想像もできない
「しかし、もっと時間かければもっと高く売れたんじゃないかなぁ」
「もう次のことやりたいなって思ってたので、早く終わらせたかったですしこれでいいです」
今日は斎藤教授と、報告がてらオンラインMTGの予定をもらっていた。
例の圧縮技術は特許の早期審査が通ったので、恐らくもう少ししたら日本では特許が通る。
他の国の状況はお任せしているのであまりわからないが、そこそこ時間のかかる国もあるらしい。
従って斎藤教授の論文発表もそれ以降になる。
「しかし、他の先進国でも特許を取るとは、やはり企業は手が早いねぇ」
「そこら辺はお任せなので僕にはわからないのですが…」
「おかげで論文発表に少し時間が使えるからよかったがな! ハハハ!」
「それならよかったです…」
「それで今日は一体?」
「あの、僕、友達が社長の会社の子会社で研究員をやることになったんです」
「ほぉ? あぁ、この前印鑑取りに来た子かな?」
「あ、はい、そうです」
「なんか親友らしいじゃないか!」
「そ、そうですね…」
「しかし、研究員ならよかったじゃないか! なんの研究をしている会社なんだい?」
「あ、何もしてない会社と言うか、本業は芸能事務所なんです」
「んん? では、なにを研究するんだい?」
「僕の好きにしていいと」
「あぁ、なるほど! あぁ! 確かに、お金はその会社に入るみたいなこと言うてたな!」
「そうなんです…。それで流石にただでもらうわけにいかないって言われて、好きなことを研究する会社を設立してくれると」
「なるほどなるほど。研究者にとっては夢みたいな環境じゃな! 予算があればの(笑)」
「予算はちょっとわからないんですが、もしよろしければ、斎藤教授にも客員研究員みたいな感じでご一緒頂けないかなと思ってまして…」
「ほお? 次は何をやるんだね?」
「あ、あの、実は、出来るか全くわからないんですが、ホログラムディスプレイを作ろうかなって…」
俺は少し恥ずかしい感じで言った。
だって、アニメとかSFとかに出てくるやつ作ってみたいって、なんか子供みたいじゃん…。
すると斎藤教授は、
「ほー! あのSFとかに出てくるやつか!」
「は、はい…。なんか面白そうかなって。以前シンポジウムで色んな発表を聞いた際に、ハードウェアも面白いなって…」
「なるほどなるほど! しかしハードウェアの開発となると、結構お金がかかるぞ?」
「まぁそうなんでしょうが…とりあえずは制御するソフトウェアと理論を考えて、ハードウェアの規格を作る感じでいければ、多少は抑えられるかなって…」
「ふむ。どこまでできるかわからんが、いいじゃないか! ちょっと客員研究員になるにはこちら側に手続きがあるのだが、まぁ情報処理系の論文発表を進めていく感じでもないから恐らく大丈夫だろう! やろうか湯月くん!」
「いいんですか?」
「もちろん! 予算がどれぐらいあるかわからんが、何も強制されない研究だけやる会社なんて、夢のようなフィールドだしね」
「ありがとうございます! そしたら、友達に相談して条件とか考えるので、またご連絡しますね!」
「うむ! では、私は早速外部団体への所属届を作るかの」
「よろしくお願いします」
俺はそう言うとオンラインMTGを抜けた。
よかった。
今回の圧縮技術を作って思った。
やっぱり第1線で研究をしている人たちは凄い。
俺が一朝一夕で追いつけるようなもんじゃない。
でも、今回人にも恵まれて運よく結果を得ることが出来た。
出来れば、これからも斎藤教授のような方と一緒に研究がしたい。
そう思った。
いきなり大学院に飛び込むという方法もあるにはあるが、大学院に入ってしまうと研究発表や研究費の切れ目で結果を出すという、少し本来の目的と違う目的が入ってきてしまうので、ちょっと敬遠していた。
それならば、斎藤教授に来てもらえばいいのではないか?
そんな安直な考えだったが、今回直人に準備してもらったこのxゲージは、こんな俺のわがままを体現したような場所なので、もしかして同じ人種なら? と思い誘ってみた。
特許の方はひと段落したし、これからはホログラムディスプレイだ!
あのヴイーンって出てくるやつ作ってみたいんだよ!
ほら、人の想像できることは実現するっていうじゃん?
SFやアニメだって人が考えたものだしさ。
出来るなんじゃないかなって。
何の根拠もないんだけどね…。
そんなことを思いながら、エンゲージの一室のただのパソコン部屋と化しているxゲージのオフィスで、アークのSNSを見たりして、配信でもしようかなと準備を始めた頃にディスボにメッセージが届いた。
ゆきはさんからだ。
『アークさんどこかで少しお話しできるタイミングありますか?』
『今でも大丈夫ですし、比較的いつでも暇ですよ!』
『いつでもって(笑) じゃあ今からボイスチャンネルいいですか?』
『はい』
俺はそう言うと、マイクをonにしてイヤホンをしてゆきはさんとのボイスチャンネルに入った。
「お疲れ様です」
「アークさんお疲れ様です! 急にすいません!」
「いえいえ、俺なんてパソコンかたかたしてるだけで、基本暇ですから(笑)」
「あ、なんか太田さんから聞きましたよ? またとんでもないことやったみたいですね!」
「聞きましたか…(笑) 偶然です」
「偶然で特許なんて取れないですよね(笑)」
「協力してくれる人もいましたんで…」
「でもすごいです!」
「あ、ありがとうございます」
「あのですね、そういう話聞いたり、りのあちゃんのRinoチャンネルとかも見たりして、私も何か新しいこと取り組みたいなって思ってモデル始めたんですね」
「見ましたよwiwi! 流石西の中里さんです」
「あはは(笑) なんか懐かしいねそれ」
「ですね」
「それで、私これまで日向ゆきはとして基本視聴者さんに嘘をつかない感じでやってきたじゃないですか?」
「そうですねぇ」
「だから、太田さんや華蓮ちゃんや凜香さんともいっぱい相談して決めたんです。日向ゆきはの中身はYukiだよって公表することにします!」
「お、おぉ?!」
「ど、どう思う…?」
「んー…そうですね、ちょっと本当に予想もできないですが、バーチャル配信の割合ですかね? あまりバーチャル配信がおざなりになると、なんかよくないことが起こるかも?」
「あ、はい! 基本はバーチャル配信者として配信していこうと思ってます!」
「それならきっと大丈夫なのではないかと…ちょっと自信ないですが…」
「視聴者さんからすると、中身は知らない方がいいのかもしれませんが、逆に隠したままモデルの活動するってのもどうなんだろうと…」
「非常に難しいところですねそれは…」
「そうなんです…」
「でもゆきはさんは雪菜さんですし、エンゲージも関わるなら、危険なことからも守ってくれるかと思いますし」
「そうですよね!」
「とりあえず俺は応援しますので、やってみましょう!」
「はい! 今日はそれがお伝えしたくて!」
「そうですか。いつやるんですか?」
「ちょっと太田さんと華蓮ちゃんと相談ですけど、近いうちにはって感じでしょうか」
「そうですか。見ますから是非教えてくださいね」
「わかりました! それじゃあまた何か決まったら連絡しますね!」
「了解です」
そう言うとゆきはさんはディスボのボイスチャンネルから抜けた。
バーチャル配信者の顔出し…。
どうなるんだろう…。
想像もできないな…。
でも雪菜さんが決めたことだし、応援することしかできないな。
俺はそんなことを思いながら、そのままソロでアークのOPEX配信を開始した。




