笑顔の破壊力 lv.100
「ユウニ? 大丈夫か?」
アークが声をかけるが、ユウニは起きない。
メイドが数人集まり、ユウニを運んで行った。
その手際の良さをみる限り、よくある事なのかもしれない。
そもそも、王女がデザート欲しさに人を見つめるわけがない。
それに、王宮の食堂になら、まだデザートが必ず用意されており、アークが自らの物を差し出す必要は無い。
アークは無自覚に、ユウニに思わせぶりをしているのでは無いだろうか。
「アークはいつもあんな感じなのかな? あんな事されたら、私でも期待しちゃうかも」
と私が小声でオルレアに言うと、オルレアは驚いたような顔をした。
「アークさんは正直すぎるので、想い人へは気持ちをはっきりと伝えられる方ですよ。ユウニ様に対しては本当に何も考えずに行動されていますね。なので、レイちゃんはあまり考えないでください」
オルレアも小声で言うと、私の腕に自身の両腕を絡ませた。
そして、
「私も食べ終わりましたし、部屋に戻りましょうか」
と言って立ち上がった。
腕を組まれた状態の私も同時に立ち上がる。
すると、ジェイナがこちらへやってきて、
「お部屋に戻られますか?」
と私達に問う。
私はジェイナに頷いてから、皆の方を見た。
「じゃあ、私達は部屋に戻ります。皆もまたね」
ヨウリが立ち上がろうとするのをアークが止め、
「ヨウリ、まだデザートが残ってるぞ? じゃあ、俺も戻るよ。またな」
と言って立ち上がり、こちらへ来た。
ジェイナに続き、三人で食堂を出て、部屋に向かい歩き出す。
「食堂から私達の部屋はすぐだから、アークも部屋に戻って良いよ。これから忙しくなるだろうし、夜くらいゆっくりしないと」
歩きながら私が言うと、
「あのさ……明日は何するんだ? もしどこか行くなら、俺も暇だから一緒に行きたいんだが」
アークは少し顔が赤い。
「明日は、レイちゃんと『二人で』イチノの街に出る予定ですよ。レイちゃんと『二人で』お出かけする機会はあまり無いので、すごく楽しみにしているんです」
オルレアは『二人で』を強調して話している。笑顔でアークを見ているが、目が笑っていない。
どうしても二人で行きたいらしい。
話を聞いていたジェイナがこちらを振り返り、
「お話の途中で申し訳ありません。今は街に出ない方が良いかと思います。皆様はあまりにも有名になられていますので、イチノの街で見つかってしまうと、物凄い騒ぎになってしまうかと」
と忠告をしてくれた。
もう、ゴウカでの戦いの噂が広まっているらしい。
もしくは、また王様が広めているのか。
「オルレア、大丈夫か?」
アークがオルレアの心配をしている。
オルレアの方を見ると、目を見開き、口を開け、ショックを表情で完璧に表現していた。
「イチノの街をレイちゃんと歩きたかったです。街をどう回ろうかも考えていました……」
オルレアは、シュンと下を向き呟いた。
私はオルレアの頭を撫で、
「行こうと思えばいつでも行けるよ。とりあえず、問題が全部片付くまでは王宮で過ごすとして、全部終わったらイチノの街に行く計画を立てよう」
と言うと、オルレアは小さく頷き笑った。
「ごめんねアーク。こういう事だから、明日も王宮でゆっくり過ごすよ」
「わかった。じゃあ俺は訓練場で剣術の訓練でもするよ。じゃあ、またな」
と言って、アークは部屋に戻って行った。
私達も部屋に戻り、キュインをして、魔法で保温されているお風呂に入り、用意されていた可愛いパジャマに着替え、ふかふかのベッドで眠った。
朝起きると、着替えてからオルレアと『白の輪』を使い、家に帰って植物達の世話をした。
『黒の輪』と『白の輪』があるのなら王宮に泊まる必要は無いのだが、ルルのいない家はあまりにも寂しい。
そこから数日は、朝は家に帰り、戻ってからは王宮の探索をした。
