ラップサンド
昨日ゆきはさんは、復活の配信をした。
復活とは言っても、結果的には数日間なのでそんなに期間が空いたわけではないのだが。
数日間だったのか。
数週間かと思えるぐらい濃い数日だった。
「いやー本当早めに解決できてよかったねぇ」
今日は研究室に顔を出してくれている斎藤教授が話しかけてきた。
「本当です。教授のお陰です」
「いやいや、湯月くんも頑張ったじゃないか。しかし、人の役に立つってのは気持ちがいいもんだねぇ!!
「本当ですね…」
斎藤教授はそう言って腕を伸ばすと、パソコンに向かいだした。
「それじゃあこれからは、例のホログラムディスプレイに戻ろうか」
「はい」
「そういえば解析に使ったクラウドサーバーどうするんだい?」
「あ、やばい。解約しないとお金なくなるかも」
「え? 自分のお金でやったの?」
「あ、はい。なんか会社のカード使うの面倒くさそうだったんで…」
「いやいや! 結構金額いったでしょ! 大丈夫?! 清算しなよ?!?!」
「えっと…あぁ全然大丈夫です。後1,500万ぐらいはあるんで」
「…………動画配信者って儲かるんだねぇ………」
「そ、そうですね…僕は運が良かっただけですが…」
そんなことを話しながら、斎藤教授と今回の解析で作ったアプリケーションを別の場所に移動させ、クラウドサーバーから撤退し、元々研究室にあるサーバーを再構築していると研究室がノックされた。
「あ、あの…」
「雪菜さん?? どうしましたか????」
初めて研究室に顔を出した雪菜さんに驚きつつ俺は聞いた。
「あ、斎藤教授も。今回は大変お世話になりました!」
そう言って頭を下げる雪菜さん。
斎藤教授はきょとんとしているので、
「あ、斎藤教授。この子が今回狙われた、日向ゆきはさんの中の人です。中里雪菜さんと言います」
「え、あ、えっと、どういたしまして? いや、なんかびっくりするね中の人とお会いすると…」
「す、すいません! 日向ゆきはの中の人の中里雪菜です。本当ありがとうございました」
「いえいえ! お役に立てて良かったですよ」
「雪菜さんどうしたの?」
「あの、えっと…斎藤教授もいらっしゃると思ってなくて……あの、お礼を持ってきたんだけど……」
なんだか言いにくそうに下を向いている雪菜さん。
すると斎藤教授が、
「あらら? 年寄りはちょーっとコーヒーでも買ってこようかな~」
そう言って立ち上がり、ひらひらと手を振って研究室から出ていった。
「ゆ、雪菜さん?」
「あの、湯月くんが今回も色々調べてくれたって聞いて…」
「あ、うん。俺と斎藤教授だけどね…」
「う、うん…。それでお礼を持ってきたんだけど、斎藤教授もいらっしゃるってこと頭から抜けてて湯月くんの分しかないの……」
あぁ、そういうこと。
「そ、そっか。まぁ斎藤教授は非常勤だからいついるかわからないしね」
「そ、そうなんだ…それで、あの、これ…」
そう言って雪菜さんはそっと小さなトートバックを前に出した。
俺はとりあえず受け取る。
「お、お礼に作ったの! 食べて!!」
そう言うと下を向いてしまった。
俺は中を見ると、ラップサンドが8つ入ってた。
「ゆ、湯月くんは、きっとパソコン使いながら手が汚れず食べれた方がいいかなと思ってラップサンドにしたんだけど…」
もうほとんど後ろを向いてしまった雪菜さんは、そう恥ずかしそうな感じで言った。
「あ、ありがとう。お昼に食べるよ! それに手が汚れなくてながら食べができるのは嬉しい」
「ほ、本当?」
そう言って雪菜さんはこっちを見た。
「う、うん。た、ただね?」
「ただ………?」
「量が…多いかな…?? 俺の4日分ぐらいの量かも……」
「……やっぱり…?」
「うん……」
俺がそう言うと、雪菜さんが「ふふふ」と笑うので俺もつられた笑った。
「やっぱり多かったよね(笑)」
「そうだね…」
「なんか作り出したら増えちゃって、どうしようって(笑)」
「でも、ありがとね」
「うん……あ! そしたら、斎藤教授と分けて食べてよ!」
「あ、それでもいい? それだと斎藤教授へのお礼にもなるし」
「うん! 多めに作ってよかった!」
「そ、そうだね(笑)」
「お礼にさ何かって思ったんだけど、湯月くんパソコンかプログラムしか喜ばなそうだなって思って」
「あーー、それは間違いないかも…」
「だから、お昼に軽く食べれるやつがいいかなって」
「うん、ありがとう。すごく食べやすそうだよ」
「良かった! 本当にありがとね」
「いえいえ、お役に立ててよかったです」
「いつも感謝してます!」
そう言って雪菜さんは少し首をかしげながらニコッと笑った。
「こ、こちらこそ」
「最近は助けられてばっかりなんだけどねぇ」
「そ、そうですかね…?」
「そうだよー! あ、そろそろ行かなきゃ! お昼から配信して、今日は夜も配信するんだ」
「おお、そうなんですね。視聴者さんも心配してたでしょうし、日向ゆきはの元気な姿を見せてあげてください!」
「うん! じゃあまた!」
「はい」
雪菜さんはそう言うと研究室を出ていった。
俺はもらったラップサンドを一つ取り、残りを応接テーブルの上に置いた。
一応俺に作ってきたって言ってくれてたし、最初の1つは俺が食べておかないとな。
そう思いつつ、俺は雪菜さんお手製のラップサンドを食べながらプログラミングを始めた。
暫くして帰ってきた斎藤教授に、お礼の品だと言うことを伝えた。
しかし、斎藤教授も小食なので、結局5つも残ってしまい、賞味期限的なものは大丈夫だと勝手に納得して、研究室の冷蔵庫で保管しつつ、俺はそれから二日間ラップサンド生活で過ごした。




