俺っていったい誰
そして次の日から、田原君達と詳細をLimeでやりとりして、とりあえずどれぐらい集まるかわからないから、一旦アークのOPEX講座で告知をしてみようということになった。
田原君のお父さんは田原君に教えられて、現在目下OPEXパンの各種試作を進めているらしい。
グレネードカレーパン
手裏剣麻婆パン
力士のドームシールドクリームパン
等々色々準備しているようだ。
有料で販売するので、一応商業利用になるから、ダメもとでOPEXの運営元に試作パンの画像と共に販売していいか確認の連絡を、田原君にしてもらった。
とはいっても英語なので俺が文章全部書いたんだけど。
返事はどうせ返ってこないだろうと思っていたので、最悪後で怒られるかもということを田原君に伝えたらドンとこいと言っていた。
まぁ、1パン屋さん相手にそんな大層なことしてくるとは思わないけど。
しかし、1週間ぐらいでなんと返事が返ってきた。
要約すると、「1日の限定販売ならOK! むしろ日本でもっとOPEXを話題にしてくれ!アークにもよろしく!」こんな感じだ…。
この連絡に返事するならチーターなんとかしてくれよ運営よ……。
怒られる心配もなくなったので、もし結構反響があるようだったら、パンをセットにしてセットを購入してくれた人は勝負できるみたいな仕組みにすることになった。
莉乃愛の方は、「現役jk wiwi読者モデルRinoとスーツのイケメンが接客するくじ引き屋」として、一足先に告知が始まった。
スーツのイケメン部分は最初はホストになっていたのだが、直ぐに担任の先生から指摘が入ってスーツのイケメンに変更されたらしい。
準備画像やスーツの出来上がる様子、ときおり挟む莉乃愛の写真等、SNSの運用が非常に上手く、じわじわと女子高生のSNSで拡散されていった。
そして今日がアークのイベント参加告知開始日だ。
予め田原君が準備した、ベーカリーTAHARAイベント特別SNSアカウントで告知をし、本当だよと言う為に、俺がアーク公式のアカウントで引用することになっている。
そして投稿された内容は、
『人気沸騰中のOPEX実況者アーク! ベーカリーTAHARAの商店街イベント会場で特別オンラインOPEX講座を開催! 詳細は画像を参照!』
と記載されており、俺はそれを引用して、
『リアル知人にお願いされ、今回だけ特別に参加することになりました。よろしくお願いいたします』
と投稿した。
とりあえず仕事をやり終えたので、俺はいつも通りソロ配信を行うと、配信中にSNSの投稿内容を見たのか、
『アーク、イベント出るのか?』
『え、話せるの?』
『どれぐらい人はいれるの?』
等々色々コメントが来てしまったので、とりあえず詳細はまだ決まっていない旨視聴者さんには伝え、その日は短めで配信を終わらせた。
田原君に連絡しておかなくちゃ。
俺はそう思い、スマホを見ると、田原君達から凄い量のメッセージが来ていた。
『やばい、店の電話が止まらない』
『コメントで質問がめっちゃ来てる』
『これ俺だけじゃ無理だ。クラスのやつにも手伝ってもらうわ…』
と、俺が呑気に配信をしている間に、グループチャットはてんやわんやしているようだ。
『田原君。さっき配信したんだけど、質問が結構コメントされちゃったから、ベーカリーTAHARAのSNSで聞いてくれって言っていい?』
『それでいい!! あ、でも次でいいから店に電話はしないでくれと伝えてくれ! おかんがテンパってる!』
『ご、ごめん。アークのSNSでもそう発信するね』
『感謝!』
そして一気にSNSで拡散され、ベーカリーTAHARAのアカウントは一気に大混乱となった。
すると華蓮さんが、
『しゃーないなー。恵たち呼ぶからSNSこっちで運用してあげるよ』
『感謝しかない!』
こうして、ベーカリーTAHARAの今年のイベント出店の目玉イベント、アークのOPEX講座は、莉乃愛のクラスの子達が全面的に協力することになった。
やっぱり安請け合いしてしまったようだ…。
もう次回からは絶対やらない。
アークはもう有名人なんだ。
アークはもう俺の知ってるアークじゃないんだ。
今まで通り軽く考えて動くと、ことが大きくなってしまう。
そのことを肝に銘じよう。
俺っていったい誰なんだろう……。
そしてその週の週末、
「というわけで幼馴染くんよ。やばいことになってるから、講座参加希望者を試しにSNSやつらに言って聞いてもらったわけ」
と俺のデスクの上に置かれた莉乃愛のスマホから田原君が話す。
「うん」
「現時点までで200人越え」
「…」
