直人ごめん
「お世話になっています」
「やぁやぁ湯月くん、元気だったかい?」
「お陰様で最近は勉強する範囲が増えて手一杯な感じではあるんですが…」
.vsjファイルを再生できる仕組みを作り、斎藤教授に今日はそれを画面共有で見てもらうのと、今回のプログラムについての総評をもらう為、オンラインMTGをやろうということになっていた。
「では早速vsjファイルを再生しますね? 画面共有なので、あまり綺麗には見えないかもしれませんが…」
「いやいや、まさかちゃんと再生できるとはね!」
「教授のお陰です」
「いやいや、基本構造は君が殆ど一人で作ったようなものだしね」
「でも、斎藤教授の発想がなければ恐らくできませんでした…」
「ハハハ! そんなことはいいから再生してくれたまえ!」
「はい」
俺はそう言うと、vjsファイルに変換した、文化祭の時の莉乃愛の動画を再生した。
「音飛びもずれもなさそうだね…。ファイルサイズは4Mだっけ?」
「はい。元ファイルは800Mほどありました」
「いやーーー、これは素晴らしいねぇ!!!」
「本当ありがとうございます」
俺はそう言うと画面の前で深々とお辞儀した。
「ところで湯月くん、このプログラムどうするんだね?」
「どうしましょうか…。このままだと出来ただけで、このパソコンでしか再生できませんからね…」
「論文発表とかしないのかね?」
「そういうのは苦手なので…」
「こんな革命的な技術なのに! しかも、ちょっと調べたけど、これ特許とれそうだよ?」
「特許ですか?」
「そうだよ! 量子化の方式が全く新しいものになったから、なんと取られていないんだよ特許!」
「そ、そうだったんですね…」
「こんなにいい技術眠らせるのはもったいない! 是非発表すべきだ!!」
「そ、そうですか…。では斎藤教授に差し上げます」
俺が間もおかずそういうと斎藤教授は少し沈黙して、
「そんなことはできない! これは君の技術だ!」
「いえでも、量子化の所は正直斎藤教授の知恵も相当に入っているかと思いますので…」
「そうかもしれんが、これは君の技術だ! 研究者としてそんな横取りみたいなことは出来ん!」
「あ、いや、普通に差し上げますので…元々僕がプログラミングの勉強をするために設定した勉強目標みたいなものですから…」
「ならん! 私のプライドが許さん!」
「そ、そうですか…」
「だからこの技術は君が好きにしていい」
「そう言われましても…」
「それに、特許をとれば売ることだってできるぞ?」
なるほど。
別に持っていてもどうしようもないのなら売ればいいのか。
そんな売れるほどのものなのだろうかこれ…。
「なるほどですね…では、もし売れたら斎藤教授にも半分お渡しするってのでどうでしょう」
「いらん! それは君のものだといったろう?」
「しかしそれでは……」
「んー…そこまで言うならわかった! 特許申請の際に私を共同発明者にしてくれないか? 恐らく売却した後は無理だが、売却前に私の研究実績として論文発表してもいいかい?」
「問題ありません」
「もちろん売却に関しては君が決めていいし、私は何の権利も主張しない。その代わり私の名前を加えてくれると嬉しい」
「わかりました…。では斎藤教授を共同開発者として特許申請してみます…」
「さーて、そうとなったら売却完了するまでに私は論文を書かなくては! ではまたね湯月くん!」
「はい」
斎藤教授はそう言ってオンラインMTGから退出した。
特許か。
考えてなかったな。
でも斎藤教授の名前がより多くの人に伝わるのであればいいことかもしれない。
売れるのかな…。
ただ持ってるだけなら、特許申請費用勿体ないな…。
そんなことも思いながら、弁理士の知り合いなんているわけもないので、再び直人に連絡を取る為、スマホで通話した。
「どうしたー? もう死にそうなぐらい忙しいんだからな俺」
「直人ごめん。ちょっと相談したいことがあるんだけど…」
俺がそう言うと直人は沈黙した。
「嫌だ」
「いやまだ何も言ってないじゃん」
「嫌だよーーーー!!! 今度は何だよーーー!!!!! 俺を殺す気かよーーーーー!!!!!」
「あ、いや、今回はそれほどでもないかと…」
「はぁ…なんだよ」
「いや、実は見て欲しいプログラムがあって、近々どこかで直接会える時間作れないかな?」
「プログラム? 俺プログラムなんてわからんぞ?」
「あ、プログラム自体は良くて、それで実行できることを見て欲しいんだよね」
「なんかよくわからんけど、ちとスケジュール確認して空いてるところ送るわ」
「了解」
その後直人から連絡が来て、明日の直人の空いている時間に少しだけ時間をもらうことになった。
そして、翌日18時にエンゲージの会議室に俺は向かった。
「あーすんません、ではその価格でお願いします…」
俺が会議室に案内されて待っていると、直人が電話をしながら入ってきた。
「いやぁ、しかし、バーチャル配信者って本当色々準備大変なんだな」
「まぁ衣装1つで結構変わっちゃうからね」
「そうなんだよなぁ。んで今日はどうした? 急に時間とって欲しいなんて」
「ああ、えっとね、ちょっとこれ見てくれる?」
俺は鞄からノートパソコンを出して、文化祭の莉乃愛の動画を再生した。
「りのあちゃんだね」
「そう、これね、直人にもらったMOVファイルじゃないの」
「うん?」
「なんかさ、ネット動画ってどうしても画質落ちちゃうじゃん? あれなんかもったいないなと思ってさ。OPEXとかすごい綺麗なマップだし」
「う、うん??」
「だからネット動画で直人の会社で編集したレベルの画質の動画を見れるように、新しい動画の圧縮形式を作ったの」
「はい?」
「これ直人からもらったファイルと見比べてみて。ほとんど画質変わらないから」
「え?」
直人はもう完全にぽかんとしている。
まぁなに作ってるかとか言ってなかったし、突然聞いたらそりゃそうか…。
俺はそんなことを思いながら、直人からもらったMOVファイルを再生した。




