解説のアークさん!
「法務の人が特許の事で確認したいことがあるらしいんだけど、部屋が空いてなくてセミナールームになっちゃったけど来てくれって」
「了解」
研究室でプログラミングをしていると直人からそんな連絡が来た。
もう夕方か。
そんなことを思いながら、廊下を歩いてセミナールームへ向かう。
ゆきはさんはあれからこれまで通り毎日配信をしている。
そして先週発売された1周年記念ボイスは飛ぶように売れているそうだ。
ちなみに俺も買ってみたが、雪菜さんだと思うと聴いている俺が恥ずかしくて、直ぐに聴くのをやめてしまった…。
更にYukiとしての活動も再開したようで、先日莉乃愛と一緒に撮影に行ったようだ。
莉乃愛は雪菜さんの事があった時も一切動画投稿頻度を落とさず、逆にコメント欄で心配されていた。
ゆきはさんの件でネットの色々なところでRinoの名前が登場したことにより、Rinoチャンネルはより登録者が増え、遂に20万人を突破した。
案件の相談もびっくりするほど来ているようで、受ける単価がうなぎ上りにあがっていっていると、直人が嬉しそうに話してた。
ちなみにアークはいつも通り。
配信が不定期になっているので、登録者は増えていないが減りもしない。
セミナールームってこっちだよな…。
そしてセミナールームというプレートが貼られた部屋の前に着いたので、中に入ろうとドアを開けた。
「やっほー! 突然始まる陰陽幼馴染チャンネルでーす!」
と、エプロン姿の莉乃愛がドアを入ったところでピースしながら言った。
「…」
そして俺はドアを閉めた。
「ちょっとー!」
中からドアを開けた莉乃愛に引っ張られセミナールームにいれられる。
「さー! アーク始まりましたよ幼馴染チャンネル!!」
「……始まりたくないです…」
「いえ、もう始まってますから! ね、華蓮!」
「回ってるよ~」
「……」
すると脇からエプロン姿の雪菜さんが近づいてきて、
「お邪魔します…」
「さーアーク! 今日は一体何をやると!」
「…料理対決かな……?」
「正解―!!!!!! 前回大分ご好評だったので2回目! ま、後はYukiも折角復活したしねー!」
そう言って雪菜さんと腕を組む莉乃愛。
美女二人がエプロン姿で腕組んでるって、もうこの絵だけで男性は喜ぶんじゃないだろうか……。
「はーい! さて今日も始まりました! Rino対Yukiの料理対決!!!!!!!!! 実況は前回同様あたしがお送りします!」
華蓮さんがカメラを持ちながら近づいてきた。
「Rino意気込みの程は?」
「そりゃ余裕よ!」
「コメントで随分と調理法をいろいろ言われていましたが?」
「それも余裕よ!」
「ぜーんぜん意味わかりませんがそういうことなんでしょう!」
俺も全然意味わからない…。
「Yukiは意気込みの程は?!」
「が、頑張るね!」
「今日も優等生! どうもYukiは男性ファンが多いようですが、見ている男性ファンに一言!」
「え、えぇ?! えっと、良かったら見ていってください」
雪菜さんはそう言うと、髪の毛を少しかき分けて首を傾げニコッと笑った。
「でたー!!! 本家本元Yuki!!!!! Rino! Yukiバージョン頂戴!」
華蓮さんはそう言うとカメラを莉乃愛に向けた。
莉乃愛はカメラが向くと直ぐに、立ち方を少し柔らかい感じに変えて、横の髪の毛をつまみながら、
「ど、どうかな…」
相変わらずすごいギャップな上に、あんな一瞬で切り替えられるのはすごすぎる。
「でたー! YukiバージョンのRino!!!!!」
「やっぱりすごいね。なんか私感あるね」
「Yukiもわたしやってみたら?」
「えぇ…こ、こう!」
そう言うと雪菜さんは腕を組んで仁王立ちした。
「Rino感あるけどやっぱりYukiだなーーー!!!!!! やっぱりYukiの儚さは、ちょっとやそっとじゃ消えない!!!!!」
「む、難しいね…」
目の前で繰り広げられている光景を俺は眺めながら、一体いつ始まるんだろう…と思っていると、
「さーRino、Yuki! アークが腹ペコで死にそうらしいので早速調理に移りましょう! 今日のお題はパスタ!!!!!!!!!!!!!! 腹ぺこアークなので大盛りで!!!!!!!」
「ちょ、ちょ、華蓮さん大盛りはやめて絶対無理だから!!!」
「しょうがないなぁ。普通盛りで!!!!! ではー準備はいいですかー?」
「ちょっと待ってー」
「少し待ってね」
「いいよー!」
「大丈夫!」
「ではよーいスタート!」
「さー解説のアークさん。今回はどんな戦いになるでしょうか???」
「え…俺解説するの…?」
「え、解説してたじゃんこの前」
「OPEX限定だよ…料理はできません…」
「ま、わかってたけどねー!!!! 今回は前回の反省を踏まえて同じ料理にしました!!!」
「え、ま、まさかだけど、パスタしか伝えてないってことないよね?」
「え、パスタだよ?」
「パスタって言ってもさ、例えばカルボナーラとミートソースでは最早全然違うような…」
俺が小さい声でそう言うと、華蓮さんは唖然とした。
そして、
「さーそれでは調理を見ていきましょう!!!」
あぁ…勢いで完全突破したな…。
だって二人が並べてる調味料全然違うもんね…。
どうやって比較しろって言うんだよ…。
俺はそんなことを思いながら2人の調理風景を見ていた。




