超常の戦い
~非通知情報記録域~~~~~~~~~~~
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>>侵されし硝土の焔鬼、ラメルガが〖縄張り〗を発動しました。
>>〖制圏:焦土-混沌〗が森鎖す者、ドワゾフの〖制圏:樹海〗と接触しました。
>>界鬩現象が発生しました。
>>〖制圏:焦土-混沌〗が支配権を一部、強奪しました。
>>環境特性が変動しました。
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──ォォォンッ!!
爆弾が耳元で爆発したかのような轟音が、強烈な衝撃と共に聞こえた。
オレが人間であれば、あまりの大音量に聴覚がイカれてたかもしれねぇ。
「(な、にが、起きた……!?)」
真っ赤な光が見えた次の瞬間には吹き飛んでいた。
高速回転する視界からどうにか情報を拾い集める。
オレは、宙に居た。
どうもさっきの衝撃でオレは空に打ち上げられたみてぇだ。
「(あいつらが、やりやがったのか)」
上空から見下ろす森には、二体の巨大な魔獣が居た。
どちらも木々を突き破るサイズであり、しかしその巨体と不釣り合いな俊敏さで目にも留まらぬ攻防を繰り広げている。
けれど、一際に目を引くのは奴らよりも森の様相だ。
森の一部が赤々と炎上しているのだ。
多分、原因は巨大魔獣の片割れだろう。
そいつは火炎を纏う四本腕の赤鬼で、奴の居場所を中心に炎上は広がっている。
だが不可解なことに、燃えて灰になるはずの植物達は依然、青々とした葉を茂らせていた。
炎の隙間から時折緑の葉っぱが覗いているのだ。
それに、今この瞬間にも枝を伸ばし幹を太らせ成長しているようにも見える。
そのことに疑問を覚えたところで墜落を開始。
森に突っ込み枝をへし折りながらオレは着地した。
斜めに吹き飛ばされたので、巨大魔獣達の戦場からはそこそこ離れている。
そのはずだったんだが──
「ゲガァァァっ!」
──眼前の木々を薙ぎ倒し、赤鬼が勢いよく転がって来た。
〖スキル〗の効果だろう、同時に周辺の木々が燃え始めた。
「ギルシュァァッ」
赤鬼によってできた道を凄まじい勢いで駆け、もう一体も現れる。
その魔獣を一言で表すならば、森を背負った亀だった。
踏みしめる度に大地を揺らす屈強な四足。背の甲羅には無数の樹木。
ただし、顔だけは亀とは異なっている。長い首に大振りな歯牙、細長い瞳孔とまるで竜のようだ。
額から項にかけノコギリの刃のような角が並んでいる。
「ゲググググゥッ」
森亀が追撃を仕掛けるより早く、赤鬼が気炎を吐いて立ち上がった。
全体的には寸胴体型の赤鬼だが、その体からだらしなさは一切感じない。
むしろその逆。
炎の隙間から垣間見える肉体は筋肉でぎっしり覆われており、彼の力の強大さが伝わって来る。
額の角の横には、何故か植物の芽のような物が生えていたが。
「ゲグァァッ」
赤鬼は拳を地面に振り下ろす。
拳から炎が地中に注がれて行った。
何らかの〖スキル〗を使ったのだろう。赤熱した土は瞬く間に溶解と凝固を経る。
そして赤鬼が拳を引き抜くと、そこには巨大な棍棒が。
棍棒は焼け焦げたように真っ黒で、しかしどこか硝子に似た輝きを宿す。
〖スキル〗で作製した棍棒に、赤鬼は自身が纏っているのと同質の炎を纏わせた。
「ゲゲッ」
「グリュリュッ」
準備は整ったとばかりに棍棒片手に殴りかかる赤鬼。
森亀は甲羅の森から蔓を幾本か伸ばし、凄絶な速度で振るって迎撃した。
建築物サイズの森亀の振るう蔓は、細木の幹くらいの太さがある。
蔓の姿が霞む度に鋭い炸裂音が響き、赤鬼の体が仰け反る。
赤鬼も棍棒を残像の見える速度で振るっているが、攻撃も防御も追い付いていないようだった。
戦闘の趨勢を反映するかのように、段々と炎上の範囲が狭まり、森はどんどん活気づく。
攻撃の余波で吹き飛ばされた植物が気付けば復活している。
苦境を打開すべく、赤鬼が新たな手を打った。
その姿が掻き消え、かと思えば森亀の背後に現れた。
遅れて聞こえた爆発音から察するに、爆炎を自身に当てて高速移動したのだろう。
赤鬼は森亀の右後ろ脚を狙って棍棒を振り被り、直後、尻尾に薙ぎ払われた。
亀の尻尾は短いイメージだが、森亀のそれはかなり長く、攻撃にも使えたらしい。
赤鬼は一撃で十メートル以上も後退させられ、風圧だけで付近の木々が傾いた。
お返しとばかりに赤鬼は熱風を飛ばす。
