東の菅谷
その後、雪菜さんと日程調整をして、プラチナへの道シリーズの復活配信は3日後と決まった。
初回は他の配信者の方をいれず、昔の初回と同じ雪菜さんと二人での配信になった。
そしていよいよプラチナへの道の復活配信が始まった。
「こんゆき~。日向ゆきはでーす! お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが…私最近OPEXのプレイが伸び悩んでおりまして……そこで、より強くなるために、前世の記憶を頼りました…」
「前世でどうやってプレイしてきて、どうやってうまくなってきたのか。そしてある一つの答えに行きつき、私はその答えを探しに旅に出ました。なんの手がかりもない、そもそもこの世界にあるのかもわからない…そんな手探りの旅でした…」
『ざわざわ』
『こ…この流れは…』
『まさか!』
「しかし、私は見つけました。やっぱり生きていた。流石先生だ! そうです! 昔から応援してくれていた方々はご存じだと思います! 「教えてアーク先生!プラチナへの道!」再開ですー!!! ぱちぱち!! では、アーク先生お願いします!」
「えーアークです。皆さん初めまして。急に弟子が消えたと思ったら、同じなのに同じじゃない、そんな存在が目の前に現れました。弟子が消えてから、すさんだ生活を送っていた俺は2つ返事でオーケーし戻ってきました。どうぞこれからよろしくお願いいたします」
『アークきたー!』
『プラチナ道再開』
『アーク設定しゃべんのうける』
『spikeの動画で名前見たことある』
こうして日向ゆきはさんと俺はプラチナへの道を再開した。
驚いたのはゆきはさんの視聴者さんが、結構俺のことを知っていたことだ。
ゆきはさんの配信でも多くコメントされていたが、先日プロゲーミングチームに所属したspikeさんという方の動画に一時期よく映っていたからのようだ。
デスト帯に到達できたのも、この人に呼んでもらってたおかげなんだよなぁ。
それから、ゆきはさんと「教えてアーク先生!プラチナへの道!」として、定期的にシリーズ配信を行っていった。
次の回からはナナイロに所属していてOPEXで悩んでる方が@1枠を埋めるようになった。
以前は個人勢の方々が埋めていたその枠を、今度はナナイロの方々が埋めた形だ。
そして、プラチナへの道は、視聴者さんの間では『育成枠』と呼ばれるようになり、ナナイロ所属の方がOPEXで悩んだら育成枠に出演するという不思議な流れが産まれた。
それにより、俺のチャンネルの登録者数もぐんぐん伸びていき、プラチナの道再開後数週間で3万人を超えた。
今日もゆきはさんのプラチナ道で配信をしている。
最近大分立ち回りが安定してきたので多分大丈夫だろうと俺は思い、
「ゆきはさんそろそろランク配信再開してもいいかなと思いますよ~」
「本当ですかー?」
「はい、ショットガンの技術も上がって来たので、焦らなければプラチナ十分あると思います」
「その「焦らない」ってのが一番難しいんですよね~」
「わかるわかるー。ってかアークさんが落ち着きすぎでしょー」
そう話したのは、今日の配信で@1枠を埋めているバーチャル配信者の南雲リンカさんだ。登録者は30万人を超えており、ゆきはさんよりも先輩だ。
OPEXは既にプラチナランクに到達している実力を持っているが、ここからどうしたらいいのかわからないということで、リンカさんの視聴さん達が「育成枠に行ってこい」ということで、今回の参加となった。
「そうですねー。接近戦はもちろん技術もありますが、立ち止まらないとか上に移動するとかそういう立ち回りで、逃げない中で、与ダメを増やすというより、被ダメを減らすように考えた方がいいと思いますよー」
「なるほどね~。でもさ~敵が前に出てきたら撃ちたくなるじゃん!!」
「その気持ちはわからないでもないんですがね(笑) そういえばリンカさんって、大体ミドルレンジの実弾銃持ってらっしゃいますけど、他は使われないのですか?」
「ん~、色々試したけどあれが一番いい感じだったんだよね~」
「ひとつ前の試合で、最初光線銃もってらっしゃったじゃないですか?」
「あーあのネタ武器ねぇー! 他がなかったんだよねぇ!!」
