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【中里雪菜視点】レコーディング

「それじゃあ、ちょっと早いけど今日の配信はこれで終わりますー。おつゆきー! とうっ!」




私はそう言うと機械を操作してエンディングを流した。



ナナイロに入ってから、オープニング用の動画はもらっていたが、最近はエンディング用の動画も作ってもらいそれを流して配信を終了するようにしている。



私はエンディングが流れ終わるのを待って配信を閉じた。


暫くすると部屋がノックされたので返事をすると彩春が部屋に入ってきた。




「私いつでもいけるよー!」


「彩春ごめんね忙しいときにー」


「全然大丈夫!」




私も急いで外出の準備をして彩春と外に出た。




「もう寒いねぇ」


「そだねー。てか、おねーちゃんカラオケいつぶりー?」


「中学以来かな…」



10月の中頃から本格的にボイトレを組み込んでもらい、歌の練習をしてきた。


学校が都心じゃないので、結構タイトスケジュールとなり、ここ最近はずっと忙しかった。



まりんさんと2人でマリンスノーとして、クリスマス前に歌ってみたを出すためだ。


ボイトレを始めて、元々大きな声で喋らないので声量を出すのに相当苦労しているが、音感はそれなりにあったみたいで、レコーディングなら大丈夫だろうと言われている。



いよいよ明後日そのレコーディングで、本番前の最後の練習にと思って今日は彩春にカラオケに付き合ってもらうことにしていたのだ。




「しかしついにおねーちゃんが歌を出すのか―」


「歌を出すっていうか、カラオケだけどね」


「でもちゃんとしたスタジオで録音するんでしょ?」


「そうだねぇ」


「でもおねーちゃんいっぱい練習してるもんね! ボイトレなんて本物の歌手みたい!」




彩春は私の横で、まるで自分の事のようにニコニコして喜んでくれている。




「彩春つきあってくれてありがとね」


「ぜーんぜんいいよ! タダでカラオケできるし!」


「それは任せて!」




最近では登録者が30万人を超えていて、まだ伸びている。


大分収益もあがっているようで、高校生にしてはってか普通の社会人としてでも、そこそこもらってるぐらいの、収入があるようになった。


お父さんは「いよいよやばい…」と言っていたが、私自身は特に実感もないので、こうしてたまに彩春にご馳走したり、奢ってあげたりするぐらいだ。




カラオケに入り、彩春が受付をして、言われた部屋に入ると、彩春が慣れた手つきでタッチパネルで曲選ぶ。




「さ…最近はそんな感じなんだね……」


「おねーちゃん……おじさんみたい…」


「いやだって…全然行く機会ないからさ……」


「まぁ配信頑張ってるのは知ってるけど、もう少し高校生がやることもやったらーー」


「んーーーー、まぁもう卒業だし!」


「おねーちゃん卒業したらどうするの?」


「このままバーチャル配信者専業かなぁ……」


「ええ、他に選択肢あるの?」


「あ、いや、そういうことじゃなくて、普通に日向ゆきはをやるんだけどさ!」


「えー、じゃあどういうことー?」


「えっと…いつか顔出し配信やってもいいかなーとか……」


「えええええええ? どうしたの? あんなに嫌がってたのに!」


「あ、いや、バーチャルやってるし逆に難しいことはわかってるから、その予定もないんだけどね…」


「そりゃそうだろうけど…」


「いやさ、文化祭の時のりのあちゃん見てたらさ、りのあちゃんだけど私の真似してくれてたじゃん? だから、なんか悪くないのかもなぁ……なんて……」


「……まじで?」


「いやでも! 日向ゆきはだからさ! もしそういうことがあってもって…」


「いやーーーー、まぁどうやってやるのかとかはわからないけど、あの、おねーちゃんがそう思えたってことはいいことだね!」


「そ、そうかな?」


「そうだよー! 前はバーチャルじゃないと! みたいな感じだったのにー。あー、文化祭頑張ってよかった!」


「いろはありがとね! とりあえずは、日向ゆきはをもっと頑張る為に練習しないと!」


