【菅谷莉乃愛視点】果たして
3月中頃に父親から連絡が来ていたことを、あっくんに相談した。
すっかり忘れてて、少し遅くなっちゃったけど…。
自分の抱える問題よりも、これまでにわたしが改造に改造を加えたあっくんが、「んーー…」と真剣に悩んでる姿が、正直かっこいい。
もちろんあっくんのことは大好きだし、わたしにとっては特別だ。
色々迷惑をかけちゃうことがいっぱいあるけど、あっくんはいつも助けてくれるし、つきあってくれる。
正直、ご飯食べてても、ゲームしてても、何しててもかっこいい。
それが好きってことなのか? と言われると、よくわからない…。
好きって何だろう。
とりあえずバカなわたしにはわからないから一旦置いておこう。
そして今回もあっくんが色々調べてくれて、直人の会社が協力してくれて、お父さんと実際に会って話すことになった。
あっくんが途中お父さんに怒られているのを見た時は、いつも先回りで考えを持ってるあっくんでも失敗するんだなぁと不思議な感覚になった。
怒られて、お父さんに嫌味を言われてムカついてるあっくんもカッコよかったけど…。
そして当日、再びわたしの家に行くと、なんだか昔より随分すさんだ感じの父親と、これまたドラマに出てきそうな胡散臭い感じの人がいた。
冷静に話を聞くつもりだったのに、途中から意味不明で、結局感情的になっちゃった。
その瞬間にあっくんに声をかけられて、沸騰したやかんのようにヒートアップしたわたしの頭は、シューっと音を立てるかのようにクールダウンした。
正直あれは恥ずかしかった…。
ヒートアップしていることが自分でわかっていて、あっくんになだめられた瞬間に温度がさがっていくという、なんてわたしの頭は単純なんだと…。
これじゃ直人にバカにされるのもしょうがないのかもしれない…。
その後三津屋さんを家に呼んでからは、三津屋オンステージ。
胡散臭い安居っていう人は逃げて行っちゃうし、父親は反論の一言もない。
反論っぽく言ったことと言えば、お金がないってことだけだ。
まぁお金がない理由はよくわからないけど、ないなら自分で働きなよ……。
自分の父親ながら本当ダメな人なんだなと再認識した。
三津屋さんは解決する方法があるということだったが、「関係者がわたしの為にもちよった費用」と言うのは初耳だった。
三津屋さんの事務所に移動する車の中であっくんに聞いてみると、あっくんのお父さんが出してくれるということらしい。
いやいや。
いやいやいやいやいや!!!!
そんなほいっと出すような金額じゃないじゃん!
と思いつつも、あっくんのお父さんの例えがわかりやすく、納得できないこともなかった。
でも、やっぱり…と思っていたが、というか今でもむしろ思っているが、わたしの未来のためにと言ってくれてるお父さんをあんまり否定するのもどうなんだろうと思い、一旦納得した。
そして三津屋さんの事務所で、父親に最後の別れを言い、わたしはなぜか泣いてしまった。
別に悲しくもないし、つらいとも思っていない。
むしろ縁が切れてせーせーする! ぐらいの気持ちなのに、今日で最後かもと言われた父親を見たら涙が出た。
本当に理由がわからない…。
なんかこう、胸にあるつっかえが取れたのと同時に、お母さんも一緒だった小さい頃の菅谷家の記憶自体も薄れていくような、なんかそんな感じだ。
でも、帰りの車で落ち着いてから、気持ち通りすっきり前を向けた!
わたしは幸せにならなくちゃいけない!
