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半陰陽の魔女  作者: 青月クロエ
第八章 Burn the Witch
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Burn the Witch(19)

(1) 


 まただ。

 あの時と同じ。

 自分を庇ってイルマ達は犠牲になった。

 自分なんかのために――









「エヴァ様!しっかりしなさいよ!!」


 痩せた肩をきつく掴まれ、叱咤する声で一気に現実へと引き戻された。

 己の目線より少し高い位置から、大きく黒い双眸が強い眼差しで見据えている。


「とにかくまずは気を落ち着かせなさい。まともに話ができない状態では看守に見つかり次第、独房に押し込まれるのがオチよ」

「話……」

「そう、今、私に断片的に聞かせてくれた話を一刻も早く、看守長に――、ひいては軍部に伝えなきゃ」

「軍部……」

 軍部と耳にしたエヴァの眼に、憤怒と憎悪の炎が宿る。

「は!誰が軍人などに!!あいつらは何年、何十年経とうが、結局は我々を疑い、害すだけではないか!!奴らなど信用できん!!一切頼りたくないわ!!それよりも、半陰陽の魔女や南の魔女を……!」

「私だって軍人なんか大嫌いよ」


 鈴を転がしたように涼やかな、それでいて冷え切ったシュネーヴィトヘンの静かな声に、エヴァは口を閉ざした。


「ごく普通の娘だった私が魔女の嫌疑をかけられた時も、そのせいで両親が拷問されても、彼らは見て見ぬ振りをしたわ。私を救いだしてくれた()が私刑で廃人状態になっても彼の家族まで犠牲になっても知らぬ存ぜぬを通した。一時は英雄扱いする程持ち上げていた癖にね」


 当時抱いた国軍への深い怨恨を思い出し、シュネーヴィトヘンは吐き捨てるように語った。

 けれど、気を取り直すべく頭を軽く振り、込み上げる感情を鎮めた。


「……でも、だからと言って、全ての軍人を憎むのは違うと思うし、魔女というだけで忌避する者達と一緒になってしまう。確かに私達は相応の罪を犯しているから憎まれるのは仕方ないけど、大半は善良な者ばかり。それに……、私達がこうして生かされているのはギュルトナー元帥の温情によるものだし、少なくとも元帥を支持する軍人は私達魔女を決して害したりはしない」

「…………」

「だから、まずは刑務官に何が起きたのか、きちんと申告するの。いいわね??」

「…………」

「エヴァ様」

 

 聞き分けの悪い子供を諭している気分に陥りかけたところで、エヴァがようやく顔を上げる。

 同時に、シュネーヴィトヘンの手を乱暴に振り払った。


「……ふん、小娘が偉そうに。貴様に言われなくても、そうするさ!」


 エヴァの横暴な物言いに呆れ返りながら、シュネーヴィトヘンは廊下から近づいてくる足音(騒ぎに気付いて、看守が独房に向かってきているらしい)に耳をそばだてた。








(2)


 濃灰と漆黒が入り混じる空へ、黒煙がぶすぶすと音を立てて流れていく。

 辺り一面、夜闇よりも更に黒い焦土と化し、児童施設跡は焼け落ちて廃墟になり果てた。

『立ち入り禁止』の札もロープなどは形すらなく、辛うじて鉄杭だけは残されていた。

 炎の熱量で歪に変形し、原型を留めてはいなかったが。

 変形した鉄杭で囲われた地には四体の焼死体が転がっている。

 肌も髪も服も全て焼け焦げ、最早人の形をした炭でしかなかった。


 虹色の残光を纏わりつかせたまま、眼前に拡がる惨状。

 アストリッドは膝から崩れ落ち、固く握った拳を地へと振り下ろした。


「アストリッド。気持ちは分かるが、今は落胆している場合じゃないだろう」


 目に映る光景だけでなく、夜風に流され漂ってくる死臭混じりの焼け焦げた臭い。

 ウォルフィは渋面を浮かべてアストリッドに立ち上がるよう促した。

 アストリッドは無言で立ち上がり、唇を噛みながら焼死体が転がる場所まで足早に進んでいく。

 ウォルフィも彼女に従い、後に続いた。


 目を覆いたくなるのを堪え、遺体の確認を黙々と二人は行った。

 三体は確実に息絶えており、最後の一体――、この中で一番小柄な体格からして――

 震える手で、アストリッドがそっと抱き上げた時だった。


「…………ウォルフィ…………」

「何だ」

「…………まだ、微かに、息が……!……」


 ウォルフィが答えるよりも早く、アストリッドの両掌が濃黄色の強い光を放ち出す。

 濃黄色に包まれた真っ黒な人の形をしたモノの、今にも途切れそうだった呼吸が、少しずつ大きくなっていく。


(ロミーだって救えたのだから、今回だって……!)