「よーし、んじゃ指定曲いれるよ!」


「あ、え、いや、最初はいろはが…」


「もーーーしょうがないなー! そしたら私が歌う間に心の準備してねー!」


「う、うん…」




そう言うと、彩春は慣れた感じで曲を入れて、マイクを持って歌いだした。



そして私もまりんさんと歌う予定の曲をいれて練習する。


そしてもう一曲。


どうせならこれまで支えてくれた視聴者さんにも何かと思い、単独でクリスマスソングも一緒にレコーディングしてもらう予定だ。


太田さんには、複数人で歌った方が再生数稼げるよとは言われているが、これはもうあくまでお礼だ。


レコーディング費用を自分で出してもいいと思ってたぐらいだ。


流石にそれはと太田さんに断られたが…。







そしてついにレコーディングの日となった。




今日は休みなのでお昼前から配信をして、夕方に私は指定されたレコーディングスタジオへ向かった。




「よ、よろしくおねがいします!」




私はスタジオに入り、太田さん含めロビーにいる大人の人に向かって挨拶した。




「あ、よろしくねー! こちら日向ゆきはさんです!」




と太田さんが言うので私はペコっと挨拶をした。


すると奥から女の人が近づいてきて、




「まりんだよ! よろしくね!」




と私に言った。


おお、まりんさんの中の人。


私より少し年上な感じで、可愛らしい感じの人だ。




「まりんさんはレコーディング慣れてますが、ゆきはさんは今日が初めてなので皆さんよろしくお願いしますねー。さ、まりんさんゆきはさん行きましょう!」




太田さんがそう言って私とまりんさんの手を引く。




そしてその後、何回かリテイクをしつつも、ボイトレで習ったハモリなんかもできて、無事マリンスノーの収録を終えた。




「まりんさんゆきはさんお疲れさまー」


「あ、お疲れ様です」


「お疲れ様でーす!」




太田さんがレコーディングの部屋の中に入ってきた。




「二人結構いいよ! いい感じになりそう!」


「ふぅ…それならよかったですぅ」




と私は心臓を押さえて胸をなでおろした。




「いやー、二人で歌うの初めてだったけど楽しかった! てかゆきはちゃんうまいね!」


「練習しましたぁ」


「そして太田さんから聞いてはいたけど、スーパー美人なうえに…」




そう言うとまりんさんは私の後ろに回って、胸を揉みっとした。




「きゃっ!」


「スタイルまで抜群と…。なぜバーチャルなんだぁぁぁ!」


「も、もうまりんさんー。やめてくださいー」


「あはは。ゆきはさんは、個人でバーチャルやってたぐらいだからねぇ。バーチャル人間だよ(笑)」


「いいなぁ私も美人に生まれ変わりたいー」




太田さんとまりんさんはそんな風に話してた。


まりんさんは登録者100万人以上の、超大物バーチャル配信者だけど、やっぱり普通の女の人なんだなぁと改めてその光景を見て思った。





「さて、今日はこの後ゆきはさんからのお願いで、ゆきはさんの視聴者さん向けのクリスマスソング撮るからまりんさんは出てねー」


「あ、そうなんだ? 聞いてっていい?」


「あ、はい、大丈夫ですよ」




そういうと太田さんとまりんさんはスタジオから出ていき、私はもう一度レコーディングスポットに立った。



「はい、では準備が出来たら手をあげて下さーい」




私は二度ほど深呼吸をして左手をあげた。


そしてガラスの向こうから、指で合図され、耳にしたヘッドホンから前奏が流れ出した。


私は視聴者さんへの想いを込めたクリスマスソングを歌った。













「We wish you a Merry Christmas~

     We wish you a Merry Christmas~

        We wish you a Merry Christmas~

       And a happy New Year~~」


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