【中里雪菜視点】あれが天然たらし
海、楽しかったなぁ。
高校に入ってから初めて、あんなに大人数で出かけた。
りのあちゃんも華蓮ちゃんも、凄くフレンドリーで話しやすいし、可愛いとか可愛くないじゃなくて、雪菜としてみてくれてる感じで嬉しかった。
それにしてもりのあちゃんすごいスタイルだったな…。
グラビアモデルみたい…。
私もDカップだし、そこそこだと思うんだけど、りのあちゃんとは比べ物にならないな…。
私はそう思いながら自分の胸を持ち上げてみた。
彩春と茜ちゃんは二人セットでアイドルみたいだし、華蓮ちゃんは小さくて元気で可愛いギャル系のモデルみたいだ。
もうナンパ凄かったもんなぁ。
その度に直人くんが飛んできてうまいこといなしてくれていた(笑)
直人くんは前会った時と変わらず、イケメンで気遣いがものすごくできる人だ。
ちょっとなんか軽い感じもするけど、皆が楽しくなるようにって考えてくれているのがわかるし、いい人だ。
お父さんは普通に一緒にいてくれたけど、芸能事務所の社長さんらしい。
芸能事務所の社長さんってカッコいいんだな…。
うちのお父さんなんてただのおじさんなのに。
そして湯月くんとは、二人っきりで夜の海を見ながら話しちゃった…。
海を見ながらで月明かりに照らされてなんて、どこの少女漫画だよ! って、自分でも思ったけど、これまでの事や、私がバーチャルをやっている理由なんかも話しをした。
だ、だって、外の空気吸いに行ったら湯月くんがいるんだもん!
そりゃ話すじゃん…。
邪魔だったかな??
でも、彩春以外で、初めてバーチャル配信者の理由をちゃんと伝えた。
なんか自分が可愛いって言っているようで言いにくかったんだけど、湯月くんは普通に聞いてくれた。
そ、それに、神秘的なほど美人って……!
私はその光景を思い出し、枕に顔をうずめた。
今まで美人って言われるのは、おはようぐらいの感じにしか思わなかったけど、湯月くんに言われるとなんだか少し違う…。
彩春以外で、私のリアルとバーチャルのどちらも昔からよく知っている唯一の人。
なんだかその人に褒められると、どうしても照れてしまう。
しかも湯月くん、自覚なしの本心で言うんだもん…。
これまで、アークさんも含めると、私が内心恥ずかしがっていたのは1回や2回じゃないんだよ!
あれが天然たらしって言うんだよきっと!!
でも、バーチャル配信者を始めて視聴者さんとは私の中身で付き合ってきたけど、今回海に行ったメンバーとは外見と中身セットで楽しく過ごせそうだ。
それもこれも、バーチャル配信者をやっていたおかげだし、湯月くんのお陰だなー。
いけない! 太田さんとのMTGの時間になっちゃう!
