【菅谷莉乃愛視点】正直わからない
「菅谷ー、お前ミスコン1位だったから、1年生がやる12月の商店街でやるイベントにも同じように出ることになってるからなー」
文化祭の次の週の放課後、帰ろうとしたら先生に言われた。
「は? どゆこと?」
「いや、言っただろ。ミスコンの1位は毎年商店街のイベントに出るんだって」
「そうだっけ?」
わたしは周りを見渡すが、全員ぽかんとしている。
「そういうわけだから、5組の神原も出るから、まぁミスコンの時と同じ感じでやってくれ」
「りょー」
そういうと先生は出ていった。
「そうだっけ?」
私は横に座る華蓮に聞くと、
「さー? でも、そうだって言うんならそうなんじゃない?」
「まぁいっか。また、雪菜に服借りなきゃじゃーん。てか、1年の商店街のイベントってなんだっけ?」
私がそういうと田原が話しかけてきた。
「あれだ。俺ら手錠で輪投げやろうとして、お前らにミニスカポリスの制服着せて立たせたら、開店10分で止められたやつだ」
「あーーーー……」
確かにそんなこともあった。
1年の時に、高校生になって成長した姿をご両親に見せる機会、かつ2年の文化祭の模擬店の練習ということで、毎年1年生が商店街のイベントにちょっとした模擬店みたいなのを出すんだ。
文化祭と違って、飲食関連は地元のお店が出すので、基本的に輪投げや塗り絵みたいな子ども向けのレクリエーションがメインだ。
私達はその頃から今みたいな感じだったので、もちろん勝利を目指し考えたのだ。
勝ち負けとかなかったような気はするが…。
その結果ミニスカポリスの店員さんから手錠をもらい、その手錠で輪投げだ。
申請は輪投げで出していたので、もちろん余裕で通ったのだが、私達は当日ミニスカポリスのコスプレと手錠を準備し臨んだ。
そして開店10分で先生に止められた。
こんな姿ご両親に見せれるわけないだろう! と…。
別にいいじゃんね?
華蓮のお母さんなんて、可愛いって逆に喜んでたよ??
そんなわけで1年の時の模擬店は10分で営業終了した為、わたし達は最後まで会場にいなかったから知らなかったが、ミスコンの1位が登場するタイミングなんてあったんだ…。
「りのあ、服、寒くない?」
「確かに…ストッキングはけばギリいける?」
「まぁ文化祭と同じ感じなら、出るの少しだろうからそれまであのサッカー選手がベンチで着てるやつみたいなの着てればいけるかな?」
「あーあのダウンみたいなやつね!」
「誰か持ってるー?」
華蓮がそう聞くと何人かの男子が「持ってるぞー」と言った。
「なんとかなりそうだね」
「でもさ、商店街のイベントって一般のお客さんでしょ?」
「だね」
「雪菜の動画だしてもいいのかな? あれ出してもわかるかどうかって感じだけど…」
「た、確かに…」
「とりえず聞いてみよっか…」
「そだね」
私はそう言うとスマホを操作した。
ミスコン楽しかったなぁ。
雪菜になりきるってのが結構難しかったけど、彩春ちゃんのお陰で完璧と言えるほどになりきれたと思う。
顔はわたしだけどね。
なんかこう、わたしだと「えーい!」って行動しちゃうところも、雪菜になりきると「どうしようかな…」ってなる感じだ。
なんかこうむず痒くじれったくて、雪菜はよくこれで生活できてるなぁなんて思ったけど、これはこれで一つの魅力なんだろうなぁとも思った。
あっくんも、ああいうのがよかったりするのかな…。
でもでも、会場はすごく盛り上がってくれたし、頑張ってよかった!
わたしはわたしのままで行こう!
将来そういう仕事をやりたいってあっくんに伝えたし、たまにああやって違う感じになり切ってみるのも楽しそうだし!