それを防いだのは、森亀の前方に突如現れた若木達だった。まだ苗木くらいの大きさだったのが、森亀の力で急成長したのか。
木ではあるが、炎にも耐え切る若木達。
ばかりか、根っこを伸ばして赤鬼の脇腹を突き刺してしまった。
森を焼く火勢が弱まり、緑はますます生い茂る。
「(これが、魔獣の王の力……!)」
かつて、物知りなスラ爺から聞いたことがある。魔獣の王は世界を操る力を持つと。
きっとこれがそうなのだ。
世界と世界のせめぎ合い。環境条件の争奪戦。
余波で周辺環境をも変えてしまえる力だ。
「(…………──)」
そんな筆舌に尽くし難い激闘の、その戦場の片隅で。オレは〖ブロック〗を発動しながら震えていた。
逃げ出そうともせず。ただ佇んで、震えていた。
~非通知情報記録域~~~~~~~~~~~
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>>不破勝鋼矢(ジュエルスライム)が〖スキル:不退転〗を獲得しました。
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「(──スゲェ……ッ!)」
──こんな力を振るえるなんて、スゴすぎる!
オレは唯々、感動に打ち震えていた。
こんな絶大な能力を持つ生物が存在しているという事実に。
そして、その神話の如き戦いを間近で見られているという奇跡に。
憧憬が胸に溢れて止まらない。
この光景をずっと見ていたいという衝動が、逃走という合理的選択を妨げる。
「ゲェェゴォォオオッ!」
「グゥルルルルリュゥゥ……!」
だが、そんなオレの意思とは無関係に、戦闘は最終局面に入った。
体に纏っていた炎も含め、自身の扱える全ての炎を棍棒に注ぎ込んで行く赤鬼。
炎の色は赤を越え、目も眩む白に輝いていた。
対し、森亀は顎を開き、口の前に光球を浮かべて〖マナ〗を収束させている。
〖マナ〗の高まりに比例して周囲の木々から生命力が失われて行くが、すぐさま森亀の〖スキル〗によって命を吹き返す。
そうして生い茂ったところで再度、生命力を徴収。〖マナ〗の強大さが一段階も二段階も上がった。
──互いに、必殺の一撃を完成させる。
~非通知情報記録域~~~~~~~~~~~
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>>侵されし硝土の焔鬼、ラメルガが〖鬼炎爆棍撃〗を発動しました。
>>森鎖す者、ドワゾフが〖森林の怒り〗を発動しました。
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規格外の〖マナ〗を宿す光球が新緑の光線を放ち、白く輝く棍棒がそれを真正面から打ち据えた。
絶大な衝撃波が吹き荒れ、周囲の木々が吹き飛んで行く。
光線と棍棒の激突、拮抗の末に──最後に打ち勝ったのは光線であった。
棍棒を破壊した光線はそのまま赤鬼の肉体を貫通し、森の奥の奥まで突き抜けて行く。
腹部から胸部にかけて大きな穴を穿たれた赤鬼は、しかしそれでも一歩、森亀に向かって歩を進め、二歩目を踏み出す前に膝を折った。
彼の死は火を見るよりも明らかだ。
赤鬼の死と同時。爆心地周辺に緑が芽吹き出す。
死闘の中にあっても燃えず、散らされず、赤鬼の額から生えていた小さな芽は枯れたが、そのような些細なことはどうでもいい。
オレは、用は済んだとばかりに帰って行く森亀の後姿に見入っていた。
(──いつかはオレも、あんな風に……!)
叫ぶ勇気は無かったが、心の中で決意した。
そうすれば狩られる心配がなくなるとか、古い仲間を見返せるとか、そんなことは関係ない。ただただ純粋に、感じたままに心に決めた。
〖レベル〗を上げて〖進化〗して、いつの日かオレも、彼らのように成りたい。
いや、成ってやる……!
~非通知情報記録域~~~~~~~~~~~
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>>不破勝鋼矢(ジュエルスライム)が〖スキル:愚行〗の取得条件を達成しました。
>>不破勝鋼矢(ジュエルスライム)の情動が閾値を超過しました。
>>【ユニークスキル】が共鳴しました。
>>【心化】が発生しました。
>>【収穫最】が【肥大地雷】に昇華しました。
>>解析結果を〖ステータス〗に追加しました。
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