絵画や彫刻が飾ってある部屋が複数あり、異世界で味わう芸術は見応えがあった。
歩くと柔らかくなる廊下、見た目は二十段はある階段が上り始めると三段で一番上に着いていた、という事もあった。
寝る前には、オルレアに元の世界の本を読み聞かせた。
眼鏡の機能で良さげな本を探している時、オルレアは不思議そうな顔で私の手の動きを見ていた。
声も画面も私にしか見えないらしい。
時々、食堂や廊下でアークや、ヨウリやユウニ、魔人達と会う事もあり、その度に、面白い会話劇が繰り広げられた。
ルルがいたら、もっと楽しい毎日だったのだろうと考えると、ルルが帰ってくる日が余計に待ち遠しくなる。
そして、王宮に来てから十日程経った頃、夕食を終え、オルレアと部屋で話していると、トントンッとドアをノックする音が聞こえ、返事をするとジェイナが部屋に入ってきた。
「大神官様より伝言でございます。明日の朝、朝食後に大会議室に集まるように、との事です」
そう言うと、ジェイナは頭を下げ、部屋を出て行った。
「サモラ王国の処遇が決まったのですね……」
「そうだろうね……明日早く起きるために早く寝ようか」
ゼンの事だから、チャチャっと全てを決めてしまうかと思っていたが、国家間の問題だとそうはいかなかったのだろう。
そもそも、こんなに大きな問題が、十日で決まるのがおかしいのかもしれない。
私達はキュインをして、お風呂に入り、その日はすぐに眠った。
朝起きると、そんなに遅く起きたわけではないはずだが、オルレアが支度を済ませ、ソファに座っている。
「オルレア? どうしたの? もうお昼?」
私は眠たいからか、バカな事を聞いてしまった。
「レイちゃん、おはようございます。ふふ、まだ朝ですよ。平凡な日常から現実に戻る気がして、不安になってしまいました……」
オルレアは元気が無い。
私は着替えてオルレアの隣に座り、膝に置いてある手に私の手を重ねた。
「もう全部終わったんだよ。ここから先はどれだけフラグが立っても何も起きない。ね? 大丈夫だよ」
私はオルレアに向かい笑う。
「フラグ……が何かわかりませんが、レイちゃんに言われると大丈夫な気がしてしました」
オルレアはちゃんと笑えている。
コンコンッと扉をノックする音が聞こえ、私が返事をすると、ジェイナが朝食をどうするか聞いてきた。
「私達は、今日は部屋で食べるよ」
と言うと、
「かしこまりました。では、こちらにお持ちします」
ジェイナが部屋を出て行ったと思うと、すぐにコンコンッとノックの音が聞こえ、ジェイナが朝食を持ち、部屋に入る。
いくらなんでも早すぎる。
私達が部屋で食べる事がわかっていたのか……。
ジェイナにお礼を言い、私はオルレアの向かいに移動して食べ始めた。
「まだ皆来てないかもしれないけど、食べ終わったらすぐに向かおうか。じゃないと、気になって落ち着かないでしょ?」
私が言うと、
「ありがとうございます。ここにいてもソワソワしてしまうので、行きたいです」
とオルレアは言ってニコッと笑った。
少しは落ち着いたらしい。
食事と一緒に出されたお茶も、ハーブの香りがし、甘めの味と合わさり、リラックスできそうだ。
ジェイナが気を遣ってくれたのだろう。
食事を終え、キュインをし部屋を出ると、ジェイナが部屋の前で待っていた。
「では、大会議室までワープしますね」
と言って、手をパンッと叩くと、少しの浮遊感の後、床に足が着いた。
前を見ると、大会議室の扉がある。
ジェイナにお礼を言い、扉を開けた。
「レア! レイルちゃん! なんだか久しぶりー! 元気にしてた? こっちは難しい顔した人ばっかで大変だったのよー! ああーやっぱり女の子は良いわー」
扉が開くと、ローズが一瞬で私とオルレアに飛びかかってきた。
私達は、まとめて抱きしめられ、楽しそうな声でローズが話すのを聞いていた。