今回は直人にかなり助けてもらっちゃったけど、発案はあっくんだ。
あっくんってなんだろ。
陰キャで引きこもりがちなくせに、結構要所要所でなぜか中心になる。
知れば知るほど吸い寄せられるブラックホールみたいだ…。
直人なんて今回の件なんて断ってもいいのに、もう一番その中心にいるから逃れられない感じだ。
まぁ直人もめちゃくちゃ楽しそうだったけどね。
撮影の時に受験は大丈夫なのか聞いたら、この前の模試でも今ままでもずっとA判定だから余裕だと言っていた。
うーん、なんか普通科の子達の受験と温度感が全然違う…。
普通科の子達はミスコンに出ることすら少し嫌がってる人もいるというのに、全然気にしてない。
まぁバカなわたしが、頭のいい二人の事考えたってわかるはずもないので、いいと言っているんだからそういうことだと思おう!
そんなことを思いながら雪菜に動画を放映してもいいのかメッセージをした。
するとクラスのドアがバンと開いた。
「菅谷先輩!!!!!!!!!!」
彩春ちゃんと茜ちゃんだ。
「どったの?? 入ってきなよ」
私がそういうと二人はクラスに入ってきた。
「先輩! ミスコン1位だから12月のイベント来ますよね?!」
と彩春ちゃんが聞いてきた。
「あ、うん、そうみたい」
「私達のクラスの模擬店に協力してくれませんか?」
「わたしが?」
わたしが聞くと茜ちゃんが、
「そうです! 私達のクラスくじ引きやることになったんですが、大当たりは菅谷先輩と写真が撮れるって言う景品です!」
「それ欲しい人いる?」
「私達は女子高生を集客します! 菅谷先輩wiwiでモデルやってるんで雑誌とか飾って、ちゃんと告知すれば完璧!」
「そういうもん?」
「あ、でも、告知とか大丈夫ですか?」
「あ、それは大丈夫だよ。別に言っちゃダメとか言われてないし、自分でモデル名のSNSやってる子とかもいるしね」
「であれば大丈夫です!」
と、茜ちゃんがずいっと身を乗り出してきた。
「あ、うん、別にいいよ?? むしろ写真ぐらい普通に撮るんだけどね?」
「ダメです! 安売りダメ絶対!!」
と彩春ちゃんが言った。
すると横から田原が話しかけてきた。
「菅谷うちの店でもなんかやってくれよー」
「どういうことよ」
「ほらー、俺ん家パン屋じゃん? イベントに出店する商店街のお店全部の中で、期間内で売上1位だった店は、来年好きな時に郊外のショッピングモールの商店街コーナー1カ月貸切って店出せるんだよー」
「へぇそんな競争もあったんだ。そもそも、その商店街の出店に部外者のわたしが出ていいの?」
「いいぞ。別に芸能人を招いたってかまわない。まぁ無理だけどな。芸能人を招くほどの稼ぎをその1カ月で得られるわけないからなぁ」
「へぇ、なんでもありなんだね」
「だから頼むよ~」
「ダメです! 菅谷先輩は私達が先約です!」
「ま、彩春ちゃんには文化祭の時のお礼もあるし、今回は彩春ちゃんと茜ちゃんの所かな!」
「そんなぁぁ。毎年大体寒い時期に刺さる蕎麦とかおでんとかに勝てねーんだよぉ」
「あ、田原そしたら…」
「どうした?」
「後で連絡する!」
「お、おう?」
「じゃあ彩春ちゃんと茜ちゃんの所で写真撮るってのはOKだから、なんか決まったら教えて!」
「「イエーイ!!」」
そう言うと二人はハイタッチした。
その後少し彩春ちゃんと茜ちゃんと話して、私は華蓮と一緒に帰った。
「田原のやつどうするの?」
「あっくんに聞いてみる」
「あーーーー。アーク来るって今結構やばいんじゃない?」
「だと思って!」
私は華蓮にウインクした。
「あっくんには色々お世話になってばっかりだねぇ」
「まぁ今回は聞いてみないとわからないけど、でもそうなんだよねぇ」
「りのあ、あっくん好きなの?」
と華蓮が何気なく聞いてきた。
んー…正直わからない。
もちろん好きだ。大好きだ!
ただ、それを言うなら華蓮のことだって大好きだ!
あっくんは男子の中では群を抜いて特別だけど、それが好きってことなのかどうかはわからない。
「んー、特別だけどわかんないな」
「そっか。でもずっと仲良しでいれるといいね!」
華蓮はそう言うとニコッと笑って話しかけてきた。
「そうだね!」
二人で写真撮影なんて人集まるのかなぁなんて言いながら、駅で別れてその日は家に帰った。




