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【八代直人視点】エンジョイ大学ライフ

「あー、俺一応大学1年生なんだけどなぁ~………」


「ほら、直人行くぞ…」


「へいよー」





俺は八代直人。今年から慶都大に通う、大学1年生だ。


高校3年になったころから、親友の新の周りで面白いイベントが目白押しで、そのイベントを楽しもうと高校最後の3か月ぐらい彼女無しで過ごした俺は、大学に入ったら合コンにサークルにと、大フィーバーする予定だったんだが……。


そんな俺は今、今日の合コンが行われる飯屋ではなく、ナナイロという会社が入居するビルの前にいる。




なんでこうなった!!!!




4月に入ってすぐに親父に呼び出されて、なんだかうまいこと言われて、動画配信者事務所の社長をやることになった。


やると言ったからにはエンゲージをいつか超えてやると意気込んだものだ。


新の配信者名であるアークに所属してもらうことで、事業計画の基盤を作ろうと考えて頼んだら、新は直ぐに了承してくれた。


ここまでは良かった。



そしたら、数日後にその新が、ある話を持ち込んできた。


ナナイロ社内のごたごたで異動になったマネジメント部門の元責任者を引き抜き、俺が社長の新しい事務所でバーチャル配信者もマネジメントするのはどうかと。


そしてついでと言わんばかりに、りのあちゃん達も所属することになり、それでここまで考えた事業計画が一気に崩れ去った。


だってりのあちゃん達が来るのなら、正直案件とかも獲得していきたい…。


あのチャンネル、めちゃくちゃ価値高いんだよな…。


りのあちゃんが良いも悪いもはっきり言うから、めっちゃ褒められた洋服ブランドは品切れを起こし、苦言を呈された下着メーカーは涙目。


だから視聴者さんはりのあちゃんの言葉を信じる。


もうそんなん、アーク中心に考えてたゲーム実況中心なんて、りのあちゃんを殺すことになりかねないからダメだ…。


こうして事業計画は作り直し。



ギリギリ、ギリギリだけどここまでは耐えれた。ここまでは…。



新が持ち込んできたナナイロの話を進めていくと、社員が10人ほどと動画配信者も移動する可能性があると。


もうそれ実現しちゃったらまた0から作り直しじゃん…。




そんな現実に心が折れそうになりながらも、もうあーだこーだ言ってもしょうがないし、いきなり9人ナナイロから社員が転職してくることとなり、親父の会社からも何人も人を借りてる。


これだけ多くの大人の人の今後がかかってくると思うと、ちゃんとやらなきゃなとは思って、大学の合間と言うか、圧倒的に時間が足りずかなり授業も休んでしまったが、新会社の立ち上げに向けて準備を進めた。


配信者の移籍は、最初は雪菜ちゃん1人ぐらいの移籍かなと思っていたから、まぁナナイロもうちみたいな古い芸能事務所と揉めたくないだろうし、なんかこうなし崩し的にいけるかと思っていた。


