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輝いている

「田原勉強教えてくれー!」




と声が飛んだ。




「え…え…えっとじゃあ…皆教科書……出して……」




すると、




「教科書なんて持ってねーよー!」


「え…じゃあ一体どうやって勉強を…?」


「問題集はあるぜー!」


「え……わからなかったときどうするの……?」


「もち飛ばすだろー!」


「……もうわからないところを教えるって感じじゃないから、テストの点数の取り方教えるね…」


「そんな方法あんのかよー!」


「お…俺が言ったとおりに問題解けば30分で8割はとれるから…」


「まじかよーーー! 天才かよー!」




と会場が言うと、手に持っていた紙を前に突き出してアピールタイムは終わった…。




司会1:「えーっとありがとうございました……」


司会2:「ところで手に持っているのは?」




田原君は近づいてきた司会に手に持っていた紙を渡した。




司会1:「えーっと、1学期の国語のテストですね…点数は82点ですね…」


司会2:「なるほど、本当に8割とれたと」


司会1:「それでいったい田原君は、何に?」


「…えっと……い…陰キャなん…で、ちょ…ちょっとこんなに…人がいると……」




と話すと、田原君は下を向いてしまった。


途中からわかってたけど、これ俺だよね……。こんな風に見えてるんだ俺……。


そう思いながら俺は額をおさえた。




司会2:「なるほど! あの田原君が、勉強ができる陰キャってことですね!」




「…は…はい…す…すいません……」




司会1:「え、いや…大丈夫ですよ…なんかあれですね、上手いですね陰キャ」




「…そ…そんな…こと…ないです…」




会場からは、恐らく莉乃愛のクラスメイト達だろうが爆笑しているのが聞こえてくる。




司会2:「な、なんかこんな場所に引きずり出しちゃってごめんなさいね……」




「い……いえ……」




司会1:「と、とりあえずありがとうございました! 田原健さんでした!」




と司会が言うと、田原君はスススッと早足でステージ脇に消えていった…。


俺が額を押さえてうなだれてると、




「ちな、あれ幼馴染くんがモデルな?」


「え…うん、流石にわかった…」




と話すと、ニカッと笑ってフェードアウトし再びステージが映された。




司会1:「まさかの陰キャにびっくりしてしまいましたが、次に行きましょう!」


司会2:「はい! それでは3‐8女性エントリー、菅谷莉乃愛さんの日常をご覧ください!」




司会がそう言うと会場から、「「「「りのあしか勝たん勝たーーーん!」」」」という複数の女子の声が飛んだ。


間違いなく華蓮さん達だ。




そして会場が暗くなり、莉乃愛の日常動画が流れた。


一回見ていたが、何回見てもすごい。


会場も動画の途中からザワザワしだした。


そして動画が終わると、ザワザワはより大きくなり、この撮影しているスマホ越しにも「やばくね」「てか可愛すぎだろ」みたいな声が聞こえる。




司会1:「え、えーっと、動画のクオリティがやばすぎてなんて言ったらいいかわからないんですが…」


司会2:「これ誰作ったんですかね…? もはや菅谷さんの完全なるイメージビデオですね…」


司会1:「と…とりあえず、それでは菅谷さんステージによろしくお願いします!」




そう司会が言うと、再び会場の照明が消えた。


今までにない流れなので、会場が再びザワザワすると、大型スクリーンに今度は雪菜さんの動画が流れ出した。


最後に、「西の中里 中里雪菜」と動画の最後に出てくると、会場がドッと沸いた。


そして、照明が着くと、ステージの端から莉乃愛が出てきて中央に立った。


莉乃愛は、動画の雪菜さんと同じ、セミロングに切った髪の毛をそのままおろして、白色で袖が少しボワッとした感じのブラウスの上に、茶色のチェックで膝上丈のサロペットワンピースを着ていて、キャメル色のボーラーハットを被ってる。



そして、




「す…菅谷莉乃愛です…よ、よろしくお願いします」




と、しゃべり方が雪菜さんにそっくりな、莉乃愛が一言あいさつした。



「西の中里 中里雪菜」でドッと沸いた会場が一気にシーンとなって、しばらくの沈黙の後、




「りのあやばすぎいいいいいいいいいいいいいい」

「これはやべえええええええええええええ」

「まさかの清楚系東の菅谷ああああああああああああ」




と、男女ともに会場は大興奮状態となった。


撮影している男子も、




「これはやばすぎる…惚れる……」




と心の声が漏れていた。




司会1:「えっと、今日イチの歓声というか絶叫というか…」


司会2:「そ…そうですね…でもこれはやばいですね…」


司会1:「は、はい…とりあえず質問してみましょう…」


司会2:「3‐8の菅谷莉乃愛さんでいいんですよね?」


「は…はい!」




というと、莉乃愛は優しい笑顔でニコッとして言った。


それを見た会場は再び大歓声。



司会1:「こ…これは……!」


司会2:「役得としか……!」


司会1:「菅谷さんはつまり、西の中里さんになってる感じなんですよね?」


「そ、そうですね。上手くできてるかわからないんですけど…」




と莉乃愛がちょっと下を向きながらモジモジと答えた。


それを見て会場は三度大歓声。




司会2:「やばいですね…俺達がやられちゃいそうです…。ちなみに菅谷さん、動画のクオリティが尋常じゃなかったですがどなたが?」


「えっと、友人に編集出来る人がいて…無理言ってお願いしました…」




と、手を前で組んで申し訳なさそうに少しだけうつむいて言う、雪菜さんのような莉乃愛。


雪菜さんのような莉乃愛の一挙手一投足に会場が沸く。




司会1:「あ、え、そうだったんですね…ってか西の中里さんとお知り合いだったことにも驚きです」


「あ、その、夏に皆で海に行ったので…」


司会1:「そ、そうなんですね…。それは俺も行きたかった…」


司会2:「え…えっと、菅谷さん会場の皆さんに伝えたいこととかありますか?」




「み、みんな応援してくれてありがとう。3‐8よろしくお願いします」




と、はにかみ笑顔で少しサイドの髪を持ち上げて、首をかしげながら莉乃愛が言った。


そして会場は大絶叫となった。







俺はそんな大絶叫の映像越しに、遠くに見えるステージでスポットライトを浴びる莉乃愛をボーっと見ていた。




なんだろ。


本当にすごい。


こんなにこういうところで輝く人がいるんだな…。




莉乃愛はやっぱり光の当たる世界の人間だしそこにいるべきだ。



確かに雪菜さんのような仕草や髪型だけど、これは莉乃愛だ。




いつもはあんなんだけど、家庭環境的にそうできなかったからか他の人にはあまり見せないみたいだけど実は結構わがままで、実は自分の行動に少し悩んだりもしていて、でも前向きで底なしに明るい。



そんな身近な莉乃愛だけど、やっぱり莉乃愛は輝いている。






俺のこれまでの陰キャ生活は、雪菜さんによってネットの表舞台に連れていかれ、莉乃愛によってリアルに連れていかれた。



陰キャ生活が嫌だったわけではないけど、むしろ好きだけど、二人のお陰で色んな経験ができている。



今回は直人に色々お願いしてしまったけど、これからも二人の力になれることはなろう。




俺はそんなことを思いながらスマホ越しの映像を見ていた。

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