「まぁあの武器はあれなんですが…もう一つのミドルレンジの光線銃使ってみたらいかがですか? あの武器はあれですけど…あれな割にエイムが良かったんで、もしかしたら光線銃の方がリコイル合いやすいのでは?…と」
「ほーなるほどー! あんまり使ったことないけど、次使ってみる!」
そして次の試合に挑むと、
「やっぱりなんか、音が軽いってかなんかしっくりこない~…」
「んー、でも当たるな…」
「当たるけどおおおお、なんかこう慣れないぃぃぃ!」
と言いながらリンカさんは、当たるけど気持ち的に納得できない銃と、ちょっと当たりにくくなるけど気持ち的に納得できる銃の間で悩んでいた。
「アークさん今日はありがとうございましたー!」
「うちもありがとー。光線銃どうするかはもうちょっと考える…。けど、光線銃の方が当たるから…」
「あはは、こちらこそありがとうございました! ゆきはさんランク配信されたら拝見するので是非やってみてくださいー!」
「はい! ではアークさんありがとうございました!」
そうして、自分だけの配信にして、視聴者さんに少しコメントを返して配信を終了した。
イヤホンを外し、お茶を取りにリビングに行くと、ダイニングテーブルに莉乃愛が座ってスマホを見ながら「うーーん」と言う感じになっていたので、何かまたトラブルかと思い、
「りのあどうしたの?」
そう聞きつつ、俺はお茶を飲む。
「んー、何回か遊ぼうって誘われてる男の子がいるんだけどさー、どうしようかなーって」
「へぇ、ま、なんか危険なことじゃないならいいんじゃない?」
「まぁ嫌いではないんだけどそんなに興味ないんだよねー。というか男子大体興味ないんだけどー」
と、莉乃愛は言い、俺はお茶を飲んでるのでカウンターキッチン越しに話してた。
「んー、あ、でも、そう言えば四谷の人だよ?」
「おお、そうなんだね」
「あっくん知ってる人かも?」
「俺が知ってる同年代は一人しかいないから…」
「八代直人っていうんだけど…」
俺はタイミングよくお茶を口に含んでいる状態でその名前を聞き、
「ぶふぉあ!!」
と、盛大に噴出した。
「え…な、なに? どうしたの?!」
「ゲホゲホ……ご、ごめん」
盛大にむせた俺に、母さんが横から「汚い…」と言いながら、キッチンペーパーを渡してきたので、俺は汚したところを拭いていると、
「まさか、その唯一の一人?」
「まさかの、その唯一の一人だよ直人は…」
「まーじーでーーーーーーーうけるーーーーーーー! そんな偶然あるんだねぇ!!!」
「いや、俺も本当びっくりした。思いっきり吹き出しちゃうぐらい…」
「いやーウケルウケル」
そう、莉乃愛はケラケラ笑っていた。
そこで俺は気が付いた…
「…え、もしかして、りのあって…東の菅谷?」
「あーそう言われてるねーってかなんであっくんが知ってるの?」
「いや、直人から聞いた。そう近隣の高校生に呼ばれてるって」
「そうなんだよねー。なんか番長みたいで嫌なんだよねー」
「俺も最初聞いたとき思った…」
「あ、ってかあっくんの友達ならあっくんと一緒に会えばいいか。『湯月新くんも一緒ならいいよ』っと」
「ちょ、ちょっとまってそれーーーーー!」
と、慌てて莉乃愛の方に向かうが、
「え? もう送っちゃった」
テヘっと、莉乃愛は舌を少し出しながら俺を見た。
数秒後、俺のポケットでスマホが鳴りだした。
「直人から電話だ…」
「出ないの?」
「一旦無視する」
しかし、永遠に鳴り続ける。
はぁ…とため息をつきながら電話に出ると、
「おい! 一体どういうことだよ! りのあちゃん…東の菅谷にお前と一緒なら会ってもいいって言われたんだけど!!」
「んーあーんー、面倒くさい」
「説明しろよおおおおおお!」
「あーもうわかったから、そしたら明日休みだし明日でいい?」
「俺はいいけど、あっちは大丈夫なん」
「わかんない。そこら辺は調整して。じゃ」
そう言って、電話を切ると、莉乃愛が、
「ウケルウケル、明日の予定そのままここで聞けばよかったのにーー?(ニヤニヤ)」
「んー、いや、どこまでの情報を開示するかりのあと相談しないとと思って」
「え…あ…うん、そ…そだね。ありがと…」
そう言って、莉乃愛とどうするかそのまま相談し、直人から莉乃愛に連絡が来てたので、莉乃愛が日程を調整した。




