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救われぬ者に救いの手を~見捨てられた騎士の成り上がり~  作者: オーメル


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第三部:貴族

 この王宮で過ごし始め、最初の夜を超えた。

 横になったベッドは非常に質が良く、柔らかく此方を包み込む材質は王宮でなければ用意出来まい。

 お蔭で久方振りに普段よりも遅く起きてしまったものの、それでも朝焼けは訪れてはいなかった。

 普段通りであればこのまま外で剣を振るうのだが、俺の武器は全て没収状態。出来るとすれば木の剣を借りるくらいだが、面識の無い俺に訓練道具を貸す人間など存在はしない。

 結局のところは室内で鍛えるしかなく、無心で身体を動かし続けていた。

 鍛錬を終えたのはノックの音が聞こえた直後。厳密に回数を定めてはいないので体力の続く限り酷使していたのだが、俺が好き勝手出来る時間はあまりにも少ない。

 そもそも地道な鍛錬にあまり意味が無い体質の俺には必要ではないかもしれないが。


 俺が開くまでも無く勝手に扉が開き、ナノが昨日とは異なるドレス姿で部屋に入る。

 華美なドレスは彼女の経済事情的に出来る筈も無い。今着ている物も飾りを少なくし、黒く染め上げた単純なドレスだ。

 彼女の風貌のお蔭でそのままでも美麗な印象が残るものの、それはあまり綺麗な物に見慣れていないからだろう。実際に貴族達が見た際の反応が楽しみでもあり、不安でもある。

 入室した彼女は俺の許可など得ずに椅子に座った。水差しを飲む姿すら普段とは違う印象を抱かせるものの、此方に不機嫌な眼差しを送る様に変化は無い。

 要件は解り切っている。此方も椅子に座り、外套から頭を出して彼女と向かい合う。

 

「これから貴族達に会うわ。 先ずは王の信頼厚いパリオ公爵から、次はネリギス伯爵ね」


「ハヌマーン様の顔合わせにしては、少々高過ぎませんか?」


「何言うのよ、これからの事を思えば高過ぎて困る事は無いわ。 それに、あの二人は純血主義ではなく合理主義よ。 使える人間であれば殺すような真似はしないでしょう」


「だと良いのですが……」


 実利を求める人間は階級を然程気にしない。

 政治上絶対に用意せねばならない立場を求められればその限りではないが、多くの仕事は貴族の階級など不要でしかない。彼等貴族に求められるのは運営能力のみであり、決して技術力を求められている訳ではないのだ。

 勿論騎士の家系のように技術を求められる貴族もあるにはある。しかし、それはかなりの少数だ。

 全体の数と比較すれば一割か二割程度といった具合に少なく、殆どの場合は領地運営をすることのみを要求される。

 だからこそ、領地繁栄の為に他人の階級を一切気にしない事は不思議ではない。逆に気にするような連中こそが異常であるのだが、実際は合理的な人間の方が圧倒的に少なかった。

 誇りに見栄。その二つが組み合わされば、人は何処までも傲慢になれる。己が彼等を導いているのだと酔い痴れ、不満を口にする領民を切り捨てるのだ。

 