私は急いでベッドから出ると、オンラインMTGができるようにパソコンを起動した。
「お疲れ様ですー」
「お疲れ様ゆきはさん!」
「今日はどのような内容でしょうか??」
「ゆきはさん! マグカップが準備してた1000個! 1日で売り切れました!」
「あ、本当ですかー! よかったです!」
「本当凄い勢いだったよ!」
「そうなんですか?」
「うん! 追販ないのかって問合せまで来てるよ!」
「えー、嬉しいです!」
「私達としても感謝だよー!」
「視聴者さんが喜んでくれてるなら私も嬉しいです!」
「それとは別にもう一つ相談があって、もう一人来るんだけど、ちょっと遅れてるみたいだから待ってねー」
「あ、はい?」
「そう言えば海どうだった?」
「あ、めちゃくちゃよかったですよ! 写真見ますか?」
「見る見る!」
私はパソコンに保存した、女子5人で別荘のリビングで海を背景にして撮った写真を表示し画面共有した。
「うわーーー!! なにここーー! 別荘?」
「そうなんですよ!」
「しかもなにこれ、アイドルのオフ会?」
「みんな美人ですよねぇ」
「これナンパ凄かったでしょ?」
「はい(笑) もうどこかで誰かがナンパされてて、一緒に来た男の子があっちこっちでさばいてました(笑)」
「いや、やばいでしょこれ。キャバ嬢とかとはまた違う、純粋な可愛い女子5人ってのが何よりもいいね」
「そうなんですかね(笑)」
そうして写真の共有をやめた後、暫く太田さんと話していると、
「すいませーん! ボイトレが長引いちゃいました! こんにちはー柊まりんです!」
「え、あ、え…」
「あはは、ごめんね! 今日のMTGの参加者のもう1人はまりんさんだよ!」
「ひ、日向ゆきはです! よろしくお願いします!」
「あはは! 転生告知でコメントして以来だねー!」
「あの時はびっくりしました…」
「いやだって、転生の告知なんて前代未聞じゃん? そりゃ行くでしょ(笑)」
「でもお陰様で登録者もうなぎ上りになりまして…ありがとうございます!」
「いいよいいよー! それでさー、ゆきはちゃん今度OPEXの大会あるの知ってる?」
「はい知ってますよ! まりんさん招待選手ですよね!」
つい先日、プロゲーミングチーム主催のOPEXの大会が開かれると告知があり、まりんさんは招待選手として発表されていた。
「そうそう! それでさ、一緒に出ない?」
「え? 私ですか?」
「そう! 一緒にOPEXやろうって言ったし、ちょうどいい機会だなって!」
「え、私そういうの出たことないですけど?」
「私もないから大丈夫!」
「え、でも、私そんなにうまくないですよ?」
「それは今回ポイント制になってるから、デスト帯の人を連れてくれば丁度になるんだよ!」
「な、なるほど」
「だからどう?」
「私なんかでいいんですかね…ちょっと大会って勝手がわからないところはあるんですが…」
「いいよいいよ! 楽しくやれるのが一番!」
「そうですか…。じゃあお願いします!」
「よーし! あと一人だ!」
「まりんさんごめんね。無理言っちゃってー」
と太田さんが言う。
「いえいえ、大丈夫ですよ!」
「いやね、まりんさんがチーム組むとロイドさんとか大物が固まっちゃうからさー」
「あー、なるほどですね」
「それで、分散させてってお願いしたんだよー」
「そうだったんですか」
「ということでゆきはちゃんよろしくね!」
「はい!」
「あと一人どうする? デスト帯にしたいけど…やるからには勝ちたいし」
「デスト帯ですかぁ…私はデスト帯の知り合いはアークさんしかいないので…」
「あぁ! 育成枠の! いいじゃん! しがらみないし! 言葉遣い優しいし!」
「えぇ? それでいいんですか?」
「私もデスト帯の知り合いはいるっちゃいるけどさー、FPSうまい人って割と言葉遣い汚い人が多いからさー、一緒にいっぱい配信するとなると、視聴者さん荒れそうでどうしようかと思ってたんだよねぇ」
「確かにアークさんは言葉遣い綺麗ですね…死ねやコラ! とか言わないですもん」
「あはは(笑) そうそう!」
「じゃあ今度誘ってみましょうか?」
「そうしようよ! 私も呼んでよ!」
「わかりました!」
「太田さんアークさん大丈夫―?」
とまりんさんが聞くと、
「非公式育成枠やってもらってるし大丈夫ですよ! 違和感ないと思います!」
「じゃあそれで! 相談する日決まったら教えて!」
「わかりました!」
「じゃあゆきはさん今日はこの相談だったから、これで大丈夫です!」
「はい、ありがとうございました! まりんさんよろしくお願いします!」
「よろしくねー!」
そう言ってMTGを終了した。
OPEXの大会か。
どんな感じなのか想像もつかないけど、アークさん出てくれるかな…。
アークさんが一緒だと心強いんだけどな…。
私はそんなことを思いながら、湯月くんと二人で撮った海の写真をデスクトップに表示して眺めた。