 マリアやイザークが人を殺めれば殺めるだけ、苦しかった。

 だから――


 炭化しきった皮膚が、見る見る内に白磁の美しい肌へと戻っていく。

 右半身は元通りになった、次は左半身を――

 黒ずんだ肌が赤く再生されていき、やがて右と同じく白磁の――


「…………もう、いい――」


 弱々しい声と共に、翳していた両掌をそっと押し戻された。


「…………命は助かったんだ。見た目のことは、もういいんだ」

「いけません、ヘドウィグ様」

「いいと言っているだろう??これは、私の罰だと思えばいい」


 地に横たわったまま、半分は妖艶な美女の顔、もう半分は赤く焼け爛れた顔で――、ヘドウィグは自嘲気味に鼻で嗤った。









(3)


 虹色の輝きに向けてユリウスとクレヴィング少将は発砲した。

 しかし、弾は光の中を貫通することなく弾き返した。

 弾かれた弾は壁や床、窓へと飛んでいき、少将やユリウスが立つ場所にも飛んでくる。


「少将閣下!ここは自分に任せてお逃げください!!」


 ユリウスが叫ぶやいなや、その言葉を待っていたとばかりに少将は銃を下ろした。

 慌てて扉へと駆けていく背中を庇うため、ユリウスは扉の方向へと身体の向きを変える。


『おやおや、本当は見縊っている相手のために死ぬ気でいるとは!何と愚かな!!』

「黙れ!!」


 叔父譲りの端正な顔を歪め、ユリウスは薄まっていく光に更なる銃弾を撃ち込む。

 当然、弾はあえなく弾かれるばかり。


『上官を逃がすための時間稼ぎ、ですか。無駄ですねぇ!』

「ぎゃああぁぁぁ!!!!」

「少将閣下!!」


 扉を開け、廊下へと飛び出したクレヴィング少将の足元から炎が一気に噴き上がる。

 一瞬にして全身が紅蓮に飲み込まれ、耳を劈く悲鳴を叫ぶ上官をどうすることもできず。

 かつて経験したことのない、得体の知れない恐怖に駆られたユリウスの手から銃が滑り落ちていく。


「はっはっはっはっ!!この程度で怖気づくとは!上官と共に反乱を目論んでいた割りには随分と肝が小さいのですねぇ!!」


 光が完全に消失すると――、真っ赤な長髪を一つに束ね、古臭い型の燕尾服を纏う白塗り男が宙を浮遊していた。

 髪と同じく、真っ赤な瞳と唇を喜色に綻ばせて。


「おじ、叔父上……、否、元帥閣下の……」

「ギュルトナー元帥が同胞である魔女達を庇うための虚言――、だと思い込んでいたみたいですが。残念ながら、彼は貴方達が思うよりずっと現実主義者なのです。むしろ、貴方達の方が余程現実が見えていない理想主義者――、いいえ、理想とは到底言い難い、お花畑で稚拙な考えだったのですねぇ!!」

「黙れ!」


 前方からはイザークの高笑い、後方からは肉と脂が焼ける嫌な臭い。

 気が狂いそうだ。

 頭を抱えて崩れ落ちそうなるのを踏み止まり、イザークを睨み据える。

 イザークはどこ吹く風、と一向に気にすることなく、嗤い続けている。


 落とした銃を素早く拾い上げる。

無駄だと分かっていながら、銃口を向ける。

 しかし、いつの間にか握られていた赤銅色のワンズを一振りされた直後――、拳銃は炎に包まれた。

 今度こそ、ユリウスは腰が抜けて床にへたり込んだ。

 イザークはまだ嗤ったまま、彼の眼前へと降り立った。


「こ、殺すなら……」

「殺したりはしませんよ。貴方は」

「なっ?!」


 ユリウスの見開いていた青い目が固く閉ざされ、床へと倒れ込む。

 イザークが瞬間催眠魔法をかけたのだ。


「身内に厳罰を下さざるを得ない苦悩で苛まれる、ギュルトナー元帥の姿を見たいんですよねぇ、はははは」


 イザークは倒れたユリウスを一瞥すると執務机に近付き、受話器を手に取る。

 元帥府直通の番号を回し、呼び出し音が鳴るごとに歪んだ笑みは深まっていった。

これにて第八章「Burn the Witch」終了しました。

Burnされたのはリザではなく、エヴァとヘドウィグでした……。

二~三週間程お休みを頂いた後、最終章「Ray of Light」を開始しますので、どうか最後までお楽しみ頂ければ幸いです。

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