのだろう。
ただ、大切な人を守りたいという一心で、辛い日々を、心を殺して耐えていたのかもしれない。
それを聞いたヴェルデが、
「恐らく、時星はネロ君の魔力で動いているよ。それ以外の力を感じないからね。前までは魔力が切れるギリギリの所で動いていたのが、今は魔力に余裕がありそうだ。何かあったのかな?」
といって時星を見上げた。
初めて時星を見た日、自然発生したものじゃない気がして、変な事になりそうで眼鏡の機能で見るのをやめた。
これは見ないといけないものだった。
「時星の『色』を見てみます」
私は左手で丸を作り、左目で覗き込む。
少しずつズームを使い距離を縮めていくと、時星が全て視界に入るギリギリの所でとめる。
時星の中心に人型が見える。黒の精霊王ネロだろう。
ネロの色は黒だが、魔の者と違い禍々しく無い。
時星を細かく見ていくと、一定の間隔で何か光る物があるのが見えた。
「ネロ様を見つけました、本当に時星の中心にいるようです。あと、何か光っているのが等間隔であるんですけど……」
私は光っている物だけを見ようと、更にズームを使う。
……これは。
「……核です。赤い核が一定の間隔をあけて時星に埋められています」
恐らく、サモラ王国が召還した魔物の核だ。
「赤い核っていったら、俺達が初めに戦った奴らのものだよな。何で時星に核なんか埋めてるんだ?」
アークが言うと、
「そういう事か……時星は『魔物モドキ』なんだよ。魔物に見立てて核を配置し、ネロの魔力を核で吸収している。これは、ネロの魔力を使って時星が何かしらの魔法を放っていそうだね」
ゼンが目を輝かせている。時星の謎解きを楽しみだしているようだ。
だが、確かに黒の精霊王を拘束し、魔力を吸収するだけならわざわざ空の星に擬態する必要はない。
時星から魔法が放たれている……凄い話だ。
「あんな所から、誰に何の目的で魔法使ってるってんだよ? こんなに距離があったら、ピンポイントで当てるとか無理だろ。この国の奴ら全員に攻撃してたりしてな!」
ジェットが冗談混じりに言った。
その瞬間、皆ハッとした表情に変わる。
私も気付いてしまった……。
「精神操作……」
オルレアが呟いた。
「ぼくもジェットの冗談でやっと気が付いたよ。サモラ王国は、時星でオルカラ王国全域に精神操作をかけていたんだね。今では時星が異物だとはっきりとわかる。不思議な気分だ」
ゼンにかけられていた、時星に関する部分の精神操作が解けたらしい。
ダン、オルレア、アークにかかっていたものも解けたようで、頭を抑えている。
「まさか、時星から精神操作をかけられていたとは、ただただ驚きです」
ダンは笑顔で言った。
「段々頭がすっきりして、時星が得体の知れない物に思えてきた。あんなとこから攻撃されてるなんて思わないだろ」
アークは、頭を触りながら時星を見上げる。
「五十年前に時星なんてありませんでした……精神操作に気付く度に、自分が魔法に侵食されていたのだと恐ろしくなります」
五十年前、オルレアは6歳の子供だった。
子供の頃の記憶でも、絶対に無かったと言える程、時星の存在は違和感だらけなのだろう。
「時星が精神操作の原因というのは間違いなさそうだね。時星に均等に並んでいる核を壊すと、時星も消えるのだろうけど……」
ゼンはそう言って何かを考えている。そして再び口を開いた。
「精神操作がいきなり無くなってしまうと、前にアークが言っていたように、国内がパニックになるだろうから、まずはやらないといけない事が出来たね」
そう言うと、ダンと目を合わせた。
ダンが小さく頷くと、ゼンが指をパチンと鳴らした。
すると、ダンが消えた。
今言った、やらないといけない事の為に何かをしに行ったようだ。
「黒の精霊王さんは、あのままにしておくんですか? 助けを追求しているかもしれません」
イシスが真顔で、焦ったような声で言った。
「追求じゃなくて、求めているなんだろ? でも、本当に魔力が使われているのなら可哀想なんだろ?」
グランは悲しそうだ。
その言葉を聞き、皆、時星を見上げる。
「おーい! ネロ君! 降りられるかい?」
ヴェルデが時星に向かい叫んだ。
ヴェルデは、あまり大きな声を出すのが得意では無いようで、叫んでも絶対に時星には届いていないだろう。
などと考えていると。
「ヴェルデーか。久しぶりに顔が見たいと思っていた。何故か今は闇の精霊も活発で、ぼくーの魔力も元に戻っている」
声が聞こえたと思うと、時星の周りに黒いモヤが広がり、こちらに伸びてきた。
目の前に降りたモヤが人型になり、私達の前に男が現れる。
「元気だったか、ヴェルデー。ぼくーは最近元気になった所だ」
男がヴェルデに言った。




