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救われぬ者に救いの手を~見捨てられた騎士の成り上がり~  作者: オーメル


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第四部:逃れぬ資格

 ――――俺は二度と貴族にはなりたくないと思っていた。

 それは今も変わらないし、寧ろその念は強くなっている。貴族と関りを持つなど御免被ると考え、しかして現実は常に予想外の方向へと舵を切っていくのだ。

 秘密裏の謁見から早一月。特殊個体の出現報告を聞いて騎士団と一緒に討伐に出向き、その間に準備を進めていた。

 俺の情報はある程度王宮に広まっている。通り過ぎる際に平民風情がと侮られるのは勿論、時には理不尽な要求を突き付けてくる貴族も発生していた。

 その全てに出来る限り毅然とした態度を行ったお蔭で侍従や騎士達からの評価が上がっているものの、彼等は結局のところ従う側だ。

 反逆の手札を持っていようとも、権利や倫理の前では自由に力を振るえない。これは俺も同じであり、どれだけ貴族達が此方を侮蔑したとしても武器を持って対応することは出来なかった。


 とはいえだ。

 未だ正式な発表を受けていないとはいえ、俺も貴族の仲間入りを果たす。その背後には王族が存在し、彼等は家格に見合わぬ態度を示す輩を極めて嫌っている。それがどれだけ高位の役職に就いていたとしても、常識が役職相応に伴っていなければ即座に切り捨てるのだ。

 故に現状ではただの平民冒険者である俺に対し、悪口や遊び半分の妨害を行う貴族達は自滅の道を進んでいると言っても過言ではない。

 最近になって王やシャルル様にその手の貴族達について報告を入れろと言われ続け、徐々に徐々にとその役職に座っていた貴族達が閑職に追いやられ始めている。

 その事実によって一部の貴族は俺と王が繋がっていると察し、更には俺が従っているハヌマーンに対しても確信めいた予測を陰で口にするようになった。

 

 最早隠し通すなど不可能であり、王もシャルル様も隠すのを止めたのだろう。

 他の王子達も彼等から聞いたのか邪魔をすることも無く、そのままハヌマーンが王子であるという確定情報は王宮内に浸透していった。

 そうなれば、誰もがハヌマーンに対して意識せざるを得ない。

 彼が何処かに移動する度にこれまで近くに居た侍従達は焦りながら頭を下げ、騎士達も近くで護衛する。

 騎士団長であるワーグナー曰く、内密ではあるがハヌマーン専属の騎士も何人か選んでいるようだ。既に王からは許可を貰っているようで、正式な発表がされたと同時に白金騎士が数人護衛として就くという。

 俺も彼の護衛役ではあるが、一人で全てを守り切れると豪語するつもりはない。もしも個人的な用事が出来た場合も合わせ、交代出来る要員が増えたのは喜ぶべきだ。

 

「随分と忙しくなっちゃったわね」


「そうですね。 ですが、此度の成果によって学舎に回される予算も増えるのでしょう?」


「ええ。 ここのところまったく帰れてなかったけれど、これで学舎の存続も可能となったわね。 手紙を送り合ってばかりだから久し振りに学舎に戻りたいわ……」


「私も久し振りに仲間達に会いたいですね」


 馬車の中で俺とナノは言葉を交わし合う。

 貴族として正式に認められていなくとも、シャルル王子から許可を貰ったことで王宮内の馬車を借りることが出来た。といっても、俺もナノも使うつもりがなかった代物だ。

 実際はシャルル王子から半ば押し付けられる形で馬車を借りることとなり、戸惑いながらも馬車に乗り込んでいる。

 形状は他の馬車と変わらず、一頭の馬が引く小さなものだ。飾りも質素で、貴族向けではないのは一目瞭然である。

 だが俺達にとっては使い易い。然程注目を集めることは無いし、移動も随分楽になった。御者も普通の恰好をしているので騒ぎにならず、そのまま目的地にまで進むことが出来ている。

