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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
美心(青年期)編Ⅰ
58/263

選択にて

 嵐山、古くから紅葉の名所として有名で誰もが一度は訪れたい京都観光地の一つである。

 今日はここで学級内の親睦を深めるレクリエーションが行われる。


(嵐山へは現地集合。ほとんどの生徒は武家や公家出身のため馬車で送迎をしてもらえる。俺はと言うと毎年、夜が明ける前に寮を出て徒歩と走りで嵐山へ向っていた。……だがそれも去年までの話だ。今年は違う!)


「美心ちゃん、あ―――ん」


「あ―――ん」


(んほぉぉぉ、うめぇぇぇ。さすが金持ちの作る飯は違うぜ)


 美心は今、最高に気分が良かった。

 公家である大久保が堀田の頼みを断れきれず4人乗りの大型馬車を用意し、それに乗って嵐山に向っている途中であった。


(げっへへへ、これ! これだよ、これ! やっぱ女子で学園モノと言えば同じ女子の友達とユリユリし日常生活を送る学園生活!)


 美心の行動はすべて前世で読んだラノベやアニメの設定が加わっている。

 設定のない行動など彼女にとっては不安材料でしか無いのだ。


「このお漬物、美味しぃ~! 美心ちゃん、料理も上手いんだぁ」


「堀田さんの卵焼きも美味しかったよ。甘くてお菓子みたいだった」


「もう、美心ちゃん。あたしのことは芽映って呼んでって言ったでしょ」


「芽映、さすがに平民に下の名を呼び捨てにさせるのは良くないって……」


「俺は本人が言っているなら構わないと思うがな。べ、別にお前のために言ったんじゃねぇからな!」


「あはは、快飛くんは相変わらずだねぇ。美心ちゃん、あたしがそう呼んで欲しいの。だから……ね」


「で、でも……」


 チラッチラッ


 美心はすべてが計算されたように頬を赤くさせ堀田の顔と残り2人のネームドキャラの顔を見る。


「め……芽映……ちゃん」


「はぁぁぁ、かぁいぃよぉぉぉ! 美心ちゃん美心ちゃん美心ちゃぁぁぁん!」


 ガバッ


「ちょっ! 芽ば……」


「ごほっごほん!」


 美心の計算された動作がすべて可愛く見えてしまった堀田は美心に抱きつき頬擦りをする。

 陽キャの得意なスキンシップで美心の表情もまただらしくなくなってしまった。

 大久保は顔を背けハンカチで何やら鼻をこすり、吉良は同じ場に居るのが気恥ずかしいようで頭を冷やすように車窓から見える景色を眺めている。

 その様子を見て美心は3人のキャラに設定をさらを加える。


(なるほど、陽キャパリピの堀田さんは百合展開も有りなキャラだな。吉良は相変わらずツンデレ設定から変わりなし……意外なのは大久保だな。ありゃ、女友達同士がユリユリしている展開を見て至福の時を感じるタイプだ。おそらく、今の堀田さんが俺に起こした行動が過激すぎて鼻血でも出してしまったのだろう)


 いくつかは当たって入るが当然のことながら美心の妄想に過ぎない点もある。

 特に大久保はそのような気は無く、ただ馬車の揺れによる乗り物酔いが襲ってきただけであった。

 しかし、美心の頭の中では約束された勝利の学園生活だけで満足できるはずがなく様々な計画が頭をよぎる。


(今だけでも十分幸せだが、やはり学園編には刺激が必要だ。まずは乙女ゲー主人公として5人+αの攻略キャラを誰でもいいから堕とし俺に告白させる! もちろん、俺は恋愛などしている暇はない。くくく、ただ面白そうだから堕とすだけだ! フラれるとも知らずに攻略キャラが起こすイベントを俺は満喫し楽しむとしよう。だが、俺もうかうかはしていられない。事実として攻略キャラは全員、俺から見ても魅力的だ。普通の生活を送るのなら玉の輿は確定だろう。油断してかかると俺のほうが堕とされてしまうかもしれない。俺が恋に堕ちてしまえば負け。攻略キャラを全員、俺が堕とせば俺の勝ち。そうだ、告白することは≒相手に従属しますというサインだとあの某人気コミックでは言っていた! 恋愛は常に心理戦なのだ!)


 すでに悪女プレイをしていることは自覚していない美心の脳内では下衆な妄想が溢れること無く湧き出てくる。

 数十分後、嵐山に到着した美心達の班は集合場所である松尾大社境内へ足を運ぶ。


「あ、美心さん。昨日の約束は覚えているかい? 自由時間はぜひ、私と二人きりで……」


「こらっ、何を決まったことにしていやがる? 美心、俺と一緒に行くよな?」


 境内に到着すると早々に勧修寺と保科が美心に声をかける。

 露骨に嫌そうな表情が出てしまいそうになるが、すぐに演技状態へ入り困った顔を堀田達に向ける。


「で、でも……」


 堀田は吉良の耳に顔を近付けて何やら話している。

 

「快飛くんも誘わないのぉ? ほらほら、ライバルはグイグイいっちゃってるよ」


「お、俺は別にそんな気は……けど……」


 吉良が勧修寺達2人と美心の間に入り、美心に話しかける。


「美心、せっかく一緒になった同じ班だ。お……お……お……」


「ほらほら、頑張れ」


 堀田は陰ながら美心と吉良がくっつくことを期待しているのだろうか。

 それともただ陽キャ体質である以上、恋愛事に首を突っ込むのが好きなだけなのか美心は判断に迷う。

 そして、勇気を出した吉良が口にする言葉は……。


「俺達と一緒に……自由時間も俺達の班で行動しないか?」


「あちゃ―――」


「くすくす」


 ツンデレキャラが大勢の見守る中で告白同然のことなど話すのは至難の業である。

 だが、美心にとってその提案は満足の行く内容であった。


(今日のオリエンテーションで唯一の懸念材料だった自由行動時間……まだ堀田さんと一緒に周る約束は出来ていなかった。本当は2人きりでもしくは大久保を混ぜた3人でキャッキャウフフしながら嵐山を歩きたい! しかし、ここで吉良の提案を断ることは二人きりで歩きたいという俺の希望を断るも同然! そうなると下半身魔神の男子2人のどちらかと歩くデートイベントが始まるだろう。どうする……女子3人が居れば百合展開が期待できるかもしれないルートを取るか、乙女ゲー主人公のようにデートイベントを取るか)


 美心は究極?な選択画面に脳内でカーソルを上下に揺らす。

 百合展開が期待できるかもしれないルートか、デートイベントが起きるルートか。

 だが、妙な違和感が拭えないのもまた事実であった。

 美心は脳内で必死に乙女ゲーで起こりそうな展開を思い描く。

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