しかし、太田さんや転職してくる社員さんの話を聞いていると、休止している配信者は全員移籍したいと思うということで、そうなると流石になし崩しなんてできない。



だって11人もいるんだよ…。


11人の合計登録者数700万人超えてるんだよ……。




それを聞いてからは、方針を正式な交渉に切り替えて、親父が連れてきてくれた弁護士やら証券会社の人と移籍金の算定を進めた。



これ全部でいくらかかるんだろう…。


移籍金だけでもかなりの額行くけど……。



と思いつつも、あまり休止期間を長引かせるわけにも行かないということで、ちょ早で準備した。


小平さんは、正式にナナイロを退職してからは、エンゲージに泊まり込んで準備もしてくれて、正直小平さんいないと無理だった…。


ナナイロ初期から携わっていただけあって、イラストレーターさんや機器メーカー等俺の親父にあまりつてがないところに、幅広い人脈を持っていて、本当によかった。


てかナナイロ、この人を左遷するのはどう考えても間違ってるだろ…と思うほど仕事のできる人だった。



そして、ついにナナイロさんとの交渉を行うのが今日だ。




俺のエンジョイ大学ライフ帰ってこいーーーーーーー…………………………




「社長行きますよ」


「小平さん、社長はやめてくださいってー。直人でいいですー」


「そう言うわけにはいきません」


「そうですか……」


「では、連絡しますので、代表と社長は少々お待ちください」




ちなみに代表がうちの親父で、社長が俺だ…。


小平さんが受付エリアの脇で電話して暫くすると、5人出てきた。




「やー、小平さん、久しぶりって感じでもないですね。まさかこんなに早くもう一度会うことになるとは」




と、挨拶してきたおじさんが恐らくナナイロの社長さんなのだろう。




「こちらこそ、在職中は大変お世話になりありがとうございました」


「まぁここじゃあれなんで、会議室行きましょう」


「よろしくお願いします」




というと、社長さんと他の4人の人が奥に向かい、小平さんがそれに続き、俺等も続いた。


俺達は、親父に小平さんに俺、あと弁護士と証券会社の人が1人ずつだ。


大きな会議室に案内され、とりあえず全員と名刺交換をした。


俺もVゲージの社長としての名刺がある。


そして噂のコンサルさんはヴェリエスジャパンの木田さん。


聞いたことのない会社だ。




名刺交換が終わり全員が着席すると、小平さんが話した。




「吉川社長。こちらエンゲージの社長の八代さんです。今回私にお声がけ頂いた方になります」


「エンゲージ代表の八代と申します。近いようで遠い業界ですから、こうやってお会いできまして光栄です」


「いえいえ、こちらこそ、普段ではお会いできないですし、大変光栄です。実は私夏川りささんのファンでして…」


「あ、そうだったんですね、いつもありがとうございます!」




と言って、親父と吉川さんが雑談を暫くしたところで、親父が本題を切り出した。




「お互い事務所とは言ってもやっぱり本当違うんですねー」


「いやー、本当我々新興の動画系の事務所は見習わなければならないことも多く…」


「いえいえ、それは我々も同じですから! それで今回なんですが」


「はい、小平さんから軽くはうかがっています」


「ありがとうございます。実は今度息子が立ち上げる動画配信者の事務所に小平さんに来てもらって、お手伝いいただくこととなりました」


「はい」


「その件につきまして、お話しさせていただきたく、本日お時間を頂いた次第です」


「はい、大丈夫です。回りくどい感じはやめて、ザックザック行きましょう。それの方が認識の相違も生まれにくくなりますから」


「そう言ってもらえますと我々としてもありがたいです」


「あれですかね、今退職願が出ているマネジメント部の社員はそちらに行かれるんですかね?」




と、吉川さんはズバッと聞いてきた。




「はい、その予定となっております」


「大丈夫ですよ。その件については、本人たちの自由ですし、弊社内も大きく動いているタイミングで、少しかわいそうなことをしてしまいましたから」


「そうですか、それならよかったです」


「本題はそれってことはないですよね?」


「そうですね、新会社を小平さんと準備する過程で、もし可能であれば以前ナナイロさんでマネジメントしていた配信者を助けたいともらっております」


「そうですよねー…」


「資料を配っていただけますか?」




そう親父が言うと、証券会社の人が立ち上がり、資料を配布した。


配布した資料には、移籍候補の11名の活動開始日や2日前時点のチャンネル登録者数等がまとめられている。


しばらく時間をおいた後親父が、




「こちらに記載のある11名の方々で、本人が希望する場合のみ、移籍可能としていただけるか、そのご相談で本日は参っております」




吉川さんは資料をみながら、




「まぁそうなりますよね。我々としても現状のままでいいとは思っておりませんので何とかしたいところではあるのですが…」


「はい。次の資料お願いします」




と直人の親父が言うと、再び証券会社の人が資料を配った。


対象者とそれぞれの移籍金をまとめた資料だ。




「こちらは、同席しております、弊社の弁護士と証券会社さんのお力をお借りしてまとめております」




と親父が言うと、名刺交換の際にコンサルタントだと名乗った木田さんが、




「どう考えても安すぎます!!!」




と、少し強めの口調で言った。




「では、どれぐらいの金額感をお考えなのでしょうか?」




と親父が言うと、




「一桁は足りませんね。ロイドやまりんなんて100万人超えてるんですよ??」


「そうですね、そのようにこちらでも認識しています」


「それがこの金額はあり得ない!」


「しかし、現在活動休止されているのでは?」




と、親父が言うと、少しチッみたいな表情をしながら、




「そうですが、登録者数は大きく変わっておりません」


「そのようですね。しかし今後復帰のご予定はあるのでしょうか?」


「現在社内で調整中ですのでお答えできません」


「なるほど、我々としては誠意ある妥当な金額を算出したつもりはあるのですが」


「誠意と仰るのであれば、せめて例えばこのメンバー全員の1年分の売上を担保したいところです」


「なるほどですね」




と親父が少し考えるようにうつむいた。


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