 本日の予定は俺の家だ。王都に来てからは王宮暮らしをしているものの、何時までもそんな場所に居続ける訳にはいかない。

 ならば騎士達のような宿舎にとも思ったが、貴族となる以上は最低でも一つくらいは家を持たねばならない。

 俺の貴族としての立ち位置は半ば名誉職も同然。建前上は貴族であるものの、領地も無ければ付いてくる領民も居ない。

 

 一代限りでもあるし、次に繋げる為には俺の子供も何か成さねばならないのである。

 これは本当の意味で貴族の仲間入りを果たしたいと思っている人にとっては憤慨ものであるし、そうではない人にとっては気楽なものだ。

 見知らぬ誰かの生活を支える為には考えねばならぬ部分が多い。それを考え決めている間に騒動は次々と起こり、最終的に間に合わなくなってしまう。

 俺は元々頭脳派ではない。考えるよりも動いた方が楽な方であり、ナノに聞けば同じ答えが返ってくるだろう。

 それについて否定を口にするつもりはない。人には得手不得手があることなど、既に痛い程理解している。


「それにしても、あんたが貴族ねぇ?」


「名誉職のようなものですよ。 与えられるのも家一軒しかありませんし」


「あら、逆に言えば家一軒分の領地は獲得したということよ。 その家の規模は解らないけど、もしも大きければ別の誰を雇う必要が出てくるわ。 誰か当てはある?」


「いえ、家を見てからその辺は決めようかと。 最悪訓練ついでに自分で掃除をするのも手かと思っています」


「掃除が訓練って……。 いえ、何でも無いわ」


 呆れた目を向ける彼女に苦笑を返すと、馬車が止まる。

 御者が扉を開け、礼を返してから目的の家に視線を向けた。王族から与えられた家ということで決して並ではない代物を送るとは思っていなかったが、やはりというべきか平民にしては随分大きい。

 勿論貴族から見れば目の前の家は小さい。五人が暮らせるくらいの大き目の家というべき建物は赤い煉瓦造りで、扉は木製であるものの叩けば硬い音が返る。

 長方形の三階層もある建物を作ろうとすれば、消費される金額は普通では済まされない。冒険者として考えれば、この物件は成功した人間にしか建てられないものだ。

 質実剛健。家を評価するのであれば、正しくこの言葉が当て嵌まる。

 少々の興奮を覚えながらもシャルル王子付きの騎士から貰った鍵を扉に差し、内部へと進んでいく。

 家財道具が無いことで広々とした印象を覚えるものの、中は存外に綺麗だ。新品ではないのだろうが、定期的に掃除をしていただろう跡が所々に散見される。


「随分良いんじゃない? 此処ならいざという時に砦に出来るしね」


「籠城目的で貰った訳じゃありませんよ。 ……しかし、随分と部屋数が多そうですね」


 二階に登り、部屋を確かめる。

 一階は基本的に全て共用だ。風呂も設置され、薪を用意すれば何時でも湯に浸かることが出来る。

 二階からは個室が目立つ。数は三つであり、その全ての部屋が窓の位置は違えど他は一緒だ。取り合いが発生し辛いのは大変に有難く、三階に登ってもそれは一緒だ。

 個室だけで合計六。俺達四人が住むと仮定しても余り、実際に住むのは俺とナノくらいである。

 彼女も家が無く、基本的に学舎で寝泊りしている状態だった。なので生活拠点を此処に移したのだ。


「まるで新婚の物件調査ね」


「変なことを言わないでくださいよ。 全部が落ち着いたら貴方だって誰かと恋愛をするかもしれないんですからね?」


「別に良いわ。 目の前に将来性のある男が居る訳だし、結婚をしても構わないのよ」


「……そういう言葉を言ってはいけませんよ」


 溜息を吐く。世の中には残念な女性が存在するというが、ナノもまた平民としての生活によって随分と残念になったのだろう。

 いや、現実的になったと捉えるべきか。何せ将来性が無い状態で結婚なんてすれば、後に待つのは悲惨そのものだからな。

 その後も家の状態を調べる為に内部を歩き回り、最終的に馬車に戻ったのは夕方になった頃だった。

 ナノは久方振りに動き回った所為か少し疲れたようで、俺の肩を枕にしながら吐息を零す。その音だけを耳は捉え、俺もまた少し目を閉じた。

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