「流石にやばいってなって、親父が商店街の会長さんに相談したら、そのイベントだけホール使わせてくれるって。菅谷達ミスコン発表の終わった後。いつもより集客できそうだから商店街の人達も張り切ってるらしい」
「そうなんだね…ちょっと俺も予想以上でびっくりしてる」
「んで、勝負の方のセットパンの販売も告知したら、そっちの希望者が80超えてる」
「それは現実的に無理だね…」
「だよなぁ。先着にするしかねーかぁ」
「んー、チームにしてさばける人数増やす?」
「おー確かに。それありだが、そっちはチーム組めるのか?」
「んー…最悪田原君達とか?」
「人様に見せれるようなレベル感じゃねーんだがーー! しかも最近家帰ってきたら、パンの試作に付き合わされててまともにゲーム触ってねぇ!」
「んーまぁ無理かもしれないけど、ちょっと聞いてみるよそしたら」
「頼むわ!」
「最悪一人でやる場合は、先着順で10人ぐらいまで絞ってもらえると嬉しい」
「了解! あ、あと、当日司会が必要そうだから、それは俺と三好でやるから!」
田原君がそういうと華蓮さんの声が聞こえてきた。
「司会の三好華蓮でーす! よろしくね!」
すると莉乃愛が、
「なんか楽しそーーー! わたしもなんかやりたい!」
「いや、菅谷は1年の方あるだろうが…あっちも大変らしいじゃねーか…」
「あーうん、らしいね(笑)」
莉乃愛の方は、アークみたいな瞬発力はなかったものの、じわじわと女子高生に拡散されていき、現役wiwiモデルと写真が撮れて、更にSNS投稿可ということを追加告知したところ大反響になったらしい。
皆写真撮りたいもんなんだな…。
当日会場に持ち込むパソコンの準備をどうするか等細かい打合せをしてグループ通話は終わった。
「ねーねーあっくん」
「どうしたの?」
「なんかさ、このイベントでさ皆忙しくなってるけどさ、クリスマスもあるよ?」
「そうだね…」
「やっぱりさクリスマスはさプレゼントがさ必要じゃない…?」
莉乃愛はチラッと上目遣いで言った。
「そ、そうかな…」
「皆イベントで忙しいからさ、プレゼント交換とかだけやろうよ!」
「えぇ…」
「男子チームと女子チームでそれぞれお互いに!」
「男子チームとは?」
「あっくんと直人。女子は、わたしと雪菜と華蓮と彩春ちゃんと茜ちゃん!」
「あぁ、海のメンバーね」
「そう!」
「男子チームから、女子それぞれにってこと?」
「そう! 一人ひとりだと数多くなりすぎるから!」
なるほど。
それだったら今までかつてプレゼントなんて買ったことも選んだこともない俺でも、直人に聞けばなんとかなりそうだ。
「お願いだよー。わたしお母さんが体調悪くなった、小学校高学年辺りからクリスマスらしいことやってないんだよぉ」
と、お願い! みたいな感じで莉乃愛は両手を合わせてる。
「ま、まぁそれなら…」
「イエーイ! みんなに伝えておく!」
「う、うん…」
莉乃愛はそういうとテーブルからスマホを取って部屋から出ていった。
とりあえず来週直人に学校で相談しよう…。
俺はそんなことを思いながらネットを開いた。
しかしチームを組むとなると…今の状況だと一番喜ばれるのはマリンスノーの箱舟だろう。
ただ、ナナイロに所属しているまりんさんとゆきはさんは100%無理だろう。
だってgoodさんがまりんさん呼ぶなら数百万かかるって言ってたもん…。
マリンスノーの箱舟の反響はまだ続いており、3人のイメージ絵みたいなのもいくつも投稿された。
それの影響もあってか、ゆきはさんはまりんさんと一緒にゲームをやる機会も増えて、マリンスノー配信と呼ばれているようだ。
でも、ゆきはさんも引き続きOPEXの練習は頑張っているようで、プラチナのランクでも少しずついい順位がとれている。
登録者も、先日ついに30万人を突破し、まだ増えている。
本当にすごい。
雪菜さんの演じる日向ゆきはは、雪菜さんが元声優とか元アイドルとかじゃないので、いい意味で素人感も残っており、しゃべり方も丁寧なので、ゆきはさんってどんな子っていうイメージがしやすい。
しかも、高校に行っている事とかも公表しているので、それも相まって、日向ゆきはが高校に通っているみたいな雰囲気になっており、非常になんだかリアリティがあるのだ…。
ただ、今度まりんさんと歌ってみたを出すらしく、最近はどうもボイトレを日常に組み込んでいるようで、相当忙しいようだ。
そりゃそうだよな…。
学校終わってから都心に移動してボイトレして帰って配信して、次の日朝から学校だもんな…。
でも、そんな一生懸命な雪菜さんのやるゆきはさんだからこそ、視聴者さんが応援したくなる気持ちはわかる。
チームどうするか考えなきゃいけないんだけどな…。
そんなことを思いつつ、俺は最近のマリンスノーの配信アーカイブを見だした。