「っと言うわけでさー、華蓮だけの内緒だけど、1,000万円あっくんのお父さんが払っちゃったのだよー」
と、今日泊りに来ている華蓮にわたしが話しかけると、
「まじ」
と、驚愕の表情を浮かべた。
昨日お父さんと話して、華蓮がどんな感じになったか今日聞きに来た。
ついでに今日は泊って行って、明日はそのまま撮影して、エンゲージに行く予定だ。
「うんー」
「やばいね…。そんなお金ポンって出るんだ…」
「ポンってでたのかどうかはわからないけど、まぁみんなの雰囲気見てるとポンって感じだね…」
「まじか。でもお父さんは別にそれを返せとかそう言うことは言ってないんでしょ?」
「まーったく、でもさ、一応わたしは本当の子どもではないわけじゃん?」
「まーそうだね」
「それで果たしてこのままでいいのかと…」
「んーーーー! ムズイねそれーーー」
「しかもさ、いつもだったらあっくんに相談したら考えてくれるのにさ、今回はさ「別にいいんじゃん?」で終わりだよ?」
「なるほどーー。頼みの綱の頭脳が使えないと…」
「でもさー、あっくん家お金持ちっぽいからさ、果たしてわたしが将来そのお金を返して喜ぶのかとも思うんだよね…」
「難しいよねー。「あ、そうなんだ、別によかったのに」ぐらい言われそう…」
「そうなんだよーーー! それで華蓮マネージャーに聞いてみた!」
「んーーー、まぁここは難しいことはやめて、とりあえず1,000万貯めるということを考えたら?」
「それでー?」
「たまったらその時考える!!」
と、華蓮がドヤっと言った。
「まぁでも確かに? たまってない時に考えても意味ないか!」
「そうだよ! 考えたってないんだもん!」
「確かに!」
「それにたまるころには、もしかしたら何かお父さんやあっくんの家に返して喜ぶものがあるかもしれない!」
「確かに過ぎる!」
「お父さんが車を欲しがってるとか! 夫婦で旅行に行きたいとか!!」
「ある! よーし、そうとわかったら、企画考えよーっと!」
「あたしも編集しよっと!」
そしてその日は二人でワイワイしながら、動画の編集をしたり企画を考えたりした。
次の日家で撮影を終えてエンゲージに行くと、直人と凜香さんが待っていた。
「りのあちゃんと華蓮ちゃん、詳細の条件考えたから説明するねー」
会議室に入って座ったわたし達に直人が言った。
「おっけー!」
「いや、まだ何もしゃべってないから…」
「あたしもおっけー!」
「ちょ、ちょっと華蓮ちゃんまで…」
「だって直人がこれって言うんならそれがいいでしょ」
わたしは大まじめにそう言うと、
「…一応、希望はかなってると思うから…。要約すれば少し事務所が運営費用をもらう代わりに、色んな雑務や調整やるよ。動画チャンネルの収益は希望通りの割合になってて、グッズは事務所の取り分が多いよ。そんな感じなんだけど…」
「おっけー! じゃあ、凜香さんマネジメントの話しましょう!」
と華蓮は右腕を突き上げて言った。
「そうねそうね! 小難しいのは直人に任せておきましょう! あ、華蓮ちゃんさ、直人の方の所属のアークさんもマネジメントしてくれない?」
「いいですよ!」
「幼馴染チャンネルもあるし、それが一番都合いいかなと思って。後、うちの会社でOPEX詳しい人いないから困ってたのよねー」
「意外に知ってますよあたし! 研究所の右裏の崖の下に金武器あります!」
華蓮はドヤ―ッと言った。
「あ、えっと、そうなの?」
「です!」
「そ、そうなんだ…あはは(笑)」
華蓮はアークの配信やゆきはの配信をちょくちょく見ていたみたいで、それで結構OPEXの知識はある。
ただ、あのゲームやるとめちゃくちゃ難しいんだよね。
一回動画に出来るか、わたしと華蓮もやらせてもらったのだが、すぐ死んでしまう。
いや、動き早すぎだって!
銃で撃たれる経験なんてないから、物陰隠れるとか普通しないし!
雪菜よくあんなのできてるわ!!
「まぁ華蓮ちゃんそういうことだからアークさんもよろしくね! じゃあ、早速なんだけど、今度のwiwiの撮影なんだけど…」
そう言って、契約書をないがしろにされてあきれ果てている直人をよそに、三人でwiwiの撮影について話だした。
wiwiのお陰で今のわたしがあるようなものだから、凜香さんにお願いして、wiwiに載るのはお願いされる限りは。以前と同じ金額でと伝えている
さーて、久しぶりの撮影だし気合入れなきゃ!
最近動画が忙しくて動画のことばっかりだったし!!
お父さんのこともすっきりしたから、後はひたすらできることを精一杯頑張るのみ!!!
わたしはそんなことを思いながら、凜香さんと華蓮に今までの撮影時の流れを伝えた。




