2、朝食①
もっと愛を抱き合っていたかったけど、お互い仕事の時間がまずいところまで迫ってきてしまっていたため、しぶしぶ起き上がることにした。
どうして私には時間を止めるような異能が覚醒めないのだろうか。そうすれば時間に縛られるなんてことはないのに。
いや、時間を止めちゃったら蒼太まで動けなくなっちゃうか。両思いな今、そこに優越感なんてものはなくて、悲しみしか生まれないし、
……もし昔の私だったら喜んで乱用していただろうけどね。覚醒めなくてよかったわ。
「あ、起きてきたね。今日は時間がないから簡単に済ましちゃおうか」
少しだけ早く下に降りて行った蒼太は、ワイシャツに紺のエプロンという格好だった。この姿は私の好きな蒼太ファッションの一つであり、朝の目覚めを促す最高の眠気覚ましになってくれた。
欠点と言えば、私の中の感情が爆発して朝っぱらから暴走しかねない、ということだろう。まったく、恐るべきかっこよさね、私を萌え殺したいのかしら。
キッチンに入る前にテーブルを一瞥すると、ベーコンエッグとサラダ、トーストされた食パンが二人分並べてあった。あの短時間でそこまで用意できれば十分だと思うけど、蒼太としてはこれでも簡単らしい。
まあいつもはかなりしっかりしたメニューだから、確かに簡単なのかもしれないけど。
「蒼太も今日はコーヒーでいい?」
「うん、牛乳を少し多めにいれてくれる?」
「了解!」
戸棚からいつものインスタントコーヒーの粉が入った瓶を取り出し、冷蔵庫からは常備している『産地直送!おいしい牛乳』を取り出す。
蒼太は普段は緑茶派だけど、パンの日はいつもわたしと同じくコーヒーを飲むことが多い。
私と違ってブラックコーヒーは飲めないからいつもミルクを入れてから飲んでいる。子供っぽいなんて思わないけど、クールな見た目とのギャップが私には可愛く思えて仕方なかった。
前に少し無理やりにブラックコーヒーを飲ませたらものすごく苦そうな顔をしていた。慌てて水やらココアやら口直しになるものをあげたけど、内心私はその様子を可愛いと感じてしまっていた。
わたしにSの気はなかったはずだが……蒼太のこととなると性癖も変化してしまうようだ。
しかしやはり蒼太を苛めるのは私の心が拒絶する。今後も無理に蒼太に自分の好きなものを押し付けるのはやめておくとしよう。
―――などと考えつつ、わたしは二人分のコーヒーをカップに入れ、テーブルに置いた。茶色と黒の液体は置かれた振動でゆらゆらと揺れ、水面に映っていた私の顔を歪める。そこに映る私の顔はだらしなくニヤけているが、今の私がそんな顔をしているわけはない。
まったく、いくら波紋のせいとはいえ、蒼太の前でこんなにだらしない顔を晒すなんて、コーヒーもなかなかにいやらしいことをしてくれる。
確かに、私は頭の中では蒼太のことで妄想しまくって、いつもニヤけそうになるけれど、鍛え上げたポーカーフェイスによってそんなものは表情に出ないようにしている。だというのにこうしてニヤけているように見えるなど、まったくもって心外だ!
「あれ、どうしたの香鈴?なにか嬉しいことでもあったの?」
「ふえ?」
先にテーブルについていた蒼太が、わたしの顔を覗き込みながら不思議そうにそう訊ねてきた。
それに驚いた私は間の抜けた声を上げてしまった。
「あ、いや、なんかものすごくニヤついていたからさ。何か嬉しいことでもあったのかなと思ってね」
「えぇ!?」
慌てて自分の頬を触ってみる。
するとどうだろうか。わたしの口角は恐ろしいほど釣りあがり、鏡を見なくてもだらしない弧を描いていることがわかる。
……どうやら水面に映っていたのは、波紋によってニヤけているように見えるわたしの顔……ではなく、ただ単にニヤけているわたしの顔だったようだ。
むぅ……家の中だと安心しきってしまうみたいね。これじゃあ自慢のポーカーフェイスもまったく効き目無しだわ。
本当は蒼太にはあんまりだらしない自分を見られたくないのだけど……なんだか蒼太は私のこの顔を見て嬉しそうにしているようだから良しとすることにした。
「そうね、もう夫婦になったんだし、あえて何も隠さずにっていうのも悪くないのかも……」
「え?ごめん、何か言った?」
「別にぃ?えへへ……」
「そうかい?ははっ、それならいいのか」
「いいのですよぉ♪」
私は蒼太の隣に座り、ぎゅっとその腕に抱きついた。Yシャツ越しに伝わる蒼太の体温が、興奮と安心をもたらし、矛盾にした感情が私の中で暴れまわった。
わたしたちの家での食事は、絶対に対面同士にはならない。対面同士に座ると食べさせ合いがしやすくて良い、顔がしっかりと見れて会話が弾みやすい、というふうに考える人は多いが……やはり私はこうして隣同士に座るのが一番好きだ。
なぜならば……
「まったく、香鈴は今日も甘えん坊だな」
「蒼太こそ、私の体、しっかりと堪能してるじゃない」
こうしてお互いに密着しながら食事ができるからだ。
私は蒼太の暖かさや香りを、蒼太は私の柔らかさや温もりを感じながら食事をする。
これがもはや日課であり、これをしないと私たちの一日は始まらないし終わらない。
「ほら香鈴、頬にパンくずがついてるよ?」
「舐めて取って!」
「……仕方ないなぁ」
こうして私たちの朝食は済まされる。
修正などまったくしていないので、どっかどっかに誤字・脱字があるかもしれません。後日修正を掛けるつもりなので、どうかご容赦くださいまし!
感想・評価、【東方 自然癒】をプレイしつつ待ってます!
葉ちゃん可愛いすぎです!




