匠と夏鈴と明莉
「Takuさんおつかれー」
「おつかれさまでしたー」
「しっかし、やっぱりAiroa強いっすねー」
「そうだねー、なんとか作戦で持ちこたえられるけど、火力が尋常じゃない」
「このランクだとちょいちょい当たるんでなんとかしないとっすね」
「そうだね、ちょっとまた考えてみるよ」
「たのんまーす、んじゃ俺落ちますんでー」
「おつしたー」
そう言うと俺はヘッドセットをテーブルに置いた。
俺は湯月匠15歳。
親父は、いわゆる天才と言うやつらしい。
親父が開発したホログラムディスプレイは今や生活に溶け込んでいる。
そして、その技術を応用して3年前に世界初のホログラムフィールドを実装したゲーム、グランドアースがリリースされた。
ホログラムフィールドとは、あらかじめ運営会社が宇宙空間に準備した完全ホログラムのフィールドだ。
更に専用のヘッドセットというかホログラムゴーグルを眼鏡のようにかけて、片方の手にホログラムスティック、もう片方の手にホログラムキーで操作する。
移動はホログラムスティックを使い、各種コマンドはホログラムキーを使う。
ホログラムゴーグルを通して見える世界は、もうそこにいるかのような錯覚に陥る。
グランドアースは、5vs5のいわゆるFPS系のゲームだが、初のフルホログラムで大人気となった。
俺もその一人で、リリース当初から初めて結構上位のランク帯にいる。
そして、グランドアースのホームページを見ると昨日の撃破数トップは、またAiroaか。
最近ちょくちょく当たることがあるが、個人の火力が尋常じゃなく、大体負けてしまう。
俺は個人の力量と言うより、パーティーを動かす方を得意としているが、あの火力差はどうにもならない。
どうにかできないものか…。
「たっくん!!! 行くよー!!!!!」
窓の外を見ると、明莉が呼んでいる。
「あぁ、今行くよ」
我が家は関係者が集まるマンションの3階。
一フロアぶち抜きで、広い庭もあり、マンション専用の庭まである。
これが普通かと思っていたが、小学校ぐらいで異常だということに気が付いた。
本当、親父は一体何者なんだ…。
いや、ホログラムディスプレイ作ったらしいけどさ…。
そんなことを思いながらマンションの玄関を出ると、
「おそーい! 13時に下って言ったじゃん!」
両腕を腰に当てて、少し怒っている明莉。
「ご、ごめんね?」
「こんなに可愛い子を待たせるなんて!!」
そう言いながらくるっと回る。
いやまぁ、明莉はまじで可愛いんだけどね。
15歳だっていうのにスタイルもいい。
しかも頭もよくて、もはや文句の付け所がない完璧女子だ。
「匠、どこいくのー?」
すると門から、母さんと夏鈴が入ってきた。
「あぁ、明莉が買い物に行きたいって」
「気を付けてね?」
「随分大荷物だね」
「夏鈴が新しいCPUが欲しいって言うから、ついでに色々ね」
「夏鈴またPC改造すんのか」
「ん!」
そう言って無表情で親指を突き上げる夏鈴。
無口なんだけど暗いわけではないんだよなぁ。
あと、夏鈴も兄のひいき目なしで美人だ。
「たっくん遅いー!」
「あーもうわかったわかった!!」
こんな隔離された世界で育ったせいか、俺は大体この二人と一緒にいる。
学校の奴らもうちの環境が怖いのかあまり近づいてこない。女子は特に。
完璧超人明莉さんはそんなことないんだけどね…。
はぁ…。
結局、
俺が仲の良い同年代の女子は、超ハイスペック陽キャな幼馴染と無口でオタクな妹の2人の美少女
だけなんだよなぁ…。
俺は明莉に引っ張られ、警備員さんに挨拶をして門を出た。
こうして、天才と言われる新が変化をもたらした世界で、その子どもである匠と夏鈴、直人と莉乃愛の子どもである明莉は、天才を巡る陰謀に巻き込まれつつ、近くて遠いその関係を変化させていく。