「準備は全員出来ているわ。 王も今回の話には乗り気でね、時間を作って参加するそうよ」


「王も参加するのですか? それはまた、随分な入れ込みようですね」


 王は国の利益を求める必要がある。故に何かが動く場では参加するのも納得ではあるが、とはいえ今回だけでは何も変わりはしないだろう。

 目的としては挨拶程度。それ以上を求めるのはハヌマーンには酷であり、それだけの知識を未だ詰め込みきれている訳ではない。

 王とてそれは解っている筈だ。それでも参加する所を見るに、ハヌマーンに入れ込んでいるのは明白。

 理由は恐らく、新たな可能性についてだろう。

 平民暮らしの王族なんて前代未聞。市井の人間に極めて近い生活をし続けた結果、どのように人間を動かすのかを王は待ち望んでいる。

 その為ならば一回や二回程度の失敗も王は容易く許すだろう。此度の挨拶についても彼の信頼する人間を起用したことで、許し易い空気を作り上げている。

 まだ甘えても良い。王の親心に俺達は感謝せねばならず、しかしてただ甘えるだけを良しとするつもりはナノもハヌマーンも無い筈だ。


「今回の挨拶は最低限の目標よ。 私達が求める最大の目標は――平民の地位向上への繋がりを作ること」


「何?」


 彼女の言葉に疑問を返す。

 俺の言葉にナノは不敵な笑みを見せ、口元を舌で濡らした。


「この貴族社会を支えているのは平民達よ。 それについては誰も反論は出来ないし、現実的に考えるのならばそうだとしか言えない。 けど、随分前から貴族達の横暴が目立つようになってね。 まだ全体がそうだとは言えないけれど、間違いなく不当な扱いをする人物が増えたわ」


「王達は視察をしたですか? そのような真似をする人達であれば、何かしらの不正はしているようなものですが」


「視察をした程度で見えない事もあるわ。 そこで暮らす領民でしか違いが解らないなんてものもあるでしょうしね」


 王や王族は視察を行うが、必ずしも以前までの領地を知った上で来ている訳ではない。

 遥か以前から不正を行い続けているのであれば、最近の情報を纏めた程度で平和かどうかなど決める事は出来ない。精々が怪しいと思われる程度で、信頼性が落ちる程度だろう。

 その程度で莫大な富を手に出来るのであれば、彼等は迷わず不正に走る。貴族も人間であり、人間であるからこそ欲望から脱する事は出来ない。

 如何なる生き物でも、欲を抱えていれば容易に悪にも傾くだろう。貴族であれば環境も整いやすい。

 

「証拠を揃える必要は無いわ。 疑惑があれば後は勝手に向こうが調べてくれるでしょうね。 貴族間の噂話よりも市井に流れる玉石混交の噂の方が意外に真実を突いているものよ」


「一体何時調べたんですかね……」


「あんたが居ない五年の間よ。 教師だけをしてきた訳じゃないんだからね? ……さて、そろそろ行くわよ」


 頷き、二人でハヌマーンの元へ向かう。

 準備は終わっているのか、既に全員が部屋の外で待機している。アンヌからは未だ睨まれていたが、これは永遠に戻りはしないだろう。

 仮に真相を知ったとしても、複雑な心境になるのは想像に難くない。

 少なくとも俺だけで護衛する役目は一切無いと見るべきだ。代わりにハヌマーンの方は何時もと変わらぬ顔で挨拶をしてくれる。

 普通であれば緊張でもしている筈だが、今の彼に緊張のきの字も存在しない。完全に気を抜いている訳ではなく、緊張し過ぎている訳でも無いのは丁度良い塩梅だ。

 そのまま四人に加え、王宮の侍従達が別室へと案内する。俺達の暮らす部屋よりも大きな部屋には一台の楕円形のテーブルが置かれ、上には朝食が置かれていた。

 朝は重たい物を避け、用意された料理はパンとジャムにサラダだ。平民向けの朝食風景に王の気遣いを感じつつ、侍従に見られながら全てを食べきった。


「既に王様とパリオ公爵様が部屋がお待ちです。 王様からはゆっくりで構わないと言伝を承りましたが、いかがしますか?」


「勿論急がせてもらうよ。 僕達はただ甘える為に此処に来た訳じゃないからね」 


「かしこまりました」


 侍従の言葉にハヌマーンは軽く言葉を送る。その振舞いも実に堂々としていて、侍従の女の目が僅かに細くなった。

 その目に映る感情を見て、思わず舌打ちをしたくなる。

 今回の最低目標は挨拶をすることだけ。王も公爵もそれは承知している筈だが、早速手駒を送り込んでいる。

 もしかすればネリギス伯爵の手の者かもしれない。だが、そんな事実はどうでも良いのだ。

 誰であれ、俺達の事を調べ始めた。これからはこれまで以上に侍従の目にも気を配る必要が出てくるし、もし侍従の女が王の手駒だとすれば普段の振舞いも評価対象にされている可能性はある。

 もう既に何かは始まっているのだ。それがきっと俺達の予定を大きく狂わせるだろうと予測しつつ、用意された果実水で喉を潤わせた。

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